だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2006-09-18ハナクソリズム

心の旅3

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「よろしくお願いします」

虎はなんと人語を喋った。年を経た虎は人語を解すというが、僕はまだ硬直を解くことができない。口は動かず、ご丁寧にどうもとだけ思った。


仙人は消え、僕は虎と竹林にこもり萌を学んだ。学んだといっても、虎は余り喋らず、僕は虎に竹林に様々な生き物を紹介されるだけだ。しかし全ての生き物が虎のように喋れるわけでなく、僕が一方的に喋って終わりということがほとんどであった。


数ヶ月が過ぎた。

今日は、誰と会うんですか」

既に、虎への恐怖は消えていた。畏怖と尊敬と、信頼だけがある。

「もう、この山の全ての生き物と会いました。おしまいです」

「…そうですか」

残念な気持ちを隠せなかった。私はいつの間にか、生き物との会話そのものに楽しみを見出すようになっていたのだ。私が、何故ここにいるのか、その目的を忘れたわけではないのだが。

「萌が、わかりましたか?」

虎は、真っ直ぐな目で僕に聞いた。

「わかりません」

僕は、正直に答えた。

虎は、残念そうに「そうですか」と言った。

「私は、仙人様から、全ての生き物と話した後も、あなたが萌えをわからなければ、食い殺せと仰いました。私はあなたを殺さねばなりません」

「そうですか」

このとき僕の心は、細波すらたたず、澄んでいた。この美しい虎に殺されることに、清々しい誇りすらあった。僕はすんなりと、死を受け入れた。


僕は生きるために、会話した生き物を殺して喰った。最初は涙が出た。しかし、僕がここに生きているということは、そういうことなのだとわかってからは、涙も出なくなった。だが、僕はまだ、あの涙の後始末を望んでいたのかもしれない。

「どうぞ。あなたに食べられるのなら、それでいい」

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