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2006-09-21フェイス以外全部レス

健全な殺意

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純粋殺意程、弱く脆いものはない」

「そう?」

「そうだよ。例えば、君が強い性欲に動かされて、自慰行為を行なうとする。おっと、例えばの話だよ。例えば。…で、それはほぼ純粋なものだろう。一つの強力な欲望しか依らない行為だ。だが、行為の終了と共に、それは消えうせて、後には後悔だけが残る。ああ、また僕はやってしまった。あの人を汚してしまった。もっと単純には、片付けるのが面倒だ」

「一つのものに依ることの弱さと言いたいのか」

「複合的な動機やモチベーションなら、また違った後味になるだろう。人は目的を持つだけで同じ行為に満足を得られる生き物だ。……さて、殺意の話に戻ろうか」

「……」

純粋殺意、他者を殺したいという強い気持ち、それだけが人を殺す理由だとしたら、それは不幸だ。人を殺すといこうことが、現代において、社会的、人道的に悪徳であることを知る我々にとっては、それは取り返しのつかない悪業なのだからね」

「既に23人もの人間を殺したあなたもそう思う?」

「思うさ。もちろん。そして純粋殺意のままに人を殺した彼/彼女は、殺意の充足と共に、きっと苦しみ続けるだろう。そしていつか裁かれるだろう。裁くのは、社会か、彼/彼女自身かはわからないが、必ずね。この悲しみの原因はね、不健全な殺意にある」

「あなたの殺意は健全なのか?」

「健全な殺意は健全な精神と肉体に宿る。僕の殺意は健全さ。必要なだけ、我慢して、安全に、確実に殺している。人殺しが悪いことだと考えているからこそできるんだ。僕の好きなヒーローディオという男がいる。彼は目的のために殺人でも何でもやる男なんだが、彼を追う男が彼に聞くんだ。『貴様、一体、何人の人間を殺した!』それにディオクールに聞き返す。『貴様は、これまで食ったパンの数を覚えているのか?』ははは、名言だ」

「それが、あなたの理想か」

「少し違う。これはディオだからできることさ。ディオのようにパンを食べるように人は殺せない。でもね、基本的な考え方は同じなんだ。殺人も、パンを食べることも、私の日常の一つの選択肢だと考えることが大事なんだよ。ただ、殺人の方は僕自身が、良いことだと思っていなくて、社会的なリスクも伴うというだけでね」

「なら、何故あなたは殺すんだ?」

「仕方がないからさ。必要で可能だから。そしたら、多少悪いことでもしてしまうさ。君は学生時代、いけないことだと知りながら、煙草をすったことはないかい? あ、そう。真面目だね。僕はあるよ。仲間に誘われてビクビクしながら屋上で吸った。今は吸ってないよ。そのときだけさ。ほんの少しのスリル、仲間になるための儀式。それだけだった。今はやらない。吸う必要性がないからね」

「やはり健全な殺意がわからない」

「言い換えると、人間らしい心を持った殺意ということかな」

「わからない」

「そうだな。君はまた特別だからね。本当に、うらやましい。殺人社会的、人道的に認められていないといったけど、いくつか例外もある。戦争のとき。凶悪殺人犯死刑にするとき。捜査中、犯人の抵抗にあって、止む無く殺してしまうとき」

「私の殺意は健全だろうか」

「話を最後まで聞いてくれてありがとう。君の殺意はすこぶる健全だよ。安心したまえ」

「そうか」

そして、銃声が一つ。暗転。

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