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2006-11-11気分はもう提訴

笑う電波男

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木田直人は寡黙な男で感情をあまり表に出さない。180センチを越える身長はそれなりの威圧感を彼に与えているのだが、何を考えているかわからないというよりは、何も考えてないのじゃないかというような印象を人は受けるようで、生来の真面目で人の好い性格は歪むことなく周囲の人間に伝わっている。彼は、彼の町に隕石が落ちた日から、「周囲の携帯電話アンテナが三本になる」能力を身に付けたのだが、彼自身は携帯電話を持っていない。「木田、肩借りるぞ。おー、やっぱ直はスゲー」「木田君、ちょっと、ここにいて」「木田ー、ちょっと電話持ってて」「頼む、直人」「木田」「木田君」彼の通う高校の教室の壁は電波を通しにくくなっていて、彼は専ら利用される側である。だが彼の周りに人が集まるのは、能力のせいだけではないだろう。

その彼が今日は慌しく帰る準備をして教室を出て行く。家路を急ぐ彼の顔はいつもどおり無表情だったが、少し嬉しそうに見えたと、彼の友人達は語る。彼が家に帰ったとき、彼の姉が彼を出迎えた。「おー、お帰り」山奥の研究所から帰ってきたのは姉の方であるが、彼はいつもどおり「ただいま」と返した。姉は自分の家のようにリビングのソファでくつろいでいる。彼は少し逡巡して、向かいのソファに腰掛けた。

「久しぶり」

「あー、直接会うのは半年ぶりくらいか」

一年

「あ、そう。電話じゃ良く話してるけどね。あんた、また背伸びた?」

「まあまあ」

やっぱ成長期だねー、と彼女は手元の雑誌に視線を戻す。

「そっちは、どう」

「んー? そうねえ。やっと最近になって何やるかわかってきた感じね。今更だけど。あんたの方は?」

「まあまあ」

「相変わらずね。ちょっとは笑いなさいよ」

「別に面白くないから」

「あ、そう」

姉も相変わらずだ、と彼は思った。同時に彼は少し安心する。

「そういや、向こうからこっちに電話するときさ。前は途切れ途切れだったり、繋がらなかったりで、話なんかできなかったじゃない。それが、最近異様に電波良いよね。ここにかけるときだけなんだけど。何でかな」

「さあ」

科学進歩は凄いなー、と適当な納得をする彼女を、彼が眺めていると、突然彼の知らない演歌が聞こえてきて、彼女はポケットから携帯電話を取り出す。

「もしもし。うん。何? えーと、明後日帰る。あ、何、その残念そうな声」

その姉は概ねいつもどおりで、でも彼には少し違うようにも見え、彼は目を細める。彼女電話を持つ手には小さな指輪が輝いている。

「ちょっとは寂しそうにしなさいよ。ん? 何? あれ。おーい。え、あ……切れた」

圏外と表示されたディスプレイを見ながら、姉が首をかしげる。

「ここ、こんな電波が悪かったっけ?」

「さあ」

彼は概ねいつもどおり無表情であったが、

「なんか、楽しそうね」

姉には少し、笑っているように見えたようだ。

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