だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-03-15ホモが嫌いなホイミスライムはいません

妄想探偵vs捏造探偵 ~中編~

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とうとう降りだした雨が、窓を叩き始めた。二人の探偵が対峙する部屋の中は、ただ雨音だけが存在するかのように無音である。それはほんの十数秒の間だったが、そこにいた誰もが、数分に及ぶ沈黙を体感している。

膳部捏蔵――捏造探偵が、その沈黙を破る。

「さて、さっそくだが本題に入らせてもらう。良いところだったようだが、この事件については、俺が預かることになった。そちらには申し訳ないが、今回は引き取ってもらう。もちろん報酬はこちらから払おう」

妄想探偵・妄女相心は苛立たしげに答える。

「何を仰っているのかわかりません。ご覧の通り、この事件は既に解決しています」

「真実は明らかにされていない。それとも、お前の甘っちょろい夢物語が真実であるとでも?」

捏造探偵は、尊大な態度で、妄想探偵への敵意を隠さない。

しかし、妄想探偵も一歩もひかない。

「真実とは、各人の胸の中にあれば良いもの、明らかにして公表する事に意味があるとは思えません。それも、貴方の創る偽の真実など」

「真実というものの価値は、自己満足と安心だ。あるべき物はあるべき形に、必要と安心と僅かばかりの金の為なら、俺は真実を創る事を厭わない」

「同意できません」

「だろうな」

雷鳴が響いた。雨はますます雨足を早め、まだ止みそうに無い。



捏造探偵は、うって変わった優しいトーンで信子に声をかけた。

「信子さん。私は貴女の御祖父様に頼まれて、ここに来ました。貴女の御祖父様はとても心配しておられますよ」

突然矛先を自分に向けられて信子はひどく驚く。そして祖父の名を聞くと、信子は俯き、唇を噛み締めた。

再び、妄想探偵に向き直り、捏造探偵は続ける。

「お前も知っているだろう? 袋小路財閥を。彼女はその関係者だ」

関係者という言葉に、妄想探偵は目を細めた。


「の、信子さん、お嬢さんだったのですかっ! み……見えない」少年は驚いて素の声を上げる。

「慎ましくて驕った様子が全くみえない、という風に解釈するわね……そう、私は彼と駆け落ち同然にこの街に来たの。お爺様のあの街は、私たちには息苦しくて……」信子は苦い過去を思い出したように苦しげな声を出した。

「信子さん……僕は金持ってなさそうという意味で言ったのですが……」

「それを流したのよ、少年君。それともわざと?」

「犯人にかける情はないっスから、俺!」

「ああ、よい心がけね……」

少年のにこやかな笑顔を見て、信子は二度目の殺意を覚えた。


妄想探偵は、表情を険しくする。

「見えてきましたよ。貴方は詩織さんのお祖父さんから依頼されたのですね。『孫が容疑者にされそうだ。事件を解決してくれ』と。この場合の解決とは、真の犯人を見つける事ではなさそうですが」

「真犯人を見つけることさ。おい」

捏造探偵は、黒服に合図する。黒服の一人が部屋から消え、直ぐに、両手を縛られた女性を連れて戻ってきた。女性は猿轡をされ、虚ろな目でこちらを見ている。

「彼女がこの事件の犯人だ。巻駒玲子。24歳。ドラッグの売買で、被害者ともめた事があった。重度のジャンキーで、再びドラッグを狙って被害者を襲ったというわけだ。被害者の死亡推定時刻にアリバイはなし。ふらつきながら、逃げ去る様子を近所の住人が見ている。先程、自白も手に入れた。もはや推理するまでもない」

「それが、筋書きですか」

「事実だよ。これが真実になる」

妄想探偵が強く奥歯を噛み締める。「兄さん。貴方は……」と小さく呟いた声は誰にも聞こえない。


優しく落ち着いた声で、捏造探偵は信子に語りかける。

「袋小路信子、さん。貴女は被害者と会ったことはない。もしかして貴女は生まれ育った街から出た事すらない。被害者と会った事がなく、この街に来た事のない貴女が、この殺人に関係する理由がない。それで、いいですね」

「え、わ、私」

展開についていけず、信子は答えられない。だがそれまで彼女の脳裏を占めていた監獄の中のモノクロな映像は、捏造探偵により再び色づき始めている。捏造探偵は、笑顔で話を続け、信子を圧する。

「そう、貴女のことです。全ては悪い夢だったのです。御祖父様も既に怒ってはおられません。貴女が望むなら、別の街で新しい生活を始める事も約束しておられます。手配は私がしましょう。もちろん、ある程度の制限はつきますが、刑務所に比べるまでもないでしょう。全ては夢。貴女は何もしていない。次に目覚めたら、貴女はベッドの上で、気になるのは今日の占いと、朝ご飯を食べるか食べないか、シャワーを浴びる時間があるかどうか」

「そう……なの、私、何もしてな……」

信子が暗い笑顔を浮かべ、捏造探偵が口の端を大きくあげたとき、

「騙されちゃいけないッ!」

妄想探偵の鋭い声が、捏造探偵と信子を中心に形作られていた部屋の空気を切り裂いた。信子は受け入れかけていた甘い現実から瞬間的に引き戻されて、荒い息をつく。

雨音が再び部屋を支配した。雨は今や豪雨となり、安物のガラスは悲鳴をあげている。

妄想探偵は、部屋に居る全員に向かって、力強く言った。

「私の推理を聞いて頂きます」

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