だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-06-18白の岸辺

妄想代行

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神様はヤケクソ気味に言いました。

「なんかもう、お前らの願いとか、ようわからん」



ある日、世界中人間が夢を見る。そして皆が預言者となる。


「1年に1度、神の代行者が、新たな世界を創る」


特S級のシンクロニシティ人類を迷わせない。ルールは急速に解明されていく。

一年に一度、選ばれた一人の人間が望んだように、世界は改変されること。

選ばれる基準はまだわからないこと。突然どこかの誰かが選ばれて、選ばれた人間は、その瞬間に、発光するとか、光の柱が上がるとか、空に飛び上がるとか、背が伸びるとか、もう色々言われている。だが、選ばれた本人は選ばれたことがわかる。

望みが叶うのは、X月X日のX時X分ということ。

その時間に、選ばれた人間が頭に考えたとおりに、世界は変わること。考えたことが事実となり、因果物理法則は瞬間消え去る。

特に大国や有名人は、酷く怯えた。自分を知るどこかの誰かにより、自分の存在が変えられてしまうのだから。今、絶頂にあるものほどそれを恐れる。世界中の皆が恐れに恐れ、期待に期待したが、なかなか世界は変わらない。もしかしたら、変わっているのかもしれない。とにかく十数年が過ぎた。


そして、今年の代行者が決まる。それは中学1年生の少年。眠たい5時間目の国語の時間中に、少年は突如発光した。光の中から、少年の笑い声が聞こえたと同級生は語る。少年は直ぐに国に自身の保護を要請し、さらにテレビ局と独占契約を結び、願いの叶う日の独占生中継を約束させた。行動は素早かった。前から考えていたのだと少年は語った。

折りしも台風が近づいていた。




強い風が、会場に吹いた。雨は降ってなかったが、轟々と喚く風が、世界の終わりのようで、人々の不安を煽る。事実今日で世界は終るのかもしれなかった。

暗い空とこれから起こる出来事に、今日の為にあつらえた白いステージは、少し浮いていた。むやみに明るく見える白いステージの中央には、ガラス張りの透明な部屋があった。その中で、少年は緊張の面持ちで立っている。部屋は少年を守るためだ。少年は今世界の最高権力者であり、神の子である。会場にはものものしい武装をした自衛隊員やら、警察官らが総出で混じっている。


全世界生中継であった。「今日、世界が変わる!」と書かれた安いキャッチコピーが、大きな看板となって、ステージの後ろを飾っている。会場には、大勢の人が集まっていた。会場は不安と期待がせめぎあっている。

残り10分を切った。

ここで、司会者に促され、少年マイクを持って立ち上がった。

緊張と、興奮と、ないまぜになった感情で、少年は喋り始める。ゆっくりと、たどたどしく。そして、少年は、引きつった笑みのまま言う。

「すみません。僕、嘘ついてました」

司会者の顔色が少し曇る。会場の裾で、少年と話をつけたプロデューサーが口をぽかんと開ける。ざわりと、会場が揺れる。

少年は、顔を紅潮させながら、大声で喋り始める。

世界平和なんてクソクラエです。皆、死んでしまったら良いと思ってました。そうやって生きてきました。でも何もできないから。とにかくオレは待ってました。ただ、ただ、待ってたんだ。そして、今日という日が来て、オレは……オレは嬉しい」

そして、息をつくと、少年は落ち着いた口調で演説を開始する。

「でも、オレは哀しいんです。あんたらのくだらなさに。これまでの代行者たちのふがいなさに。金持ちになったり、美男/美女とイイコトしたり、自分を偉く強くしたり、ろくな使い方をしてない。砂漠を緑地化したやつもいたな。バカらしい。バカばっかり。でもオレは違う。オレが望むのは、もっと混沌として、本能が生きてる世界だ。増えすぎた人類が、互いを食い合って、青い地球を真っ赤にする未来だ。もういいだろう? 人間がいつまでも進歩し続けて生き続けるなんて、大して面白くないだろう。そんな未来、どうせここにいる誰もが見れないんだから」


強い風が吹いた。風に乗って、混乱と怒りと、疑念が会場を埋め尽くしていく。

「オレはオレを肯定するんだ。もうすぐだ。どろどろのぐっちゃぐちゃの未来がくる。ははは、撃つか? はやくしないと。オレを。オレを即死させないと。でも、どうやって? このガラスを破って? はは、ははははは」

少年の乾いた、しゃがれた笑い声が会場に響く。風がゴウゴウと音をたてる。誰もが、固唾を呑んで見守っていた。そうするしかなかった。

本気なのか? 何が起こるというんだ? 答えはない。

ある者はただ驚いている。ある者は信じず、行過ぎたパフォーマンスの結末に期待している。ある者は恐ろしい未来想像し、早くも絶望している。テレビマン達は、世紀の瞬間を撮る事に、この上ない喜びを感じている。老人達は、恐ろしい未来勝手想像して心臓を縮ませている。自衛官警察は、不穏な気配に神経を尖らせている。

ただ、そのときステージの真ん前にいた少女は、家においてきた子猫の事を思っていた。少年の世界で子猫がどうなるかが不安だった。

テレビ局が用意した、ただでかいだけの安っぽい時計が、秒針を刻む。いつのまにか、あと5秒。

5。

「はははははは」少年は笑う。

4。

「死ね! 死ね! 皆、死ね!」死にたくない、と誰かが叫ぶ。

3。

風が吹く。「死ね! はは。死ね、ははははは」会場が揺れ始めた。

2。

強い風が吹いた。風は少年の目の前の少女の、

1。

スカートを大きくめくりあげた。「死……」

0。




その日、世界中に白いパンティが降った。


降り積もるパンティは、都市部の交通を著しく阻害したが、役所へのクレームはいつもより少ないほどだった。誰もが、嘆息し、苦笑いを浮かべた。眠れなかった企業戦士は、屋上で寝転がると、夢も見ずに熟睡した。戦場で、兵士は空を見上げると、銃を降ろした。道端の子供達が、老人達が、暖かいパンティにくるまって優しい夢を見た。

そして、代行者の少年は、次の日からウーロンと呼ばれるようになった。