だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-07-14カルネヴァーレ

天翔る武士の果て

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戦国時代におけるある一時期、鉄砲以上に戦と侍の在り方が揺さぶられた時代があった。その時代、紺碧の空を覆い隠し、空を飛ぶ武者達がいた。


翼も持たぬ侍が何故空を飛べるのか。それを可能にしたのは当時、空気中に濃密に存在したと言われる反重力物質ガルタイト。ガルタイト同士を一定速度で衝突させることにより、その数十倍の反発力を生じる。当時の侍達は、ガラタイトを編み込んだ草鞋を履き、文字通り空中を蹴る事によって、空を飛んだのだ。


戦の在り方は大きく変わる。

堅牢な城の定義は変わった。幾重にも城壁を巡らし、堀で陸路を絶とうとも、天守に敵は現れた。

敵を防ぐため、空を覆い隠すような城壁。それは最早壁ではなく今で言うドームの形になる。もしくは、空との面積を小さく小さくするために、地に潜った城もあった。後に土蜘蛛と呼ばれた一族がそれである。


だが誰もが空を飛べたわけではない。

空気中には濃密にあるとはいえ、結晶の形で安定したガルタイトの数は少なく、またそれを武具としての形に加工する技術を持つ大名はほんの一握りである。

何より、空を飛ぶ侍そのものの強さが求められた。強靭な脚力、空で活動する為の肺活量、そしてもっとも必要だったのは恐怖に負けない意志の力であった。原初より人は地上に生きる生物である。重力非情に、延々と空を飛ぶ侍達に語りかける。お前の居場所はそこではない。落ちろ。落ちろ。落ちろ。侍達はそれを撥ね除けねばならない。自分は空を駆けることができるという狂気に近い信念。それを持たぬ侍は、たちまちに地に落ちて死んだ。

それゆえに幾多の困難を乗り越えて、空を駆けた侍達は、人の域を超えた活躍を見せた。

戦の始まりと同時に空を駆け、開始早々に数万の軍勢の武将の首を駆る。空を縦横無尽に駆けぬけ、重力すら味方につけた侍達は最早暴風や雷と同じ天災に近かった。あっという間に、武将たちの首が駆られ、言葉の通り戦場に血の雨が降る。


だが、空を翔る侍は急速に戦場から消えていく。一つの理由は空気中のガルタイトの減少。それに伴う技術習得が著しく困難となったこと。しかし、最も大きかったのは、戦に勝利し権力者となった武将に嫌われたことであった。空の武士を用いて勝利してきた彼らは、同時にその恐ろしさも知っている。さらに人材の育成や武具の調達などの高いコストリスクを考えると、その存在が縮小されていくのは自然な流れであった。



先生

「何かしら? 石川君」

「じゃあ、今でも、体を鍛えて、その草履を履けば、空を飛べるんですか?」

「うーん。残念だけど、それは難しいわね」

「どうして?」

「500年前ならともかく、今では空気中のガルタイトはほんのちょっとしかないの。地域によって差はあるというけれどね。それにね。不思議なんだけど、今の時代でもガルタイトの加工は難しくてできないの。どうして昔の人がそれをできたのか。それもミステリーなのよね」

歴史教諭の言葉を待ったかのように、丁度チャイムが鳴って、授業はそこで終った。生徒たちは一斉に帰り支度を始める。質問をした少年も、何か考え事をしながらも、家路についた。

少年は、家に帰ると、真っ直ぐに裏にある古い蔵に向かった。無造作ダンボールや古ぼけた木の箱が並ぶ棚から、少年は一際古い桐の箱を手に取る。

その桐の箱には、ぼろぼろの草履が入っていた。


後に、少年陸上競技において十数個の世界記録を作る選手に成長する。彼は生涯無敗を誇ったが、その死は謎に満ちたものだった。ある朝、路上で死んでいる彼が発見される。身体中の骨がバラバラになっていた彼の死因は墜落死とされたが、彼の死んでいた場所には、飛び降りるような建物などなかったのである。

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