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2007-07-16ファストナハト

地獄面接

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ぶっちゃけ、いつムショ入ってもおかしくなかったっつーか。ヤベー事もいっぱいしたし。別に何も怖いもんねーし。拉致って? 血の海で? 尖ったナイフ? 狂犬? 盗んだバイクで? みたいな感じで? まー自分としてはー、地獄行きっつーのもしょうがないかみたいに思ってンすけどー」

「はい、はい。では天国ね」

スーツ地獄面接官は、即答する。

自然なほど斜めになって椅子に座っていた若者は、一瞬ずり落ちそうになり、慌てて座りなおした。顔には驚きの表情が浮かんでいる。

「え、ちょ、マジで? ありえなくね。それ、ありえなくね。自慢じゃねーけど、俺が喧嘩したら相手が詫びいれるまで殴るし、詫びいれても殴るし、女も殴るし、万引きとかカツ上げとかもう鬼のようにしてるんすけど」

スーツ面接官は、少し困ったように、しかし慣れた口調で、若者に説明する。

「あのね、そっちの法律とか、道徳みたいのはこっちではあんまり関係ないのよ。そういうのは、時代とか場所で変わっちゃうのね。ここって、いろんな所から人が来るわけだから、個別に対応とか大変なの。だから申し訳ないけど、こっちのルールでやらせてもらってるから」

そう言って面接官は手元の分厚い本を叩く。

「ちょ、困るよ。俺天国とか行ったら絶対笑われるじゃんよ。先輩にも絶対地獄来いよ言われてってしー」

「先輩? ああこの森嶋って人ですかね。ああ、っぽいなー。大丈夫、彼も天国ですよ」

スーツの隣に座るもう一人の若い面接官が、手元のパソコンを覗き込みながら言った。

「ちょ、待てって。天国とかマジかっこわりーじゃん。あんた閻魔様? 頼むよ。地獄行かせてよ」

「私は閻魔じゃないよ。まだ一次審査だからね。まあ、天国も慣れれば良い所だよ。じゃあ、天国で決定ってことで」

面接官は反論を許さず手元の書類にハンコを押す。その直後、若者の頭の上に浮かんでいた光の輪が、するすると若者の首にまで降りてきたかと思うと、そのまま首をひっかけ、体ごと天井の光に吸い込まれていく。

若者の空が消えていくのを見送り、二人の面接官は同時に溜息をついた。

最近、多いですね。天国行き」

ルール見直しの効果だろうなあ。それまで、ガバガバ地獄入れてたからなあ。知ってるか。針の山とか今、待ち時間10年らしいぜ」

「鬼の手も足りないらしいですね。亡者バイトやってるところもあるとか」

「そういうのが、勘違いを生むんだよな。地獄ってのは本当に悪い奴が、罪の分苦しむところだよ。なんか価値観変わってるよな」

若い面接官は苦笑いをする。

そのとき、扉が開いて次の亡者が入ってきた。

男はふっくらした体に小さなバックパックを背負い、上目遣いで面接官をちらちらと見ている。黒スーツ面接官が目を細める。

「えーと、じゃあ適当に自己アピールを…」

「いや、彼の場合はこちらから質問する」

スーツ面接官が、口を開いたもう一人を押しとどめて、男に質問する。

「君の好みの異性のタイプについて。可愛いタイプか、綺麗なタイプ、どっちが好きですか?」

「か、可愛いタイプかな」

「年下と年上なら?」

「年下……」

おどおどしていた亡者の声が少しずつ大きくはっきりとしてくる。自らのフィールドを意識し始めている。黒スーツ面接官は亡者の答えに真剣な顔でうなずきながら、質問を続ける。そして、最後の質問。

「では最後に、涼宮ハルヒ朝比奈みくる長門ゆき、どの子が好み?」

亡者は起立して即答する。

みくるさん!」

亡者自然と手を握り締めていた。もう部屋に入ってきたときの怯えた様子はない。亡者の震えはとまり、肌は爽やかな汗を帯びている。黒スーツ面接官は満足げににっこりと笑い、

地獄行き」

と迷いなくハンコを押した。

「えええーーッ」

亡者の驚きの声は、亡者と共に足元に開いた暗い穴の中に吸い込まれていった。最後に、パタンと、穴の戸が閉じる音がして、部屋から音が消える。

「一次審査地獄行き……どういうことですか?」

若い面接官が腑に落ちない様子で、黒スーツ面接官の顔を見る。黒スーツ面接官は、朗らかに後輩面接官に答えた。

「ああ、これは覚えておけよ。ルール第39492条412項」

スーツの男は、分厚いルールブックを開き、若い面接官と一緒に書かれている文字を声を出して読んだ。

ロリ巨乳は魔道」

今、地獄はあふれ出そうとしている。

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