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2007-10-17秋の夜長にぶんなげる

時空×少女

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足を踏み外したと思った瞬間、やっぱり足を踏み外していた。あたしは叫びながら、階段を転げ落ちた。全身が不自然に曲げられ、腹から変な声が出る。そのままあたしは綺麗にごろごろと転がって、リビングのドアをぶち開け、ソファの背にぶつかって止まる。

恐る恐るあたしは目を開けた。白い天井が見える。体中からじわじわと痛みがあふれてきた。大丈夫、そんな泣くほど痛くない。大丈夫。

ダメ、痛い」

情けない声を出す涙目のあたしを覗き込む顔があった。それは良く見知った顔で、

「大丈夫?」

そこにあってはならない顔だった。

あたしを心配そうに見下ろす顔、それはあたしの顔だ。


なんとなく伸ばした手を、あたしの顔をした女の子が掴んで、体を起こすのを手伝ってくれる。あたしは、痛みも忘れて、目の前のあたしを見つめる。

「あなた……」

「私? 私はあなたよ」

目の前のあたしは、にっこり笑って言った。

「え、やっぱり」

間抜けに返す私。

「うん。で、あなたも私」

ダメだ。誰か説明して。

「時間もないし、説明するから、理解してね」

目の前のあたしは、あたしだからか、あたしの懊悩を見抜いたようだ。あたしはこくりとうなずく。素直が一番。はあたしの座右の銘である。

目の前のあたしは、ソファの背にもたれかかると、説明を始めた。あたしはいつのまにか正座をしている。


「まず私は何者か。私の名前は紺野真琴。そしてあなたも紺野真琴?」

またこくりとあたしはうなずく。少し落ち着いてきた。そして部屋に流れる音楽に気付く。そーらをとぶ、まーちがとぶ、くーもをつきぬけほしになる。何だっけこれ。

「私たちはみんな平行世界紺野真琴なの。ある目的でこの部屋に集められた。もったいぶってもしょうがないから言うけど、その目的というのはどうやら平行世界の私たちの中での出世頭『時をかける少女』の映画を、私たち皆で見て祝ってあげましょうというものらしいの。これはつまりパラレル上映会なの」

「はあ」

あたしの頭は学校では見せたことの無い集中力で事を理解しようとぐるんぐるんと回転していた。『時をかける少女』は知っている。確か、今日土曜プレミアムで放送されるはずだ。あたしはそれを見るために、一階に下りようとして、階段を。おお、はっきりしてきた。で、ここは。

「ここは、どこ?」

「わからない。どこかのマンション?の一室。ところどころ、私の住んでた家に似てるけど」

初めて部屋をちゃんとみる。本当だ。あたしの家と似ているけど、違う。あたしは立ち上がり、部屋を見回す。あたしはここがどこだとか考えたことなかった。だって、あたしはあたしの家の階段を転げ落ちたのだから。


立ち上がったあたしは、そのついでに目の前の紺野真琴が、「私たちはみんな」と言った訳を知る。この部屋は、割と広いリビングで、ソファがコの字形に並んでいて、中心にはローテーブルがあり、いくつかコップに入ったジュースと何故かご飯が1膳だけ載っている。そして、コの字の開いたところには、大型の液晶テレビがある。我が家には縁の薄そうな設備である。そしてソファには、あたしが6人座っていた。

目つきの悪いあたし、何故かあたしより可愛いあたし、寝ているあたし、幼いあたし、音楽にノリノリなあたし、メガネをかけたあたし。

「みんな違うけど同じなのよねえ。不思議ねえ。存在が同一って」

「みんな、あたしなの?」

「そう。あ、まだいるわよ。隣にも部屋があって、そこで休んでる子もいるから。あなたみたいに転がってきたんだけど、怪我しちゃって」

他のあたし達は、あたしを見るものの、喋るのはこの『私』に任せているようだ。確かに一斉にあたしが喋ったらおかしくなりそうだ。


『私』はあたしに他のあたしを紹介する。

「あの目つき悪いのが」

「誰が目つき悪いって!」

目つきの悪いあたしが声を荒げた。『私』は平然と続ける。

「『語気を荒げる少女』こと紺野真琴。で、その横の子が『語尾を上げる少女』の紺野真琴

何となく可愛い感じのあたしが、あたしを見て微笑む。

「ややこしいけど、よろしくねー」

あ、ほんとだ。語尾が上がってる。わかりにくいけど。

「時間ないからどんどん行くよ。その横が『TOKIOかける少女紺野真琴、『富を鼻にかける少女』、『TOKIO追いかける少女』……」

聞きながら、なんだか気分が沈んできた。このあたし達は皆どうでもいい感じの名前をつけられているが、それでも、あたしには何もない。

「それでね、変り種もいるわよ。テーブルの上を見て」

テーブルの上を見る。ジュースのコップ、ごはん、そして小鉢に入ったあれは、とろろか……わかった。もしかして、『とろろかける少女』とかそういう、

「そう。『とろろかけるご飯』の紺野真琴なの」

今日一番理解できなかった。平行世界のあたしには、ご飯の奴もいるのか。

呆然としながら、あたしの中に少し焦りが生まれていた。あたしには何もない。あたしは『特に書けない少女』だ。


ぼんやりして二つ名を聞きそびれた『私』に促され、ソファに座った。あと5分程で、土曜プレミアム時をかける少女」が始まる。

ジュース飲む? 何故か冷蔵庫にはタピオカミルクしかないけど」

隣の『TOKIO追いかける少女』が話しかけてくれた。「ありがとう」と言うと、立ち上がり、透明なコップに注がれたタピオカミルクを持ってきてくれる。でかいストロータピオカを吸い上げながら、このチョイスは何なんだろう。そもそも部屋にあたし達を集めたのは誰なんだ。

大事な事を聞き忘れたと思ったあたしは、顔を上げて『私』を見た。

すると『私』の表情が目に見えておかしい。頬が上気し、苦しそうだが、同時にうれしそうだ。

ダメ、ごめん」

最後に聞いたのはその言葉で、次の瞬間には風切る音とともに、立ち上がった『私』のすくいあげるようなミドルキックがあたしのタピオカと顔面を同時に捉え、あたしを吹き飛ばしていた。吹き飛びながら、そうか、この『私』はきっと『タピオカ蹴る少女』なんだと思った。


目が覚めると、土曜プレミアム時をかける少女」は終わっていて、あたしはリビングのソファに寝かされていた。テレビはもちろん、でかい液晶ではなく、20型のブラウン管だ。

「あ、起きた」

顔を横に向けると妹が、ジュースを飲んでいた。

お姉ちゃん階段の下で寝てたよ」

「落ちてたの。痛い」

「痛いだろうねえ」

ズズズ、とジュースを吸い上げる妹にはあたしに対する気遣いは感じられなかった。

「それ、何」

タピオカ

「隠しなさい! 今すぐ!」

あたしは思わず叫び、飛び起きるが、不思議そうな妹を見て、また寝る。

「何で?」

「さあ」

要するに、夢だったのか。あれは。あたしは目を瞑る。鮮明に思い出せるのは、『タピオカ蹴る少女』の本物っぽい立ち姿だ。

お姉ちゃん

「ん」

鼻血でとるよ」

「え、まじで」

あたしはティッシュで鼻を抑え、鼻から口にかけての顔面がじんじんと痛むことに気付いた。まさか、ねえ。

「きゃあっ」

妹の声が、甲高く変わり、目を向けると、足元を見て硬直していた。そこには、黒いあの虫がいた。

お姉ちゃん、お、お願い」

何で、この虫を皆そんな怖がるのかわからない。この家ではあたし以外、お父さんまでこの虫を前にすると恐慌をきたす。あたしは、血を止めたティッシュで、そのまま虫を捕まえる。ゴキブリ程度に道具は使わぬ。

そのまま妹が用意したガムテープでぐるぐる巻きにしてゴミ箱に捨てた。

妹は、さっきの冷たい態度をころりと変え

お姉ちゃんは、世界でも数少ない『ゴキに勝てる少女』だよ。胸はっていいよ」

といった。

「んふふ。そう?」

いつもなら、嬉しくもなんともない一言だが、今日はなんだか嬉しかった。妹よ、ありがとう




時をかける少女 通常版 [DVD]

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sasuke8sasuke82007/10/17 12:42『溶きかけの卵』と『卵かけたご飯』を入れ忘れた。どうでもいいけど。

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