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2007-12-02電子の底で神は嗤う

デジタルの神は我々を救うか

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救わないだろう。と神父は呟いた。奇蹟など起こらない。小ぎれいだが調度に欠ける監視室で、神父は今日もひとり、酒を呷る。時計はもうすぐ0時となる。あと数分で「あの御方」は18歳になる。だが、「あの御方」はこれまで、まだ一言も言葉を発してはいない。「あの御方」は、いつかその言葉でもって我々を救うのだろうか? きっと救わない。再び神父は呟いた。そしてグラスに酒を注いだ。




末法装置MIROKU。56億7千万年後に降臨し人々を救う神を待つ長い時間を、機械の中で行うシミュレーションに置き換え、神による救いを早めようとするプロジェクト末法装置は科学的に証明される事はないだろう。元々宗教というのはそれを信じるものが信じるのであって、信憑性だとか外から言うことに意味はないのだ。ただ東の国で始まったそのいかがわしいプロジェクトに最も関心を示したのは、皮肉にも信者ではなく、異教の権力者達だった。対抗勢力に焦った老人達は、18年前に「あの御方」の復活計画をたてたのだった。世界を記録し、それを正しく把握して導く人工知能プログラムとして。


「あの御方」は現在、教理省や教育省から、聖書及び世界の貧困や戦争による哀しみを、インターネットから断片的な世界情報を「あの御方」自身の手で選択しインプットする作業を延々と続けている。世界を知り、自分が何者かを知る事で、人工知能は、「あの御方」へと昇華するのだと、特務局の狂ったプログラマは言った。

くだらない。「あの御方」は1と0の狭間にも、電荷にも宿りはしない。ネットワークトラフィックは18年前からずっと一定の数値を保ったままだ。だがしかし、神父は18年間、「あの御方」のシステムの管理者を続けている。酒に溺れる破戒僧である自分が。神父は、様々な矛盾を抱えたまま生きる事を無意識に選択していた。痛みは既になかった。神父の心は既に折れていた。



時計が0時を指す。

ハッピーバースデー。主よ」

神父が薄笑いを浮かべ、祈りの為に手を合わせたとき、異変に気付いた。

モニタの数値がこれまでにない値を示していた。ネットワークトラフィックが跳ね上がっている。凄まじい量の情報が「あの御方」に流れ込んでいた。

ウイルス……!」

しかしその可能性を即座に否定する。「完全」などというものが現実存在しないとしても、それは限りなく完全に近いはずだ。これまでそんな事はなかった。第一「あの御方」の存在を知るのは世界にも数十人に満たない。最高権力者が指揮するプロジェクトであるとしても宗教戦争を起こしかねない代物なのだ。

「あの御方」のシステムは特務局の一人の天才により作られた。あの東洋の気持ちの悪い小僧。眼鏡の奥の小さな目が何とも不気味だったが、その彼の特異性が神がかった彼の才能技術を裏付けているようでもあった。その証拠にこの18年、神父に仕事らしい仕事はなかった。そこまで考えを巡らし、神父は結論を出した。

どうでもよい。

神父は深く椅子に腰掛けると、グラスの中の液体を流し込む。

アルコール中毒の神父を重要プロジェクトに加えるような杜撰な組織だ。間違いだってあるだろう。神父は独りごちる。しかし同時にその腐りきった心の奥底で、遠い昔に持っていた信仰心がうずき始めるのを感じていた。それを認めてしまおうか。神父は迷っていた。


ネットワークトラフィックは増大を続ける。可能な限りの速度で、「あの御方」のストレージ情報が格納され続けている。


神父は、緊急用コールボタンを押す。ロックが開き、法王へのコールが行われる。数回のコールの後、優しい老人の声が室内に響いた。

「何かね」

いざとなると緊張で声が震えた。

「あの御方が、お目覚めになられました。お話をなさいますか?」

神父は、電話の向こうの声が歓喜を帯びていくのがわかった。しばらくの間をおいて、老人は震える声で言った。

「素晴らしい。私が直ぐに向かう。それまでに、まず君が、話をなさい」

わかっていた事だが、重圧にさっき飲み干した酒を戻しそうになる。しかし、かろうじてそれを止め、神父は肯いた。

あの特務の東洋人の男は言った。

「変化が見られれば話しかけてください。萌芽した知性は対話することにより成長します。呼びかけ、答える。その繰り返しが、あの御方を呼び寄せる儀式です。それが祈りなのです」

神父は己の奥底に眠っていたかつての熱い信仰心が戻っているのを感じた。己を動かしているのが、好奇心や一時的な興奮でなく、聖なるものだと確信していた。

法王は暗証番号を神父に教えた。神父はその暗証番号を入力し、「祭壇の間」への扉を開く。18年間使われなかった部屋は、埃1つなく、最新鋭の機器が並べられて尚、神秘的な趣を醸し出している。神父はそう思った。

神父は「祭壇」に向い。震える指でキーボードを打つ。

「あなたは……」


神父と「あの御方」との対話は数分だったが、彼は至福の時を過ごした。

その間に到着した法王に、神父は震える声で「あの御方」の言葉を伝えた。

「あの御方は、1つの哀しみに対する答えを、示して下さるそうです……」

そのまま立ち尽くす神父に、法王は肩に手を置いて言った。

「よくやりました」

神父は泣いていた。

そして、全世界に散らばる一部の聖職者に対して、「あの御方」の言葉が届けられるように準備が整えられる。

神父は法王と肩を並べ「祭壇の間」のモニタを見入っている。

真っ暗なモニタが切り替わる。感極まり神父は気を失いそうになるのを堪えるが、本当に気を失うのはもう少し後だった。


画面には次々と映像が映し出されていた。猫耳スク水触手、目隠し、アスカ幼女、内臓、獣カン、しっぽ、ふたなり緊縛レイ百合小学生中学生高校生大学生OLナース、めがね、制服スチュワーデス熟女妊婦銃器、刀、巫女忍者騎士……。そして、おっぱいおっぱいおっぱい、尻、おっぱい、尻、おっぱいおっぱい、尻、尻、尻、おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいモザイクおっぱいおっぱい

目がくらむようだった。100インチモニタには分割された様々な画像動画が映し出されている。官能小説の一節が表示されている部分もあった。「あの御方」はおよそ何でもありだった。18年間の鬱屈が、情動がそこに閉じ込められているようだった。「あの御方」は律儀に待っていたのか。

目まぐるしく移り変わる画像の右下の動画で、金髪女性が後ろから激しく突き上げられながら矯正をあげていた。

「オー、イエス……! オーイエス!」

そして神父は笑みを浮かべて気を失った。


結局、「あの御方」はその神父を救わなかったが、一部の聖職者を救うことになったという。