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2007-12-21土俵はひとつ、まわしはふ・た・つ

力士の印

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確かに熊吉が押していた。

実力は拮抗し、決して油断できる状況ではなかったが、このままゆけば己が押し勝つことを熊吉自身が感じていた。

日の出と共に始まった勝負は夜を迎え、また朝日を迎えようとしている。組み合って十数時間、お互いに技をかける間を潰し合い、後は純粋なぶつかり合いの技術と力が問われていた。その中で、じりじりと、熊吉が横綱を土俵際に追い詰めていた。それは1時間に1cmにも満たなかったであろう。しかし、熊吉にとってそれは確実な一歩であり、栄光への階段であった。

「よくぞここまで、鍛えたものよ」

驚くべきことに、声は熊吉の間近から、がっぷり四つに組んだままの横綱から発せられた。しかし、依然として横綱の力は緩まない。熊吉は驚きながらも、目の前の相撲に集中する。相手は怪物なのだ。熊吉に油断も遠慮もない。

「だが、惜しい。わしは横綱なのだ」

熊吉は自らの体に異変を感じた。膝の力が一瞬抜けた。相撲をとって丸一日、初めて冷たい汗が流れた。

「どっせーい!」

横綱の咆哮が聞こえ、熊吉は自らが宙に浮いたのに気付く。横綱は組んだまま熊吉を持ち上げていた。宙では何も出来ず、ただ足をばたばたと動かすが、横綱は揺ぎ無い。

「どこに、そんな力が」

熊吉は驚愕から言葉を洩らす。そして、ニヤリと笑う横綱のまわしの全てのぴらぴらが、熊吉の体に吸い付くように張り付いているのに気付いた。

「こ、これは」

「吸わせてもらった」

どっせーい、という二度目の横綱の咆哮により、熊吉は地面に転がされる。

「良い相撲力だった。坊主

熊吉は体中の力が抜けたように立ち上がれない。これまでこのような疲労感は感じた事がなかった。

横綱は満足そうに熊吉を眺め「またとろう」と言うと、熊吉に背を向けた。すると横綱のまわしは回転を始め、やがて回転するぴらぴらで横綱下半身が見えなくなったとき、横綱は空に浮かんだ。

「ごっちゃんです」

そして、横綱朝日の中に消えていった。

熊吉は知らず手をあわせていたという。


ドロップキックアウト - [雑記]力士のぴらぴら

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