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2007-12-25御輿探偵サワークリーム・第12夜「トナカイの鼻は暁に真っ赤に染まる

プリンセス・ピーチ

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私は桃から生まれた。

狩りから数日振りに帰った父上は、乳飲み子の私を抱えていて、騒然とする家臣には何も言わず、ただ私を乳母のさよに渡すときに「桃から生まれた子だ。わしの子だ」と言って笑った。それだけだった。その他の説明は一切なかった。狩りについていった家臣達は皆口を揃えていつのまにか殿の馬の蔵にその子が乗っていたと話した。父上の事だから口止めしているのかもしれないけど、結局、誰も真相について語れないままに時が過ぎた。皆も私をどう扱うか非常に困ったようだけど、絶対君主である父上に逆らう事も問い質すことも出来なかった。結局どこかの農家の娘とかに生ませた子を情にほだされた父上が引き取る事にしたけど体面もあるので桃から生まれたとか言ってごまかした、というような見解で落ち着いた。私は一応姫として扱われ、それなりに疎まれもして、16歳になった。

そして鬼が現れた。


鬼はあっという間に、私の、父上の国を侵し、奪い、壊し、殺した。私はショックだった。私は桃から生まれたと信じる人からも信じない人からもあまり良く思われていないようだったから、みんな好きではなかったけど、父上の国はそれなりに好きだったのだ。私の周りの私を遠巻きに見て愛想笑いやあからさまに蔑む人ではなくて、私が城から見渡す水田と豆粒みたいに小さな人々が好きだった。それぞれの豆粒が動き周り、時に寄り添い、その内に水田黄金色になる。そんな風景を見ていると、私の知らないところでこの世が動いて生きている事が感じられて好きだったのだ。

また城下には私の数少ない友人がいた。かつて城抜け出した私を助け初めてのそして唯一の友となってくれた彼ら。彼らは国の中でも最下層の民でありながらいつも明るかった。彼らは私が姫であっても畏れずに接してくれた。そして、そんな彼らも鬼との戦に駆り出されるようになる。私はいつ彼らが死体となって帰ってくるか気が気ではなかったが、彼らはいつも帰ってきた。コツがあるのだと言って彼らは笑ったが、私は笑えなかった。私は無名だった彼らの力が認められる事が嬉しかったが、彼らが帰ってこない事を考えると、とても釣り合わないと思った。だが私が悲しそうな顔をすると、

「俺がきっと鬼を倒してやる」

「いや兄さんには任せられない」

と二人は喧嘩を始めるのだった。私の気持ちとは関係のないところで彼らは喧嘩し、そのくだらない喧嘩は私を和ませた。俺たちは犬猿の仲だと彼らはいつも言ったが、その喧嘩がいつも私を楽しませる為のものだと知っていた。私は、彼らを見て私にできる事は何か考え始めていた。


鬼との戦いが始まって一年が経った。最初奪われるだけだった父上の軍も、少しずつ鬼を押し返すようになった。それでも国の半分以上は鬼に奪われたままだ。鬼。便宜上と感情の上で私たちはあいつらを鬼と呼ぶが、全ての者が頭に角を持っているわけではない。というよりも奴らの体は様々で、明らかに生物としての種が異なっていた。昔話の化け物のような者たちもいる。一様に人間からかけ離れている、それが鬼の特徴であった。私が桃から生まれたことになったように、あいつらは何から生まれたのだろう。その事が気になって乳母のさよに聞いてみたけども、さよはやはりよくわからないとにこにこして答えた。私は満たされなかったけど、さよのにこにこを見ていたら少し気が晴れた。私はそれでもう良かったのだけど、桃姫が鬼の話をしているという話はいつの間にか皆が知る事になり、桃姫は鬼の子なんじゃないかという噂が囁かれるようになるのは時間がかからなかった。それは私の外見が変化していた事もあった。私は成長するにつれ背が伸び、髪の色も少しずつ変わっていったのだった。さよや友人は「きれいだ」と褒めてくれたけど、周りの人間から見たら私は気味が悪いのだろうと思った。


ある日、私は父上に呼ばれた。

「桃。お前、鬼か?」

「いいえ」

「そうだな。角もないしな」

父上のこういった言動には慣れているつもりでも、そのとき私は心臓がきゅっと縮まる思いだった。私は私の遠巻きの人々の言う事にそれなりに傷ついてはいるけれども、私の心の芯を傷つける事はできないと思っている。それは、私に父上やさよがいるからだったが、その大事な私を支える柱であるべき父上に突き放されたような気がしたのだった。

そんな私の様子に気付いた様子もなく、それから父上は、こないだ側室になった女の歯軋りの話とか、最近元服した某という侍の眉毛が面白いとか取り留めない話をして、その日の呼び出しは終わった。その日の呼び出しがどう関係したのかはわからないけれど、またも父上の思いつきにより、私の運命は決定的に変わっていってしまうのだった。

「桃姫、そなたに鬼討伐の命を与える」


その翌日に私の城は、鬼の王の襲撃を受けて滅ぶ。鬼討伐の為に外に出ていた私は襲撃を免れるが、私の意志で直ぐに城に戻った。そこで私は鬼の王に会う。焼け落ちた城の中、燻った死体の中で自分を睨みつける女を、鬼の王はどう思ったのだろうか。私は生かされてさらわれた。私は私に呪をかける。私と、私の幼馴染の彼らがきっと鬼の王を倒すだろう。私が口に出すと、鬼の王は笑った。

「気に入ったぞ。姫よ」

「王よ。あなたの名が聞きたい」

私は王を見据える。王はさらに笑い、その吼えるような声で名を名乗った。私はその名を刻む。亀の王よ。今は笑うがいい。

クッパ。覚えておけ。お前を倒す勇者の名は」

炎の中で呪を結ぶ。この日から私の戦いは始まる。

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