だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-02-23これがおれたちのケミストリーだ

どうしたの堂珍

| どうしたの堂珍 - だって、思いついたから を含むブックマーク はてなブックマーク - どうしたの堂珍 - だって、思いついたから


「どうしたの堂珍」

電灯が消えた暗い楽屋で、顔の黒い男が堂珍に声をかけた。堂珍はパイプ椅子に座り、背を丸めて、祈るように組んだ両手を顎の下に置き、じっと床を見つめていた。

「どうしたの堂珍」

顔の黒い男は再度呟くような声で堂珍に語りかける。堂珍は顔の黒い男に答える様子もなく、ただ床の染みを観察しているように見えた。顔の黒い男の脳裏に思い出したくもない映像がよみがえる。

ここに来る前、二人は彼らのファンと名乗る女性に出会った。サインが欲しいという彼女の為に、肩にかけたエコバックからマッキーと色紙を取り出そうとした顔の黒い男だったが、女性は彼の脇を駆け抜けて堂珍の前に立ったのだった。すれ違う一瞬で女性は顔の黒い男の目を横目で見、顔の黒い男もまた彼女の目を見た。その瞬間どす黒い衝動が黒い男を支配した。黒い男は「俺はチャゲじゃねえ!」と怒鳴るとファンの女性に馬乗りになり顔面がグシャグシャになるまで殴り続けたのだった。そして直ぐに女性の反撃を受け堂珍と共に地面に転がされた黒い男は同じ数だけ女性から拳の制裁を受けた。

黒い男は苦々しいその思い出を頭から振り払った。

「お前はチャゲじゃない」

そのとき堂珍が黒い男を見ずに呟いた。

チャドだ」

「どうしたんだよ堂珍!」

黒い男の声は大きくなり狭い室内に響いた。

堂珍が何を考えているのか、黒い男にはわからない。だが考える事はできる。最近、二人の音楽性の違いが顕著に楽曲に現れるようになってきていた。例えば、楽屋では常に半裸を心がける二人だが、堂珍は上半身が裸であるのに対して、黒い男は下半身露出する。これは二人のマネージャー女性に変わってからずっとだ。もちろんマネージャー事務所に訴えたが、二人のアーティストとしての感性を信じた事務所マネージャーの訴えを退けた。それから黒い男はずっと下半身露出させている。

変態紳士め……」

「どうしたんだよ堂珍!」

黒い男はヒステリックに叫んだ。

黒い男の名前は川畑という。黒い男はその苗字に常に違和感を持っていた。川に畑とは何なるや。川の上に畑があったのだろうか。川の中に畑があったのだろうか。川が畑なのだろうか。黒い男の脳裏には常にその問いがあった。それは大自然の出したクイズのようでもあり、海賊の隠した財宝のようなロマンを幼い黒い男の精神の深い所に植えつけたのだった。黒い男は堂珍と二人でやっていく事が決まったとき、最寄り駅近くの和民で堂珍にその事を話した。頬を高潮させ子供のように語る黒い男を、堂珍は焼酎の入ったグラスをもてあそびながら薄く笑って聞いていた。話が終わると黒い男は不安と期待の入り混じった顔で堂珍の答えを待ったが、堂珍の答えは「おれは永作博美が好きだ」だった。今度は羞恥と後悔で顔を真っ赤にした黒い男はどもりながら堂珍を殴った。「ど、ど、ど」

興奮のせいで荒く息をつく黒い男。しかし、堂珍は起き上がり口の端の血を拭くとニヤリと笑って言ったのだった。

「俺は変態だ」

そのときいかなる感情を自分が抱いていたのか黒い男にはわからない。その言葉が自分の深層の精神に届くような強度を持っていたとも思わない。だが黒い男はそのとき号泣し堂珍を抱きしめて「おれはこの男とやっていく」と固く誓ったのだった。

黒い男はふいに、忘れかけていた二人の馴れ初めを思い出し、目頭が熱くなるの自分を感じた。涙をながすまいと、髭をむしる。そのとき、堂珍が乳首を掻いた。

「どうしちまったんだよ!堂珍」

「すいませーん。本番でーす」

ノックと同時に入ってきた女性は二人の姿に一瞬ぎょっとするが、アーティストのしなやかな感性がときに変態性すら包含している事を理解していたので、何も見なかったようにしてドアを閉めた。

堂珍が椅子から立ち上がる。

「行くか」

「よし」

黒い男の先ほどまでの悲壮な声色は消えている。黒い男はパンツを床から拾い上げた。堂珍は乳首を触りながら、シャツを探している。

履いたパンツが逆である事に気付いて履き替えている黒い男に、堂珍は後ろから話しかけた。

「不安か?」

パンツを必要以上に上にあげ、股に食い込ませながら、黒い男は言った。

「全然」

その声の持つ力強さに、堂珍は満足に笑顔を浮かべた。


ケミストリーミュージックステーション初出演時の楽屋裏での一幕。

トラックバック - http://throw.g.hatena.ne.jp/sasuke8/20080223