だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-08-29肉派とは国

い能力部3

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手塚充は、学年はおれの一つ下で、わさわさした栗毛と、大きな目を持っていて、なにやら上級生女子から人気があるという話を、一つ上の学年のおれの耳にまで届かせるような、それなりに美少年、というと気持ちが悪いが、まあなかなか顔がよろしい奴で、この秋に異能力部に入った新入部員である。これで、「(暖かい所から寒い所に行っても)メガネが曇らない」能力者である部長・笹木、「(部屋で失くした)テレビのリモコンを見つける」能力者のおれに続き、「今日の晩御飯がわかる」能力者が部に加わったわけだ。笹木はこれを「大いなる飛躍」と評したが、言った本人すら本当にそう思っているか疑わしい。


「わかりましたよ! 先輩の今日の晩御飯は、『かぼちゃの煮物と天ぷら』です! おいしそうですよ、これは!」

10分くらい前から目を瞑り、あぐらをかいて、両手の人差し指を、頭に当て、うんうん唸っていた充が、突然顔を上げると、嬉しそうに声を出した。

「天ぷら好きですか! 先輩!」

「うん、まあ、好きだな」

充は、親指を立てて、ぐっと俺の目の前に突き出すと、

「良かったですね!」

と大きな声で言った。

おれは「うん」と言って、手元の少年ジャンプに目線を戻した。今週もハンター×ハンターはなかった。

「やっぱり、ポーズが重要なんですね。この昔の偉いお坊さんが瞑想するときに使ってたポーズ。100%で二品まで予知できます。先輩方の指導のおかげですね。」

一休さんが、晩御飯の予知ができた話は聞いた事がない。おれは「うんうん」と相槌をうちながら、ジャンプのページをめくった。


ガラガラと部室の戸が開いて、疲れた顔の笹木が入ってきた。生徒会長と異能力部部長を兼任する労苦は、何事にも全力を尽くすタイプの笹木にとっては、なかなかしんどいものがあるようだ。その笹木に、充が子犬のように駆け寄っていく。「二品までわかるようになったんです!」と弾んだ声で報告しながら、自然に笹木の手荷物を受け取り、席に座った笹木の肩を揉んだりしている。この犬め、と心の中で少々罵倒しつつ、こいつは大人しい顔して、きっと女姉妹で育った為に女性に対して屈託がない、おれたちとは別次元の存在なんだと分析した。

「では、いきます」

いつのまにか充は、一休さんのとんち考案中ポーズに入っている。それをキラキラした期待の眼差しで見つめる笹木。まあ部活動としてはとても自然な情景なのだろうけど、なにか間違っている。


「……出ました」

静かに充が目を開けた。

「部長の晩御飯は、『赤飯と鯛』です!」

途端に、笹木のメガネが真っ白に曇った。

何だか奇妙な間があいて、おれが何か喋ろうとする前に、笹木は立ち上がり、

「忘れてた。ごめん、じゃあ、あの晩御飯の用意しなくっちゃ。た、鯛とか釣らないといけないから、帰るね」

とまくし立てるように、でもぎこちなく言って鞄を持って部室を出て行った。それでも部室を出る前に、おれたちに「部室の施錠よろしくね」とだけ念を押して。

何となく気まずく落ち着かない空気になった二人の部室で、おれは何も考えないようにしようと集中していたが、充が笹木を見送った後に、ぽつりと言った言葉で我に返った。

「先輩、あんなにはしゃいじゃって……。赤飯好きなんですねえ」

そして、おれは本当にそうかもしれないなと少しだけ気が楽になった。


後日、笹木の姉がその日結婚相手を連れてくる予定であり、笹木は本当に鯛を釣って変えるように親から言われていたのだと知って、おれは胸をなでおろしたのだけど、学校帰りに鯛を釣る女子高生と、女子高生に鯛を釣らせる家族の事を考えて、手が胸の途中でひっかかった。

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