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2008-09-11いや、もう、しょうがない

没鬼剣

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「そのブザマなサムライソードをしまえ。キシマ」

「気遣い無用。これが私の剣法。かまわずこい。異人殿」

ジーザス……」


茶無葉螺流剣士ヨハン・ドールマンは、ただのチャンバラ好きであったが、素人ではなかった。軍隊で鍛えた膂力と背筋から繰り出されるヨハンの一撃を、受けきれる剣士は日本に何人もいないだろう。事実、これまでヨハン・ドールマンは名だたる剣士を一撃で屠ってきた。踏み込めば人が死ぬ。その現実にヨハンは酔いしれていた。そして、その恍惚の瞬間を、今度の標的、鬼殺しと呼ばれる虚間流剣士・貴島新太郎においても同様に味わうことができると、ヨハンは考えていた。貴島が真の構えを見せるまでは。

ヨハンは己がその異様に圧倒されているのを知る。故にヨハンは踏み込めない。重ねた修羅場がヨハンを学習させていた。目の前の、ヨハンより一回りは小さいこの男は、何かが異常だ。

貴島新太郎は隙なく正眼に剣を構えている。そして同時に袴を足首までずらし、下半身露出させている。抜き身の、黒光りする貴島の性器は、雄雄しく反り立って、真っ直ぐにヨハンの頚を狙っていた。


「ニトウリュウ」


ヨハンは、そう呟いて、二刀流とはそういうものだったか思い出そうとしたが、思い出せなかった。代わりにヨハンはシミュレーションする。踏み込めばどうなるか?

どんな鍛え方をしたかはわからぬが、ヨハンの剛剣を、貴島の二本目の剣が受け止めることは不可能だろう。では、貴島の二本目の剣は何の為にあるのか?


囮。

ヨハンはまずそう考えた。それなら容易い。

しかし、貴島の鬼殺しという通り名は、伊達ではない。貴島の家系は、武士崩れの山賊や、夜盗の類の討伐を生業としており、これまで他藩へも招かれて、100人以上を斬り殺したという。この太平の世で、そのステータスは大きい。さらに、貴島は常に単身で任務につくという。対多人数のスペシャリスト事実、貴島は賊を殲滅して、これまで生き残っている。

囮という解答はノンだ。ヨハンは慎重に思索をめぐらせる。あの剣には他の何かある。囮以外の何か? あれに、何ができる?


ふと浮かんだ想像にヨハンは戦慄した。ドクドクと波打つ貴島の黒剣から、ヨハンは銃を連想したのだ。水鉄砲。目くらまし。

剣で液体を打ち落とすのは難しい。剣の腹で受ける。またはかわす。その動きは必ず隙となろう。剣法に必要なのは一撃だとヨハンは信じていた。受けては死ぬ。多人数を想定した剣なら尚更のことだ。

射精の速度はいくらだったかと考えて、ヨハンの背筋が凍る。日本に来る前、酒場ジョージに聞いたことがあった。達人の域に高められたそれは、板を打ち抜くという。貴島の二本目の得物は、剣でなく銃だ。

ヨハンは、顔面に向かって飛ぶ白濁液が、ヨハンを貫く光景幻視する。貴島が両手に構える剣こそが囮なのだ。ヨハンの背中を冷たい汗がしたたり落ちた。

だが、やりようはある。剣が囮なら、弾さえ避ければよい。発射された弾が避けられずとも、発射する直前に動けばいい。その瞬間は、貴島の表情が教えてくれるだろう。


しかし、また別の想像がヨハンに宿る。ヨハンは恐怖を感じる。まさか、まさか。

「まだ、ノびる、のか」

そうだ。あれが貴島の100%だと誰が、断じることができよう。ヨハンは、死合を仕掛ける前に、貴島の周辺を調べた。貴島の弱点を探る為ではなく、貴島を斬り殺した場合のメリットを計る為だ。もちろん、貴島の性器の最大長についての情報はなかった。

ヨハンは、100%中の100%を発現した貴島の性器が、真っ直ぐに伸びて、自分の喉笛を貫く様を想像した。変幻自在の槍。避けたとしても、そのまま薙ぎ倒される。槍の本質は刺突でなく殴打であると聞いたことがある。良くしなった竹に弾かれる己。そして例え懐に入り込めたとしても、貴島が手に持つ剣により両断される。


あれを相手にしてはならない。

ヨハンは、そう結論づけた。あれを封じることが、この戦いに勝利をもたらすだろう。戦い方が決まればやることは二つだ。酒場ジョージが言っていた。

落ち着け

考えろ。

クールクールクールクールクール……。ヨハンは、落ち着く為にいつのものように、素数を数えることにしたが、1が素数かどうか忘れたので数えるのを止めた。素数って何だっけかとヨハンは思った。


あれが、人間生理的現象によって、支えられている事は疑いようがない。つまり、貴島新太郎の性的興奮を萎えさせることこそが、勝機を掴む事に他ならない。今、ここにおいて、貴島新太郎を勃起させているのは何か。

ヨハンは、注意深く周囲を探る。記憶五感をフルに使う。ヨハンが、仕掛けたのは、人通りの多い町中、中でも繁盛している茶屋の前だ。貴島はその茶屋に、ほぼ毎日立ち寄っていた。ヨハンは、貴島と向かい合い、点対称の位置関係を保ったまま、じりじりと円の形に移動する。そして、慎重に辺りをうかがう。

ヨハンが仕掛けたとき、その場にいた人々はほとんどその場に残っている。こちらを伺いながら、好奇の視線を投げかけている。そして、ヨハンはついに、路上で、乳房を露にしてパフォーマンスをする女と、それを公開写生する春画描きの姿を発見する。近頃、町にはこういう輩が増えていると言う。彼らも今は、ヨハンと貴島の死合を呆然と見ている。


これか。ヨハンは大きな声で貴島に語りかけた。

「キシマ、オンナはスきか? オレはスきだ。しかし、このところ、オンナをダいてない。ナゼかわかるか? キサマにカつためだ。キシマ。ガンカケというやつだ。でも、そろそろゲンカイにチカくなってきてるんだ。キサマにカったアトは、まず、そこにいるハダカのバカオンナでもイタダこうかな」

ヨハンは眼の端で、公開パフォーマー達が逃げ出すのを確認した。そして、音が遠ざかるにつれて、貴島の眉が下がり、少し残念そうな表情になったのを確認して、ヨハンはニヤリと笑う。


だが、貴島の黒剣は揺るがなかった。いや、前よりも大きくなっているようにも思える。ヨハンはもう一度素数を数えようとして、また直ぐにやめた。ヨハンは冷静だった。まだ貴島を支えるものがいる。それだけだ。

誰だ。

そして、ヨハンは、周囲を探り、茶屋の奥から、こちらを覗く女を見つける。ヨハンの脳は瞬時に答えを出す。

女は目を引くようななりではない。童顔で、どちらかと言えば野暮ったい感じがする。体も華奢で、先ほどの露出女のようにセックスを感じさせない。

だが、それがいい。凛とした涼しげな瞳、白い肌。それを好む男はいる。おそらく、この茶屋に足繁く通う貴島もまた、その一人だろう。

ヨハンは意識して、下卑た笑みを浮かべる。そしてまた大きな声で言った。

「おや、オンナがいなくなってしまった。シカタない。まだガキのようだが、そこのチャヤのムスメにしようか」

貴島の顔が歪んだ。

貴様

「ほお、キサマのおキにイりだったか。ここには、ヨくカヨってるようだしなあ」

貴島は顔色を変え、横目で娘を見た。娘は露骨に顔を恐怖でゆがめ、中に引っ込んだ。貴島の眉は完全に落ちた。


勝った。

貴島の顔を見て、ヨハンはそう確信した。だがしかし、貴島の黒剣はビクともしていない。いやビクビクしている。今にもはち切れそうになっている。ヨハンはまた酒場ジョージの話を思い出した。

この世には多人数に見られること、それだけで興奮する人間がいる。

つまり、変態露出狂

そうか、それならば。

ヨハンは叫ぶ。野卑に、凶暴に。

ナニみてんだコラァ! ブちコロすゾ!」

落雷のような声が町に響く。ヨハンの日本語は流暢とは言えないが、それ故の狂人のような迫力があった。往来の人々が駆けていく音、戸を閉める音が聞こえ、やがて辺りは静かになった。

貴島の表情は残念そうな顔から怒りに変化しているように見える。チッという舌打ちを、ヨハンは確かに聞いた。しかし、ヨハンは油断せず、貴島の股間を凝視する。

そこには、何ら変わることなく主張し続ける貴島の黒剣があった。


ヨハンは混乱した。こいつは。この男は、何だ。


貴島が口を開いた。その声は、とても穏やかなものになっていた。

「異人殿。私と闘って、何を望む?」

ヨハンは戸惑いながらも、素直に答える。

「メイセイだ。オーガキラーキラーのナがホシい」

「なるほど。私に勝てば、鬼殺し殺しか。確かに。その称号は貴殿のものだ。では、私が勝てば」

そこで、貴島は言葉を切った。そして、言い難そうに、顔を赤らめて言った。

「貴殿が欲しい」


二刀流! 両刀使い! ヨハンの背中を電流が走る。ヨハンは日本語の奥深さを痛感する。この男は。目の前の、この男はおそらく、最強の、ジャパニーズダブルソード・マン。


ヨハンは、剣を放り投げる。そして膝をついて、言った。

「男が男に惚れる。私は、その言葉がわからなかった。実は、単純なことなのかもしれない。私の負けだ。それでいい。もし許されるなら」

ヨハンは少し言いよどんだ。

「私を弟子にして欲しい。もし、それが叶わぬなら、斬って頂きたい」

貴島は黙って剣を鞘にしまった。袴は下ろしたままだった。

「断る」

そして、ヨハンの手をとり、立たせると、穏やかに言った。

「貴殿には力と才能がある。私が教えることなどない。だが、尚のこと、斬ることなどできようか。どうか私の傍で、私の剣を見ていて欲しい」

ヨハンは、小さく笑い、頷いた。

隠れていた町の人たちが、いつの間にか出てきて、二人を祝福していた。



数年の後、ヨハンは水野晴郎太と名を変え、虚間流の跡目となる。しかし、その直後、貴島新太郎が、弟子である尾杉伏虎に後ろから刺され、命は取り留めたものの、再起不能になるという事件が起こる。逃走した尾杉を追い、水野春郎太は出奔する。虚間流は跡目を失い、急速に没落することとなった。

全てを捨てたヨハン=水野春郎太と、尾杉伏虎の真の決着は、寛永六年九月二十四日、駿府城下で催された変態剣士大集合に持ち越されることとなる。




シグルイ 11 (チャンピオンREDコミックス)

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sasuke8sasuke82008/09/12 18:44みんな、「ぼくの、わたしのかんがえた変態剣士」を書けばいいと思う。そして山口貴由先生を尊敬すればいい。