だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-09-19エキゾチック11

20世紀せい少年

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まさる君は、鼻をひくひくさせながら、言いました。

「えりちゃんのここ、いいにおいがするね」

「今は、家の中はどこでも、同じにおいがすると思うよ」

えりちゃんの言うとおり、部屋にはカレーのにおいがじゅう満していました。

今日はえりちゃんのおたんじょう会。ごく親しい友人だけをよび、えりちゃんは、お母さんに協力してもらって、カレーを作ったのでした。





えりちゃんは、最初、まさる君をよぶつもりはまったくなかったのですが、本命のゆうじ君の声がインターホンから聞こえて、げんかんのドアを開けると、ゆうじ君のとなりに、むしろゆうじ君より半歩前の位置に、まさる君がいたのでした。

ゆうじ君は、少しひきつった顔で、言いました。

「とちゅうで出会ってさ、どうしても来たいって」

「話聞いちゃったら、どうしても祝いたくなっちゃってさ。ごめんね、えりちゃん」

ゆうじ君の言葉をとちゅうでさえぎるようにしてひとりフレンドリーな様子で一息にしゃべりながら、まさる君はえりちゃんの横をすりぬけて、げんかんでくつをぬぎ始めていました。すりぬけると中、まさる君は、えりちゃんのかたに手を置こうとしましたが、えりちゃんは、なんとか体を半身にしてかわしました。

えりちゃんの前には、すまなさそうな顔のゆうじ君が残りました。えりちゃんは、ゆうじ君にわからないように息をつき、笑顔をつくって、ゆうじ君に言いました。

「来てくれてありがとう。あがって!」

少し笑顔をとりもどしてくつをぬぐゆうじ君の後ろ、えりちゃんは、げんかんの戸をしめながら「ゆうじ君はまさる君にエッチなまんがやDVDをかしてもらったりしてるから、ことわれなかったのね。ゆうじ君は悪くないわ」と自分に言い聞かせました。そして、悪意だけでなく見せかけのぜん意をかわす方法を身に付けることを、心のTODOリストに加えました。


お母さんによって、ケーキの上にならべられたろうそくに火が点けられ、部屋の電気が消されました。

オレンジのろうそくの明かりに照らされて、子ども達はどこかそわそわしています。

そして、子ども達によるハッピーバースデーの歌がアカペラでかなでられます。まさる君だけ、発音を英語風にしているのが気にさわりましたが、えりちゃんもうれしそうです。

歌がおわり、はく手が起こりました。

「一気に、ふき消して」

えりちゃんとケーキをはさんだ向かい側で、まさる君が言いました。

いっしゅんと言えどもくらやみの中で、まさる君がそばにいるじょうきょうだけは回ひしようと、体の大きなひろのぶ君とゆうじ君を両側に配置したえりちゃんは、テーブルの向こうでまさる君が手も足も、とどかないのに少しだけ安どし、大事なセリフをまさる君が言った事にも、それほどはらは立ちませんでした。

こういう場合、いっぱん的には一度にふき消すことができない方が女の子らしいと思われますが、えりちゃんは逆に、ふだん女の子らしいけれども、しんは強い子というギャップでせめていこうと思っていましたので、ふだん通り思いっきり息をふきつけたのでした。

「せーの! ふぅーう」

子ども達は、えりちゃんのはいた息が、ろうそくのほのおをゆらし、消しながら、向こう側のまさる君の鼻と口に吸い込まれていくのを見ました。息を吸い込む音が部屋にとどろいて、最後に、んげっ、というまさる君の鼻の鳴る音がして、部屋は真っ暗になりました。

お母さんが電気をつけて、子ども達は思い出したように、手をたたき、口々に「おめでとう」といいました。えりちゃんはありがとうと言いました。まさる君は一人、だまってつやつやしていました。


場を仕切りなおすように、かなちゃんが、えりちゃんへのプレゼントを取出しました。みんな、思い出したかのように、プレゼントを取出します。

例えば、さいほうの上手なみきこちゃんは、ししゅうの入ったハンカチを、しんじ君は、レアうまいぼうのセットを、かなちゃんは手作りクッキーを、そしてゆうじ君はかわいい手ぶくろをえりちゃんにあげました。えりちゃんは、みんなからのプレゼントを手に取り、笑い、よろこび、ひとつひとつほめて、お礼を言いました。

そして、まさる君の番がきました。これまで、一人一人、プレゼントの中身を見て、完ぺきな対おうをしてきたえりちゃんに、子ども達の注目があつまりました。


まさる君は、大きな紙ぶくろをえりちゃんにさしだしました。ふくろにはよくわからない英語がたくさん書かれています。その口のところから、とう明のごわごわしたナイロンと服の生地がのぞいていました。

ごくり、と誰かがつばを飲み込みました。ナースだ、メイドだ、スク水だ、とだれかが言いました。

えりちゃんは笑顔をくずさず、「ありがとう」と言って、その袋を受け取りました。

「何かしら」

と、えりちゃんが言うと、まさる君は、はずかしそうに言いました。

「えっと、一つはブル……ジャージだよ! えりちゃん、毎朝ジョギングしてるからさ、それを着てほしくて。それと、えりちゃんにはちょっと早いけど、早すぎるってことはないから……」

「ひ!」

さけび声をあげたのは、かなちゃんです。かなちゃんはプレゼントをゆびさして、また「ひ!」と言いました。

子ども達が、そちらを見ると、なんと紙袋の下のほうから煙が出ています。消したはずのケーキのろうそくの火がまだ燃えていたのです。えりちゃんだけが気付いてないようで、きょとんとした顔で、紙ぶくろをろうそくの火にかざしています。

火が大きくなったとき、はじめてえりちゃんは火に気付き、さけび声をあげて、かみぶくろを放り投げました。放り投げられた紙ぶくろは、ちょうど開いていたベランダのさくをこえて、地上9階からもえながら落ちていきました。みんなはいろんな意味でほっとしました。

ベランダに立ち、紙ぶくろがもえつきるまで、悲しそうに見守っていた見ていたまさる君がふり返ると、泣きそうな顔のえりちゃんが「ごめんね」といいました。まさる君は笑顔で「いいよ。やけどとかしてない?」とやさしい言葉をかけたのでした。その様子を見ながら、子ども達は、やっぱりえりちゃんはすごいと思いました。


それから子ども達はケーキを食べました。ケーキはとてもおいしくて、みんな無言になりながら、食べました。まさる君はなんどもジュースをこぼしかけたり、本当にこぼしては、「ぬれちゃうところだったね」「こんなところを、ぬらしたら大変だもんね」「あ、大じょうぶ? ぬれてない?」「ごめん! ぬれちゃった?」と、一人ではしゃいでいました。みんなは、無言で食べていました。

それからお話をしたり、ゲームをしたりしていましたが、おなかがいっぱいになった子ども達は、だんだんねむくなってきて、そろそろおひらきの空気がへやにただよい始めたとき、まさる君は、何の前ぶれもなく、よくぼうをばくはつさせました。

生命は神秘!」

まさる君は、ズボンをおろすと、両手をあげて、えりちゃんに飛びかかりました。

そのときです。部屋のふすまがすごい音をたてて開くと、そこにはおにのぎょうそうのお父さんがかたひざをついて、まさる君をにらみつけていました。お父さんの右手には、ビデオカメラがあります。ビデオカメラの無機しつなレンズは、下半身をろ出したまさる君と、きょうらんすん前のえりちゃんと、じたいにおいつけない子ども達をうつしています。

がちゃんと音がして、子ども達が音におどろいて、われにかえり音の方を向くと、そこには、たたみの上に落ちたジュースのコップとおぼん、それを気にもかけずにおにのぎょうそうで、まさる君をにらみつけるお母さんの姿がありました。お母さんのかみはおにの角のようにさかだっていました。


まさる君は言いました。

「ええい、ままよ!」

飛びかかったまさる君は、次の瞬間に、小学生にしては体かくのいいひろのぶ君とすすむ君にとりおさえられました。


おたんじょう会の次の日、それからその次の日も、二学期が終わっても、えりちゃん達みんなが小学校卒業してもずっと、まさる君は学校に来ませんでした。

おたんじょう会の次の日の新聞には、「小学校教諭 畑中勝容疑者(28)教え子に猥褻行為~自宅を捜査した結果、大量の」などという文章といっしょにまさる君の顔写真がのりました。まさる君はぜったい、40をこえていると思っていたえりちゃん達は、ひどくおどろきました。




後日談


結果的に良かったとはいえ、むすめのたんじょう会をかくしどりしていた事がばれたお父さんの「カメラをいしきしない自然のままのえりをとりたかった」というしゅちょうは、家族さいばんでしりぞけられ、ビデオカメラのぼっしゅうとおこづかいのげんがく、むすめへのスキンシップをしょうにんせいにするという重いはん決がくだされました。


後日談


かんべつしょから、出てきたまさる君を、みやけ君がでむかえました。みやけ君は、まさる君がせんせいだったころ、けんしゅうせいでした。あのとき、えりちゃんのたんじょう会にきていたオーバー20二人のうちの一人です。

みやけ君は、まっすぐまさる君の目をみて、いいました。

「あなたはせい教育者のかがみです」

みやけ君は泣いているようでした。

まさる君は照れたように頭をかくと、

「僕は、ただのへんたいですよ」

と言い、人差し指と中指をそろえて立てて、おでこにあてると、「アディオス」と言って、手首のスナップをきかせ、指をななめ前方に向けました。

みやけ君は、平成生まれで、あまりテレビマンガも読まなかったので、それが何だかわかりませんでしたが、まねをしててきとうにやったので、おでこの中心かられい力を放しゃする「悪りょうたい散」のようになりました。


その後の、まさる君の行方はだれもしりません。

空は、どこまでも青く、白い雲が、気持ち良さそうにうかんでいます。

sasuke8sasuke82008/09/26 09:18密かにタイトル変更しました。

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