だって、思いついたから このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-12-15君が忘れてもかまいはしないわ

白雪姫4

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そこで、女王さまは、ひとりのかりうどをじぶんのところにおよびになって、こういいつけられました。

「あの子を、森の中につれていっておくれ。わたしは、もうあの子を、二どと見たくないんだから。だが、おまえはあの子をころして、そのしょうこに、あの子の血(ち)を、このハンケチにつけてこなければなりません。」

http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/42308_17916.html

姫よ、白雪姫よ、お前はどこにいる?


白雪姫は森の中にいる。森の中で、男に手を引かれて歩いている。枯れ落ちた葉はしっとりと濡れ、歩く度に足に気持ちの悪い感触を残す。知らない鳥の声が聞こえるたび、白雪姫は短い悲鳴を漏らす。白雪姫は疲れきっている。白雪姫の手を引く、黒い服の男は、ただ森の奥を見つめ、白雪姫の歩調に合わせゆっくりと歩いている。

白雪姫は、始祖白雪の子。そして男は”狩人”だ。王宮の闇に仕える彼らが狩るのは獣だけではない。しかし”狩人”は迷っている。この期に及んで、まだ迷っている。手を引いている少女は七歳だという。”狩人”の男が仕える顔も知らない貴族はそれを殺せ、と言った。男にも家族がいた。男の一人娘は今年で7歳となっている。


時間を戻そう。始祖白雪の生んだ愛娘は、いかにして育ったのか。

最初、白雪姫は王宮にいた。始祖白雪が産んだ末娘は、人の形をした魑魅魍魎跋扈する王宮において、王に守られて、すくすくと成長している。最初の子が王宮の闇に消えてから10年後に生まれた子に王は狂喜し、溺愛した。皮肉なことに、闇に囚われて消えた姉姫の事件がもとで、王は、反対派の粛清を行い、ほぼそれは成功している。始祖白雪姫の死は、その粛清の最後の事件だった。敵はもういない。そして、白雪姫はいる。ここに。黒檀のように黒い髪と雪のように白い肌、血のように紅い唇をもち、白雪姫コロコロと笑っている。白雪姫はここに在る。


白雪姫は6歳になっている。その容貌は、美しかった王妃の面影を残し、そして同時に、先々代の王の一族、つまり先代の王が滅ぼした旧王族の特徴を再現している。しかし、誰もそれを表立って主張するものは王宮にはいない。王に歯向かう力を持った貴族は駆逐されており、王は全権を握っている。そして、王妃を失くした王は、母の面影を残す王女を溺愛している。王女の敵はいない。ただ一人、新しい王妃を除いて。

その年若き新王妃は、齢16で王宮に入った。王が見初めた、末席の貴族娘。成り上がり」の妃。しかし、誰もそれを言えはしない。王は前王妃の死から頑なに妃を娶らなかったのだから。跡目を継ぐべき王子が、必要だったからだ。そして、王妃は力をつけた。急速に。たった一年で。表でも、そして裏でも。


そして、今は? 新しい母が来て、7歳を迎えた姫よ。白雪姫よ、お前はどこにいる?

白雪姫は森の中にいる。”狩人”に手をひかれて。”狩人”は迷いのままに自分の家に白雪姫を連れてきている。

白雪姫は疲れている。白雪姫は、母に会えるという一心で、薄暗い森を、暗い表情の男と歩くことも我慢してきた。だが、もうすでに幼き姫の体と心は限界にさしかかっている。白雪姫は小さく聞く。

「ここに母さまはいるの?」

狩人”の男は曖昧な笑みを見せた。男もまた疲れている。

連れてきた娘を見て、男の妻は、最初驚いた顔を見せ、次に事態を察して表情を曇らせた。そして彼女を恭しく迎えると、娘の部屋に案内するように男を促した。

男が娘の部屋のドアを開けると、娘は笑顔で男を出迎えた。それで男は少しだけ疲れを癒す。そして、連れてきた美しい少女を見て娘がさらに顔を輝かすのを認めて少しだけ安心する。ここで遊んでいなさい、と二人に告げて、男はドアを閉める。そこには辛そうな顔の妻がいる。わかっている、と答える。男たちにできる選択肢など初めからない。そうでなければ、こんな狼の住むような森に小さな子を連れて住んでいるはずはない。それでも男は迷うことを選ぶ。迷っている間は人間でいられると信じて。


そして、男が長く重い話し合いを終え、重く辛い結論を出したとき、男の娘の部屋で運命は急転直下している。

部屋のわらにシーツを乗せただけの簡易ベッドの上で、男の娘は目を見開き突き飛ばした手を戻すこともできずに固まっている。手の先、ベッドの下には、頭から血を流して、目を閉じた白雪姫がいる。肌は白というよりも青白く。血は流れ続けている。

娘は、ゆっくりと手を下ろし、右手を唇にあてた。

「……死んじゃった」