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2009-12-10未完の対策

白雪姫5

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かりうどは、そのおおせにしたがって、白雪姫(しらゆきひめ)を森の中へつれていきました。かりうどが、狩(か)りにつかう刀(かたな)をぬいて、なにも知らない白雪姫の胸(むね)をつきさそうとしますと、お姫さまは泣いて、おっしゃいました。

「ああ、かりうどさん、わたしを助けてちょうだい。そのかわり、わたしは森のおくの方にはいっていって、もう家にはけっしてかえらないから。」

http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/42308_17916.html

姫よ、白雪の如き姫よ、お前はいまどこにいる?

お前は森にいる。人が住まぬ森に。狼と人ならぬ人が住む森に、お前はいる。


狼の棲む森の深奥を、狩人が少女を連れて歩いている。少女の肩に手をやって、ひたすら森の奥の闇を、それと同じ色をした瞳で見つめながら、狩人は歩いている。

この少女の年はいくつだろう? おれの娘と同じくらいだろうか? 背丈も声もおれの娘と似ている。おれの可愛い娘。おれはその娘に良く似た子どもを殺さなければならない。かわいそうに、震えている。怯えている? 知っているのか? お前を殺そうとする大人のことを。この先におまえの母親などいないことを。ああ、小さな手がおれの手を握る。娘に良く似た手。

嫌だ。おれは子どもを殺した事がない。おれは嫌だ。でも、おれは殺さなければならない。

狩人は貴族に雇われる暗殺者だ。ふつうに暮らせぬこの男は、人を殺して、家族を養う為の金を得ている。そして、人が住まぬ森に住んでいる。陽とならぬ人だ。男が受けた指令は、この身なりの綺麗な貴族の娘を森の奥で殺す事だ。指令を与えた貴族は、その証を寄越せといった。男は必ずこの娘を殺さなければならない。

それでも男は迷っている。森の深奥に少女を連れていき、狼の餌食とすることを決めた後も迷っている。迷っているが、男は少女を殺すだろう。男には守らねばならないものがある。妻、そして娘。

男はやがて、森の開けた場所にある大きな切り株に少女を座らせる。

ここで、待っているように少女に伝える。必ず迎えにくるから、と。

誰が迎えに来るかは伝えない。そして、少女が男から目を離した隙にその場所を離れる。耳を塞いで、男に出来る限り、急いで。少女の声が聞こえないよう、自分のしたことを忘れられるように。

だから、男には聞こえない。少女の声が。少女は、男の姿を見失い、叫んでいる。一言も喋らなかった少女が。身の危険を感じて。

少女は、叫ぶ。

「お父さん! 待って!」

娘の声に、狩人の男は気付かない。

従って、娘が白雪姫と入れ替わっていたことに気付かない。

娘は叫び続ける。しかし、男は姿を消し、男と入れ替わるように、狼たちが娘を取り囲み始めた。



時間を戻そう。

狩人が、連れてきた白雪姫を殺す事に迷い、その結果自分の家に連れ帰り、娘と遊ばせている間に、妻と話し合い、やはり姫を殺す事を決めたときに。


そのとき、狩人の娘は上機嫌だった。父が、友達を連れてきたからだ。

深い森の奥には友達はいない。人間すら、いない。いるのは恐ろしい狼。

だから、娘は素直に喜んでいた。

だが。

友達は、何も喋らなかった。立ったまま俯いて、喋りかける娘の声を聞いているだけ。いや、聞いているのかもわからない。

無理もない。娘は知らなかったが、その友達は姫なのだ。あるいは姫だったのだ。友達は怯えている。友達の住む世界は王宮だったし、ここは王宮とは違いすぎた。色も、手触りも、匂いも、何もかも。

それでも娘は嬉しかった。話を聞いてくれる同年代の女の子というだけで。

やがて娘は提案する。二人で遊ぼうと。楽しく話そうと。

そして、娘は、お気に入りのベッドの上に友達を上げる。父が持ってきてくれた新しい藁に、母が綺麗なシーツをかぶせてくれた新しいベッドの上に。半ば、無理矢理に、友達を上げる。そして、自分もその上に乗って。

提案する。

「お人形遊びをしよう?」

娘は、父が誕生日に作ってくれた木彫りの人形を取り出す。母が服を縫ってあわせてくれた服を着た人形を取り出す。そして、友達に渡そうとする。

だが、友達は首を振った。

娘はそれでも友達の手に人形を渡す。娘の手を取って握らせる。いいでしょう。お父さんが作ってくれたのよ。お母さんは服を縫ってくれたの。ね、かわいいでしょう?

ゴトリ。

人形はベッドの下に落ちた。友達の、姫の手から離れて。

「どうして?」

娘は聞く。

友達は答える。

「汚い……」

娘に血が上る。初めての感情が娘を支配する。それは怒りだ。怒りが、娘を突き動かす。

「汚くなんかない!」

ゴン。

今度は、友達がベッドの下に落ちた。少しだけ、押したつもりだった。ベッドはそんなに高くない。でも、友達は頭から落ちて。

血が流れた。

友達はもう動かない。

動いていない。

娘は放心から覚醒する。その後、理解する。

「……死んじゃった」

そして、娘は行動する。咄嗟に。何かに憑かれたかのように迅速に、偽装する。

狭い家で、父の足音は良く聞こえる。父の足音は、こちらに向かっている。

娘は友達の服を脱がせる。手触りの良い絹のドレスを脱がせ、自分が着る。友達の着ている下着までが、自分のベッドのシーツよりも綺麗で、娘はまた泣きそうになる。友達が被っていた頭巾を被る。そして、娘はもう一度、友達をベッドの上にのせる。重い。重い。重い。やっとのことで、友達をベッドの上にのせた。真っ白いシーツが血で汚れ、娘はまた泣きそうになるが、今度は泣かずにシーツを友達の頭まで被せる。

準備が整う、それと同時にドアが開けられた。ドアの向こうには、悲しそうな顔の父がいる。


狩人は部屋の中を見た。ベッドにふくらみがある。狩人の娘は疲れて眠っているのか。

その脇に、少女がベッドに腰掛けて、うつむいている。

狩人は少女に言う。娘の友達になれたかもしれない、だが今は娘である少女に言う。

「行こうか」

娘が寝ている事には言及しない。狩人はむしろ、娘が寝ている間に少女を連れて行くことができて、少しほっとしている。寝ている間に友達が帰ったと言うことができて、少しほっとしている。

狩人は、少女の手を引いて、森へ向かう。

狼の森へ。

歩いて、歩いて、歩いて、そして、時間は戻った。

語り始めの時間に。

狩人は、娘を森の奥に置き去りにして帰る。耳を塞いで、全てを忘れようとして。

そして、狩人の娘は森の奥で泣いている。


悲劇は連鎖する。それとも連鎖するから悲劇なのか。どちらでも同じだ。人は皆、演目を知らぬ役者だ。自分が上がる舞台が悲劇かどうかすらわからないのだ。


狩人が帰り道を急いでいる頃、狩人の家は襲撃されている。この森には人が住まない。棲むのは狼だ。

襲っているのは狼。森の深奥に住む狼の群れが、テリトリーを拡大して、狩人の家を襲っている。

そして、その狼を率いるのは、一匹の大きな狼だ。

その狼は大きい。他の狼の一回りもふた回りも大きい。

そして、美しい。真っ白な体毛は、野生動物とは思えぬような輝きを放っている。

そう、おまえ。群れを率いるおまえ。おまえは獣故に名を持たない。

今はまだ名もなき狼よ。おまえは先祖がえりだ。太古の昔、鎖で縛られる代償に神の腕を食い千切り、やがて神々の黄昏で、大神を食った狼。フェンリル狼の血を、おまえは引いている。

おまえ達の襲撃は既に済んでいる。

獲物は二匹。少し堅い肉と、柔らかい小さな肉。

賢いおまえはまだ一匹足りない、と感じている。おまえ達を殺すべき力を持った人間がまだいる、と。故に群れの狼たちを制する。祭りの後のような虚脱感でもって、遊び始める狼たちを諌める。

マダダ。マダ。

そして、研ぎ澄ます。感覚を、太古の狼のもった霊能を。

そして、聴く。

目の前の獲物の、その体の奥の血の声を。

…エ。

クエ。

フェンリル狼は血の声に従う。

それは群れのボスの当然の権利で、誰も咎めはしない。

フェンリル狼は、献上されたそれを、元白雪姫だったそれを、抑えがたき衝動に駆られて、喰らいつく。

喰らいつき、血をすする。血を。白雪姫の、血を。

そして、変化が起こる。

フェンリル狼のたてがみが、黒く染まる。真っ白な輝く体毛に、漆黒の、黒檀のような黒い鬣が現れる。

変化は、フェンリル狼の中でも起こっている。

意識に、何かが入り込む。

新しい衝動が。フェンリル狼を突き動かす。。

マモレ。

チヲ。

チヲ。

チヲ。

ツゲ!

そして、フェンリル狼は従う。フェンリル狼の野性に。新しく芽生えた本能に。

一度、フェンリル狼は吠えた。

それは別離の合図だ。

狼の群れは新しいボスを見つけるだろう。


白狼、深奥の狼のボス。先祖がえりの狼。フェンリル狼。

そして、おまえが白雪姫だ。

ナンバリングするなら、お前は5。

5人目の、いや5匹目の白。


フェンリル狼は、白雪姫は、駆ける。背中にはかつて白雪姫だった血のカタマリが載っている。

森の奥には、背中に乗せたカタマリと同じ匂いが続いている。まだこの森にあるのか? 継ぐべきものが、あるのか?

白雪姫は走る。白雪姫の血を追って。森の奥へ。奥へ。

狼の群れは二つあった。フェンリル狼が率いる群れと、別の群れ。その群れも強い狼が率いている。戦いになればどちらかがなくなるまで殺し合うだろう。だから、賢いフェンリル狼は戦わなかった。

だが白雪姫の臭いは、その狼の群れの真ん中にある。

フェンリル狼は躊躇しない。狼の円を突き抜けて、一気に中心に駆けつける。

そして見つけた。

哀れな娘を。父親に森の奥に取り残された娘を。そして狼の群れに囲まれ、怯える娘を。

白雪姫は走る。風の如く、なって、カマイタチのように、駆けて、狼を退ける。それらの狼はかつての仲間ではない。かつての敵。対立する狼の群れ。

泣き叫ぶ少女の前に立ち、率いるリーダーに向かって、白雪姫は吠える。

タチサレ! 

群れのリーダーは、ただ部下の狼に命ずる。

クイコロセ!

そして死闘。白雪姫は止まらない。その巨体でどの狼より速く動く。

リーダーの喉笛を噛み潰し、相手の血を飛ばしながら吠える。

アタシハ、シナナイ!

アタシガ、ツグ!

雪の如く白き体毛と、黒檀のように黒いたてがみを持ち、狼たちのおびただしい血を浴びて、フェンリル狼は吠える。

そして、狼たちをなぎ倒した後、森の奥へと消える。


そして、白雪姫は、継がれた。

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