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2010-09-21下卑た怪漢

『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女の子に

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結婚するまでは一緒に住まないという取り決めを忠実に守り、彼女の荷物が新居に届いた次の日に結婚式をして、そのあと2次会で日付が変わるまで飲んで、その日の早朝に居酒屋から空港直行して飛行機海外へ飛んだ。南の島の強烈な日差しと海の風で時差ボケを吹き飛ばし、着いたその日から海で遊びまくり疲れ果ててホテルに帰ると夕食もそこそこに風呂に入って今二人でベッドの上。今から初夜、慌しかったけど僕は元気です!

僕の妻となったベリーキュートスイートハニー(19歳)は、大きなダブルベッドで一通りはしゃいだあと、少し疲れて、今は僕(26歳)のとなりで寝転んでいる。小さな体を包むキャミソールオーバーパンツ彼女によく似合っていて、それから伸びる白い手足はお風呂上りで少し上気していて、抱きしめるのさえためらう程美しい光景で、僕は微笑ましく幸せな気持ちに包まれている。

よし。

僕は決意と共に、ベッドから降り、冷蔵庫のところまで歩く。冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して、少しだけ飲んだ。そのままソファに放っていたバッグをつかみ、ペットボトルと一緒にベッドのサイドボードに置いて、またベッドに上がった。

彼女の視線に笑みを返し、僕はおもむろに彼女に言った。

子供がどうやってできるか知ってる?」

彼女は何か楽しい遊びかしらと、というように微笑み、

コウノトリが運んでくるの」

と言った。

改めて、彼女の目にジョークの類の光がないのを確認すると、僕は計画していた通り、バッグから実家にあった中学校の保健体育の教科書を取り出した。




僕と彼女生命の神秘を、中学保健体育の教科書で学び終えたとき、時計の針は午後11時40分を指していた。彼女は午前0時まで起きていたことがないので、僕は少しだけ焦る。

「さて、もう一度聞くよ。子供はどうやってできるの?」

うつ伏せに寝転んで、枕に顔を埋めていた彼女は、がばと顔を上げて言った。

キャベツ畑で生まれて、コウノトリが運んでくる」

僕は優しく微笑んだ。

「いいかい、もう一度聞くよ」

「ええ~。もう眠いよ~」

彼女は、再び枕に顔を埋めて、足をばたばたとさせた。

僕は溜息がつくほど可愛いそれを、別の意味で溜息をつきながら眺めた。

まったく、義務教育は何をしていたんだろう。彼女卒業させてしまった学校を僕は憎む。


僕がしばし作戦を考えていると、いつの間にか起き上がっていた彼女の手が僕の頭をなでた。

「イッ君は、赤ちゃんが欲しいんだね……大丈夫だよ。朝起きたら、赤ちゃんできてるよ。ハネムーンベイビーって言うんだよ」

シーちゃん、今夜受精したとしても着床するのは九日後で、出産は十月十日後だよ、とは言えず僕は彼女を見つめた。優しい子なのだ。

僕はこのとき、彼女を押し倒してしまえばよかったのだろう。四の五の言わずに六なり九なりやってしまえば良かったのだろう。

でも、僕にもプライドがあった。それに、彼女に正しい知識を与えるのが、家庭教師として彼女と知り合った僕の役目のような気がしていた。

僕は最後の手段をとるために、テレビのリモコンを手にとった。有料放送がなければ、DVDがバックに入っている。

シーちゃん。あのね」

そのとき、部屋の電灯が消えた。

きゃっ、と小さな悲鳴をあげたのは僕で、目が慣れてくると、彼女は同じ体勢のまま平然としていた。

停電かな」

醜態を取り繕うように発言をするが、彼女はそれに答えず窓の方をじっと見ている。

よくみると、カーテンから光がもれているようだ。窓全体が発光しているようにも見える。


パンパカパーン! パパパ、パンパカパーン

とつぜん冗談のようなラッパの音が響いた。

カーテンが独りでにさっとひかれ、まぶしい光が室内に飛び込んできた。

窓の外に、何か銀色のぬらぬらしたものが見えたかと思うと、窓を付き破って、その銀色が侵入してきた。

銀色の風船がまどからはみ出ているような状況、やがて、その風船の中央部分が溶けるようにして、ぽっかりと穴が開いた。その穴から、銀色全身タイツを着た青年が現れた。

コウノトリさん!」

彼女が嬉しそうに叫んだ。

タイツ青年はにこやかに手を振る。

「久しぶりだね。シノブちゃん。君の弟のとき以来かな」

コウノトリさんは、銀色スーツに身を固めている以外は、どこまでもさわやかな青年で、その物腰は、優良営業マンのそれである。

「君が、シノブちゃんを射止めたラッキーな男だな」

と僕を指差して、幸せにしてやってくれよ、と白い歯を見せて笑った。

呆然とする僕の手を彼女が握り、

「ほら、コウノトリさんきたよ!」

と言って、笑った。


タイツ青年が、傍らに持っていたキャベツの葉をおもむろに一枚一枚むき出して、中から泣き声と共に赤ん坊が現れたときに、糸がほどけていくようにして、僕の理性は消えていった。

「ここ、こ、これは……」

何故か全身が震えだした僕の手を、彼女が握り、いつもの微笑を浮かべながら彼女が口を開いた。

「イッ君。セックスなんて不確実で、非効率な生殖方法は、今や時代遅れでしかないんだよ。地球環境にとって増えすぎた人類が、地球生命としての要請を受けて緩やかに滅んでいくことを受け入れるというなら、セックスによる生殖を続ける事に意義はあるのかもしれないけれど、そうではないでしょう? 人類人類だけが幸福に生きることを目標に掲げてしまって、それを今更取り下げる事はできない。永続的に人類が生き残る為には、自然生殖ナンセンスなの。生殖は、リソースと要求を把握して、そこから設計して実装するプロジェクトと捉えるべきよ。

人類は、本能の上に文化というレイヤーを被せて制御するようになった。それによって人類知的レベルは著しく向上したけれど、誤算もあったの。上層から下層に対して影響を及ぼしてしまう、というね。例えば、食事やセックスは娯楽として消費されるようになり、本来の機能が抑制されてしまった。ジャンク・フードだけを食べる人々が増え、避妊技術が求められたかと思えば、不妊人類を蝕む。

上層をトリガーとする変化という点では、人類という種が知的活動により進化してきたことを考えると当たり前なのだけど、さらに上に行くためには、文化本能は切り離して考える必要があるの。例えば、生きるための栄養は、点滴や錠剤の方が効率的。つまり、生きるための食事と、娯楽としての食事を切り分ける。セックスも同様に、生殖と娯楽を分ける必要があるの。まあ、現在地球人類の科学倫理レベルですぐに受け入れられるとは思わないわ。あなたが驚き戸惑うのも恥ずかしいことではないってこと。新しい物を受け入れていくことを恐れずに、少しずつ進化していけばいいと、わたしたちは考えてる。そして、あなたに正しい認識進化を与えるのが、きっとわたしの役目なのね。

 今、わたし達の最高の愛を受け取るように、最高の知性と技術によって、わたしたちの可愛い赤ちゃんデザインされ、この世に生まれ出でたのよ。さあ、抱いてあげて」

彼女は一息でそこまで言うと、コウノトリの方を向いた。コウノトリが僕を見て、満足気な笑みを見せた。


突如、大音量で、オーケストラによる「ハッピーバースデー」が部屋に流れる。

僕はいつのまにか、ぼろぼろと涙を流している。

彼女がうんうんとうなずきながら、僕を抱えるようにして、ベッドから降ろし、僕らの赤ちゃんを抱くコウノトリの前にまで導く。

僕は、コウノトリから、赤ちゃんを受け取った。

赤ちゃんは、薄緑の柔らかな布にくるまれていて(布はよく見たらキャベツだった)、もう落ち着いたのか、キャベツの葉をしゃぶっている。赤ちゃんの顔は、彼女の目と僕の鼻と彼女の口と彼女の輪郭で構成され、僕の髪がのっかっている。

僕の理性はほぼ崩壊していたが、現実を受け入れる為に新しい論理が構築された。

僕が元気で、可愛い妻がいて、可愛い二人の赤ん坊がいる。それ以上の何かが必要だろうか。いや、ない。僕は、全てを受け入れる。全てを。

「何だかわからないけど、わかったよ。この子が僕たちの赤ん坊なん……」

「……チェンジ

「え?」

コウノトリさん、ちょっとこの鼻のラインおかしくない? 目もさ、もっとこう、ぱっちりしてる方がいいんだけど」

コウノトリは明らかに困り顔で、いや要求どおりのつもりなんだけど、とぶつぶつ答えるが、彼女がきっぱりと言った。

「あたしは、こんなの、要求してない」

あれー……おっかしいなー……そんなはずないんだけどなー、とコウノトリは手許の書類を何度かめくったりしていたが、最後に上目遣いで言った。

チェンジ、します?」

チェンジで」

了解しました、と少し面倒くさそうにコウノトリは僕から赤ん坊を取り上げると、再びキャベツの葉でくるんで、銀色の風船の中にほうりこんだ。

「では、また……えーと、来週くらいになりますけど」

「それでいい」

失礼しまーす、と軽い挨拶と共にコウノトリ銀色の中に消えた。銀色の風船が、するすると縮んで窓から消え、光も消える。それと同時に、部屋の明かりがつき、窓とカーテンがひとりでに閉まった。

彼女はあくび混じりに「おやすみ」と言ってベッドに入ってしまい、直ぐに寝息が聞こえてきた。

僕は呆然と立ち尽くしたあと、ひとりシャワーを浴びた。

シャワールームからでて、全てが夢ではと思って、カーテンをめくってみたが、窓ガラスにはぽっかりと穴が開いていた。

僕は、整理できない喪失感を抱いたまま、のろのろとベッドに上がり、彼女と反対側に丸くなって、眠った。





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通りすがり通りすがり2010/09/23 23:42あなたならきっと阿刀田高の短編の続きを書いてくれる

sasuke8sasuke82010/09/24 08:04寡聞にして、阿刀田高を知りませんでした。また読んでみます。
読んでいただき、ありがとうございます。

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