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2012-05-07無益トライ勘ぐる

無敵トライアングル銀城の伝説

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人力検索かきつばた杯

お題:

ミラクル博士」「無敵のトライアングル

 の何れか(あるいは両方)から連想したストーリー

http://q.hatena.ne.jp/1335661920


無敵トライアングル銀城の伝説を知らないものは、少なくともこの弓浜小学校区にはいない。

曰く、トライアングルけが友達だった。

曰く、27個のトライアングルを同時に扱えるのは銀城だけ。

曰く、5歳までトライングルのみで育てられた。

曰く、トライアングル狩猟大会で3メートルヒグマを狩って優勝。

曰く、狙撃されたが体に装着していたトライアングルで弾いた。

と銀城の伝説がいくつあるのかもよくわからない。銀城は無敵のトライアングラーとして弓浜小学校に6年間君臨し、その後どこかの私立中学に入学したらしいが、そのあとのことは誰も知らない……知らないってのに。

「銀城はどこだァ!」

今日も銀城について聞きにくる奴がいる。こいつらは、トライアングラーなら銀城の居場所を知っていると短絡的に思い込んで、わざわざトライアングル部の部室までおしかけてくるのだ。しかも、なぜか喧嘩腰なので、話をちゃんと聞いてくれない。

今日の訪問者は赤川。5年7組のカスタネッター。重爆カスタネッツ赤川。両手両足両膝両肘に装着したカスタネットが、赤川が動く度にカタカタ鳴ってうるさい。原色の赤と青のツートンカラーの異常なジャケットの中にもカスタネットが仕込まれているらしく、ひたすらにうるさい。

他に誰もいないのでしょうがなく僕が答える。

「知らないって言ってるだろ」

「知らないわけあるか。お前、トライアングラーだろ!?

ほらね。こいつら、バカなんだ。

「あのな。トライアングラー同士の繋がりなんてないし、銀城なんてたしか5年も前の卒業生だろ? 知ってるわけないだろ」

「本当か? 庇ってるんじゃないのか?」

僕は赤川の言うことを無視して宿題の続きをやる。漢字の書き取り10ページ。この単純作業に意味あるの?とか思わないよう集中しなければこんな無意味な作業はできないくらい僕は賢い。なので無駄なことはなるべくしない。無駄無駄無駄なんだ。トライアングラーだって受験に有利じゃなければ絶対ならないし近づきたくもないのだ。

「銀城はどこだァ!」

とかくこの世には無駄ものが多い。

本日二人目の訪問者の俊敏タンバリン木村は、高速で反復横跳びをしながら入ってきた。正気を疑う。しっかりタンバリンは鳴らすのでパンパンシャラシャラうるさい。

「うるさい!」

とりあえず叫んでみたが、音は止まない。楽器使いにとって音を止めることは敗北を意味するからだ。くだらないが、そうなっているので仕方がない。無視無視、集中集中

カパン!というおかしな音がするので顔を上げると、案の定赤川カスタネット木村タンバリンで受け止めた音だった。

「ここ、部室だぞ!」という僕の声は、やかましいカスタネットタンバリンに遮られる。

「「銀城に会うのは俺だッ」」

狭いトライアングル部室で二人の楽闘が始まる。


「やめろって!」叫びながら、僕は机ごと移動する。巻き込まれてたまるか。

赤川が、カスタネットの蛇を展開して部屋中がカタカタという音で埋まる。蛇は無数に連なったカスタネットで、赤川の手の指揮棒の動きに合わせて、音を鳴らしながら赤川の周りを回転している。蛇は部室の棚やら机をがりがり削りながらも回転を緩めない。棚からトライアングルがいくつか落ちる。初見ではビビってしまう大技だが、木村は冷静に反復横跳びしながら赤川の手を見ていた。蛇が回転を十分に高めた頃合いで、赤川の手が木村に向かって振り下ろされる。その瞬間にタンバリン木村の手を離れた。赤川は意に介さずに蛇をタンバリンにぶつける。ちょうど赤川木村中央タンバリンは蛇に食い破られる……その瞬間にタンバリンが弾けた! タンバリンの周りの鈴が小手裏剣のように散開し、赤川を襲う。

我慢できたのはそこまでだった。

僕は腰の左右につけられたホルスターからトライアングルを抜く。机を蹴って、二人の間に飛び込み、両手のトライアングルダガータンバリン手裏剣を弾き落とす。

「そこまでだ」

無駄なんだ。試験以外の楽闘なんて。喧嘩スレスレで内申書にだってよくない。でも……。

「それ以上、ここを荒らすなら僕が相手になる」

両手のトライアングルで、赤川木村の喉元を狙う。十分な距離があっても、僕の威嚇は届いたようで、二人が動きを止めた。しかし音は止まない。僕も両腕を振動させ、手の甲にとりつけたビーターにより一定リズムトライアングルを鳴らす。狭い部屋にタンバリンカスタネットトライアングル、そして僕たちの心臓の鼓動が響く。

こんな無駄ものが、どうしてこんなにも楽しくて、僕を熱くさせるのか。

楽器を持って相手と向かい合う緊張感や、鍛え上げた技をぶつけ合うときの興奮はなにものにも代えがたい。そして戦いの中で奏でられる、世界で唯一の音楽。僕はこの、お互いの楽器がぶつかり合って作られる新しい音楽が好きだ。

僕は無駄しかないこの楽闘に憑りつかれてしまっている。


「何、笑ってんだ」

知らずにやけてしまっていたようだ。しかし、そういう赤川の顔も、木村の顔にも笑みが浮かんでいる。この頭の悪いやつらと僕は同類なのだ。僕は戦闘用の笑みをうかべて言う。

問答無用だ。かかってこ」

白井、いる?」

三人目の来訪者に部室のドアが開けられて、僕らは瞬時に動きを止めた。

顔を覗かせたのは5年2組の並原で、白井は僕だ。並原の後ろには黒いギターケースが見えて、さらにその後ろには退屈そうな女の子も見える。

「な、なに?」僕は両手を後ろに回しながら、答える。

「あれ、今取り込み中?」

「いや、別に

無言で赤川を見るが赤川視線をそらし、木村は下を向いている。

「……何もないけど」

「そっか。じゃあさ、今からマックいかね? 井路小の女子もくるんだけど……ま、ぶっちゃけ数合わせなんだわ。ははは。ごめん。でも白井彼女いなかったよな? いくだろ?」

「え、えっと、塾……あるから

「まじかよー。休んじゃえよ」

「そういうわけには……」

その後しどろもどろの言い訳をくりかえし、なんとか並原は帰っていった。僕はほっとため息をつく。そして情けなさに泣きたくなる。

女の子たちとは話したい。しかし、並原たちと一緒に行くということは、ギターとかドラムとかヴァイオリンなんかと一緒に並べられるわけで、それは僕にとって地獄に等しい。

楽器には格差がある。先生はそんなものはないというけれど、現実に現れるそれは、僕らの心をいとも簡単に切り裂いてしまう。

つの間にか音が止んでいた。楽闘は終わった。

「じゃ、帰るわ……」力なく赤川が言い、「俺も」と木村も続く。赤川はなるべくゆっくりカスタネットを鳴らさないように部室を出ていき、木村ふつうに歩いて帰っていった。

部屋に僕だけが残った。さっきの赤川カスタネット蛇のせいで部屋に散らばったトライアングルを片付けていく。そして、最後ひとつ、一際大きいトライアングルをぎゅっと握りしめる。そのトライアングルには名前が彫られている。

「無敵トライアングル・銀城」と。


無敵トライアングル銀城の伝説ひとつにこうある。

曰く、銀城は不細工なのに超可愛くて優しい彼女がいる。

僕らが、銀城に憧れるのは、おそらくこの一点だ。マイナー楽器使いで不細工なのに銀城はもてた。伝説によると、恋のトライアングルをいくつも作っていたらしい。

僕らがヒエラルキーの底辺から抜け出す方法を、銀城なら知っているのかもしれない。並原の彼女なんてパグみたいなもんだから、銀城の彼女の半分のパワーの彼女がいれば、僕らは何の憂いもなく楽闘に打ち込めるはずなんだ。何か一つ、人に負けないカードを持ってさえいれば……。僕らの考えは間違っている。でもルールがそうなっている限り、子供の僕はルールに則って戦うしかないんだ。


僕は伝説の男が使っていたトライアングルを棚にもどした。そして、また机に戻り、漢字の書き取りを再開する。

今日も僕は待つ。音のないトライアングル部室で、無敵トライアングル銀城が、5年ぶりに忘れ物を取りに来たりするような奇跡を。

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