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2010-09-16一点突破が心情です

奇剣・斜星(はすぼし)

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虚間流の貴島新太郎が師範代であった頃、丹生郡杉村を訪れることがよくあった。

貴島家は、藩に召抱えられたれっきとした武士であったが、身分は下士であり、さらに貴島家の抱える虚間流道場の維持など、経済状態は決して裕福ではなかった。そんな中、道場の師範代以上の剣士による、農民や町人相手の剣術指南は、重要な資金源となっていた。


貴島新太郎は、刈り入れの終わった田んぼを借りて、数人の力自慢や、周辺の浪士に対して、剣術指南を行っていた。指南と行っても、教えるのは虚間流剣術の初歩までである。

その剣術稽古田んぼの端で見つめるひとりの子供の姿があった。

貴島は、子供が虚間流剣術を覚えるのを快く思わない。虚間流剣術子供に扱えるものではないという信念がある。

貴島は子供に近づいた。余所で遊ぶように注意する為である。

しかし、貴島は、その子供を見て、驚いた。

子供は見様見真似で、虚間流の稽古をしていた。

貴島はしばらくそ子供の様を見つめた後、声をかけた。

坊主、名は」

子供は涼しげな顔で答えた。

「惣太」

「惣太は剣の天稟を持っているな」

「てんぴんって何?」

「お前は強くなるということだ」

貴島はこの子供を連れ帰り、虚間流道場に住まわせる。

貴島は、後に、このときのことを次期跡目となる水野春郎太にこう語っている。

「惣を最初に見たとき、おれは雷に打たれたかのように動けなかった。虚間流に先があるとするなら、奴が創るだろう。奴の才には未来がある。神速自在の剣。あれは、人の域を外れている」

貴島新太郎がここまで弟子を褒めたのは後にも先にもこのときだけである。




1


山に向かう田んぼのあぜ道をひとりの侍が歩いている。

侍は人が入るような大きな行李を背負っているが、足取りは軽い。

あぜ道を抜けると、鬱蒼とした森が姿を現した。この森が、山の入り口である。獣道のような頼りない道が後に続いている。

侍は迷わずに奥に進んだ。

やがて、少し森が開けたところに、小さな祠があった。祠から先、道が坂道になっている。

侍は祠の前に屈み、手を合わせた。祠の中には地蔵様が据えられている。

「うう……」

そのとき、近くでうめき声が聞こえた。

侍が後ろに回ると、男が祠にもたれかかるようにしてうずくまっている。

大丈夫ですか」

侍が声をかけると、男は驚いて座ったまま後ずさった。

男は汚れた黒い着物を着ている。左腕の袖に血が滲んでいた。

侍は男に手をさし出しながら言った。

「拙者は怪しいものではありません。この山を根城にする山賊を殲滅せよとの命を受けて参りました。もしやその傷は山賊に?」

侍に害意が無いと判断したのか、男は侍の手を取り立ち上がった。

背は高い。黒い着物は泥で汚れているが、腰には大小がささっている。

「かたじけない。わたしは恵心と申します。ご覧のとおり、貧乏浪士です。仰るとおり、この傷は山賊にやられました。恥ずかしながら、先ほど、山を越えてこちらに向かう途中に山賊に襲われ、命からがら逃げてきた次第。この山は、かねてより、近道として利用していたのですが、まさか賊が住み着いていようとは……」

侍はうなずいている。

「どうやら、ここ一年のことのようですね。輩をまとめる頭がいるようで、この山を拠点に、付近の村々を襲ったり、街道側に降りて、商人武士を襲ったこともあったようです。とうとう藩も見過ごせなくなり、わたしが命を受けたというわけです」

「……失礼だが、あなたはおひとりですか?」

「はい」

「ならば止めておいた方が良い。わたしが直接見たのは5、6人程ですが、弓で狙ってきたものもいました。砦にはもっといるかもしれない」

「砦? あなたは山賊アジトを知っているのですか?」

恵心と名乗った男は、侍の勢いに押されたのか、少し戸惑いながら答えた。

「実は、わたしが襲われたのはその砦に近づいたからなのです。いつもの道から外れたところに道がついているのが気になりまして、そちらに行った所、山賊の砦に行き着きました」

「ほお」

興味深そうに話を聞いていた侍は、懐からこの山の地図らしきものを取り出して、恵心に見せた。

「どの辺りか、わかりますか?」

恵心が説明しながら指で指し示すのをうなずいていた侍は、話を全て聞くと、地図を懐にしまった。

「大体わかりました。ありがとうございます。何とかなりそうです。では」

そう言って、山に向かおうとする。

恵心は慌てて、

「ほ、本当におひとりで行かれるのですか?」

と聞いた。

振り向いた侍ははじめはきょとんとした顔だったが、やがて笑顔を浮かべて、

大丈夫でしょう。なあに、敵わなければ逃げてきますよ」

と言った。

恵心は、まだ心配そうな顔をしながらも、少し頬を緩めて言った。

「……どうやら、ずいぶん腕に自信がお有りの様だ。さぞかしお強いのでしょうな。失礼ですが、貴殿のお名前と流派を教えていただけますでしょうか?」

侍はにっこりと笑って言った。

「拙者は早杉惣右郎と申します。虚間流の師範代をしております」



2



早杉惣右郎が山に入って、一刻が過ぎた頃、恵心もまた山に登っていた。

やがて、恵心の目の前に平地が現れた。

道は真っ直ぐ続いているが、右手にも草が踏み固まった別の道が続いている。

恵心は右の道に進んだ。

しばらく進むと、空気に血の臭いが混じった。

恵心が見回すと、草むらに、二人、黒い肌に古い足軽胴を付けた男が転がっている。

山賊の見張りであろう。

恵心は、それらの死体に屈み込み、しばらく検分した後、先へ進んだ。

恵心の口許には薄い笑みが浮かんでいる。


ほどなく、恵心は山賊アジトに到着した。

山の斜面を背負うようにして、四軒ほどのあばら家がある。それらの周りをぐるりと、大人の胸ほどの高さの丸太の杭と板が囲っていた。

恵心は中央の、唯一囲いが開いているところから、中に入った。かつて門扉だった板は、壊されて中に転がっていた。

「おぉ」

恵心はおもわず息をもらした。

そこらじゅうで人が死んでいる。先ほど、見かけた死体と同様に、それぞれ薄汚れた着物足軽胴もしくは、獣の皮のようなものを身に付けて、手には刀や竹の槍などを持っている。

恵心は、先ほどと同じように死体の脇に屈み込み、それぞれが本当に死んでいるか確かめるようにして、調べていった。

奇妙な事に死体のほとんどが、喉や胸に刀が突き刺さっていた。斬られて死んでいるものも何人かいるが、ほとんどが刺し傷であった。恵心があたりを見回すと、家屋の屋根にも、何本か刀が刺さっているのが見えた。


恵心は一通り調べ終わると、一番奥の家に向かって歩き始めた。

一番奥の家はもっとも大きく、一段高く作ってある。

その家の戸口から、ひとりの男が顔を出した。

「また会いましたね」

早杉惣右郎であった。戸口の柱に体をあずけて立っている。その顔は、少し血で汚れていたが、先ほど、恵心が会ったときと、さほど変わず、疲れた様子もない。

恵心は驚いた顔で声を出した。

「これは……全て、あなたがひとりでやられたのか」

「まあ、そうです。あなたに教えていただいたことが役立ちました。なあに、たいしたことではありませんよ」

「しかし、凄まじいことだ……こんな」

「何か、こちらに御用ですか?」

恵心の世辞を止めるように、惣右郎は尋ねた。

恵心は、少し決まり悪そうに答えた。

「実は、先ほどは言いませんでしたが、賊に盗られたものがありましてね。わたしの商売道具なので、なんとか取り返せぬかとこうして、ノコノコ参ったわけです」

「それは、これですか?」

惣右郎は、左手に持っていた紙を見せた。

紙には空にしなだれかかるようにした半裸の女の絵が描かれている。

恵心は恥じるように、頭に手をやって、うなずいた。

「恵心殿は、絵を描かれるのですか。素晴らしい。わたしは、いままでこんな絵を見たことが無い」

「いや、お恥しい限りです」

「誇るべきですよ。これは……眼鏡ですね。なんとも、美しい。山暮らしで女ッ気の足りない山賊たちには、これは喉から手が出るほど欲しいでしょうね」

「お戯れを……ただの春画でございます」

惣右郎は、惚れ惚れとした目つきで、絵を眺めている。

しかし、近づこうとした恵心を、鋭く押し止めた。

「そこまで」

「は?」

「失礼しました。実は、まだ山賊の頭を捕らえてないのですよ。どうやら、わたしが来たときには砦にはいなかったようだ」

「なんと……では近くに」

「ええ……しかし、頭の姿形は、先ほど聞きました」

恵心の目つきが変わった。

惣右郎は、絵を懐にしまうと恵心に向き直った。

「頭は侍……黒い着物で背が高く、そして、この絵は頭が描いたそうです……頭は、あなただ」

恵心は、笑みを浮かべて、刀を抜いた。

「ええ……あんたは、なかなか"やる"男のようだ。斬るのにも、斬られるのにも相応しい……。俺は揺地知眼巳*1流の女鹿*2恵心。虚間流早杉惣右郎、死合って頂くぞ」


3


最初、虚間流の"鬼殺し"の貴島が来ると思って、わざわざ見張っていたら、無名の若造がひとりで来た。貴島であれば、あそこで仕合うつもりだったが、気分が萎えた。世間知らずの餓鬼は、身の程を知って死ねと、砦まで案内してやったが、まさか、こんなことになるとはな」

恵心は刀を正眼に構えている。だが、まだ距離がある。惣右郎は、まだ刀を抜いていない。

「あなたの手をとったとき、そこそこやるのはわかっていた。ただ、違和感があったのは、絵描きの手でもあったからか」

惣右郎が両手で刀を抜いた。右手に本差、左手に脇差を持っている。

「二刀流か。虚間流の噂は聞いている」

「噂どおりか、試されるがよかろう」


惣右郎が構えた。

(勝負は一瞬で決する)

恵心はそう感じていた。

しかし、負ける気はしない。

恵心は、惣右郎の二刀流がはったりであり、脇差は飛ばす為にあると見抜いている。

虚間流、斜星*3

その奥義の名前を、恵心は知っていた。奥義の為、詳細は知れぬが、流れ星の如き突撃であるという話を聞いたことがある。山賊退治を生業とする虚間流については、山賊の間では知らぬものはない。ただ詳細が知れぬのは生き残りが少ないからである。

さらに、部下である山賊たちの、刀が突き刺さったままの死体から、恵心は、惣右郎が剣を飛ばしたと見当をつけていた。惣右郎が背負っていた行李は、飛ばす為の刀が入っていたとまで見抜いている。

曲芸のような邪剣。されど、結果は、十数人の荒くれ供を全殺する威力。


恵心に侮りはなかった。そして、恵心には恐怖もなかった。

恵心の心は、剣を持つときだけ、かつて剣の頂を目指した頃の純粋な静けさに満ちた。自分をさし置いて跡目をついだ弟弟子と、弟弟子を選んだ師匠を斬り、山賊に身を落した今では、剣を持って向き合う事だけが、誇り高く、危うい恵心の心を支えている。

この心のまま死ぬ。

それが、恵心の目的であり、人生である。

恵心は無意識の内に笑っていた。

そして、惣右郎に向かって駆けた。


揺地知眼巳流の流儀は、先の後の先と言われる。

相手に先じて仕掛け、相手の反撃を誘って、その反撃を交わして刺す。

その奥義は目にある。揺地知眼巳流の開祖は、木々や実が、風に吹かれて揺れるのを、静止した絵の如く、見ることができたという。

その目が、惣右郎の奥義を捉えた。


惣右郎がゆっくりとした所作で脇差を持った左手を下腹部の位置まで落とした。

その緩慢な動作が逆に、危険を恵心に知らせた。

(この緩急に惑わされるな。この手の動きが止まったときに来る)

惣右郎の胯間が動いた。瞬間的に膨張し硬化した陰茎が左手の脇差の柄尻を神速で突き出す。陰茎に弾かれた脇差は、恵心に向かって目にも止まらぬ初速を持って飛び出していく。

(まさか!)

しかし、極限まで時間を縮めた恵心にさえ、相手の下腹部が光ったとしか理解できない。

並みの使い手であれば、下から斜に打ちあがる星に貫かれて絶命するであろう。

しかし、恵心は並の使い手ではない。

(タネがわかれば避けるは容易い)

自分の喉下に迫った剣を、ギリギリで交わす。恵心の首の皮一枚がそぎ落とされる。

そして、恵心はさらに己の周囲の時間を遅くさせる。相手の刹那を見逃さぬよう、その刹那自分の動きをあわせられるように。

斜星が奥義であるなら、それだけではないだろう。

これは斜星の初太刀。相手が弾くか、避けられたとき、その隙をつく、二太刀目こそが奥義。おそらくそれは右手の本差による斬撃であるはずだ。

ここで、裂帛の気合を込めて、恵心は叫んだ。

斬撃ごと、相手を斬る。

振りかぶった剣が惣右郎に向かって伸びていた。

恵心の達人としての感覚が初太刀での勝利を認識する。驕りではない。鍛錬と修羅場をくぐりぬけたことによる己への自信と正確な認識が、瞬時に状況を判断し、次の行動を可能にする。

しかし、そこで、恵心の視界は黒く塗りつぶされる。直後にまぶたに熱を感じた。

(目潰し!)

目潰しをされたという驚きよりも、自分がそれを全く認識していなかったことに驚く。同時に、その嗅ぎなれた匂いから、正体を知る。

(これが斜星の二の太刀!)

起つと射つ、あの男はそれを同時に行ったのだ。

(まさしく奇剣よ)

恵心は即座にまぶたを開ける。目には到達していない。瞬時に目を瞑り最悪の事態は脱した。

目の前に、変わらず惣右郎はいた。

いや、その右手が、下腹部に到達している。

再び、惣右郎の下腹部が光った。

(避けられぬ)

近すぎた。

師の言葉が蘇る。

「恵心よ。貴様は強い。されど、その自分の強さを、疑い続けねばならぬ。この世の何事も決めつけてはならぬ。貴様が『まさか』と思ったとき、貴様は負ける」

(瞬きほどの間に、二発、連続で勃てるとは……まさか、だ。世は広い)

恵心は死を悟った。


4


「何故、殺さなかった」

惣右郎は、無言で死体から刀を回収してまわっていた。

恵心は座ったままである。

恵心が死を覚悟した一撃は、恵心の刀を弾き飛ばした。その刀も、今や恵心の側にある。

「何故、殺さなかった」

惣右郎の背に、恵心は再度問うた。

惣右郎は答えない。

恵心は刀を持ち、立ち上がった。

馬鹿にするのか、貴様も。俺は武士だ。剣に生き、剣に死ぬ!」

つぅんという弾ける音がして、恵心が自身の首に当てようとした刀が飛んだ。

顔を上げた恵心の前には、振り向いて、斜星を打ち出した惣右郎の姿がある。

恵心は、べたついた胸元と首元を拭うと、膝から崩れ落ちた。そして、むせび泣いた。

惣右郎は、刀の回収を再開しながら、ぽつりと言った。

「負けていたのはわたしの方かも知れない」

「情けはよせ!」

「情けではないよ。恵心」

恵心を見下ろす惣右郎の顔に勝者の愉悦はなかった。

儚い。恵心は何故か、この若者がこのまま消えてしまうのではないかと思った。

最近、考えるのは、剣士の旬についてだ」

惣右郎は死体から刀を抜き、血を拭きとっては行李にしまう。

「わたしが剣を握ったのは十の頃だ。あの頃は力を持て余していた。虚間流を習い、自分の力が制御され、発揮されることは大きな喜びだった。師匠は、それを喜んでくれた。わたしは鍛錬を続け、人を、斬って、斬って、強くなった。だが、それから十余年。それはいつまでも続かないことを知った」

恵心は、かつての自分も同じような事を考えていたと思い出した。いや、今でも剣を持てば、いつまでも同じでいられるのだと信じているのかもしれない。

「かつて、師匠はわたしのことを神速勃起射精自在と褒めてくださったことがある。しかし、今では、火縄銃のごときだ。わたしが一番わかっている。今回も、奇襲のような形で数を減らしてからでなければ、山賊共にやられていただろう」

「ふん。俺は全盛期に遠く及ばぬお前に、負けたということか」

「いや、そうではない。わたしは全盛期の力でお前と戦った……これのおかげだ」

そう言って、惣右郎は、懐から、あの春画を取り出した。

「わたしはこの絵を見たとき、いいようのない活力を得た。この絵は、この絵の中の眼鏡女子が、わたしに、全盛期のような青い衝動をくれた。恵心。わたしがお前を殺せなかったのも、このせいだ」

惣右郎は全ての剣を回収し、恵心に向き直った。

その目は、ギラギラとした光を帯びている。

「恵心。力と供に失った剣士としての野望が、わたしの中にふたたび蘇ったのだ。この眼鏡女子のおかげで。どうか、どうか、わたしの為にこの絵を描いてくれないだろうか。そうすれば、わたしは」

惣右郎は、嘆願するように、恵心を見た。そこにはもう、それまで見せていた余裕はなかった。

恵心の中で何かが動いた。

恵心は立ち上がった。

そのとき既に心は決まっていた。

剣士としての恵心は今日、死んだ。後は、絵師として、自分が届かなかった最強の剣士を見届けようではないか。

恵心は今、そう思っている。



後に、早杉惣右郎は、虚間流免許皆伝を受けた後、貴島新太郎の許しを得て、不抜三界流という流派を興す。しかし、虚間流との交流も続いており、虚間流黄金時代の十人の剣客を表す回免十傑にも数えられている。貴島新太郎の仇討ちとして、虚間流の水野春郎太が参加した、駿府城駿河大納言の開いた変態大集合にも、付き人として馳せ参じた。

また、この奇妙な剣客は、女鹿根好過という名の異端絵師保護したが、この異色の春画は小規模な流行を引き起こすものの、一代限りで途絶えたと言われる。

早杉惣右郎は、91歳で死ぬまで現役であり続けたと、記録には残っている。




シグルイ 14 (チャンピオンREDコミックス)

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*1:ゆれちちがんみ

*2:めがね

*3:はすぼし

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2009-07-29認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは……

好きな人と結婚できるオア毎週誰とでも1回セックスできる

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 おーい、お前ー。神様だよー。お前、この先も幸せないから、願いをかなえてやるよー。でも、次のどちらかから選べよー。好きな人と結婚できる、もしくは、毎週誰とでも1回セックスできるのどちらかだよー。結婚は絶対にさせるよー。セックスは、相手を選べば老若男女だよー。但し、週に1セックスだけだよー。

http://throw.g.hatena.ne.jp/yarukimedesu/20090717/1247824413

突然頭の中に声が聞こえて、僕はとうとう幻聴まで聞こえるくらい頭がおかしくなってしまったのかと絶望的な気分に囚われたが、それはそれで「週1セックス」と呟いてみる。だって今特に好きな女の子はいないがセックスしたい女の子は三桁はいるのだ。セックス。僕にとってそれは未だ到達し得ぬ頂きだ。50歳くらいまで現役で有り続けるとすればあと約30年。僕は死ぬまでに何人と何回セックスできるのだろう。そんなことばかり考えて僕はもう20歳になる。ついにフォークダンス以外で女の子と手をつないだこともないまま僕は成人してしまった。

声の後、僕がセックスについて思いを巡らしていたとき、テレビでは新ドラの発表記者会見の様子が映し出されていて清純派美少女の外見と強気の素顔で人気の女優触尻エリアマイクを握っていて、僕は自動的に勃起した。そしてほぼ口癖になっている今日十数回目の「セックスしたい」を呟いたとき、ぴろりろり脳内に再び幻聴マリオ1UPキノコをとった時のSEが鳴り、数十分後今度は僕の家のインターホンを触尻エリアが鳴らしている。触尻エリアサングラス越しにも分かるような不機嫌さで僕を見つめ「するなら早くして」と言い放った。僕が震える声で「何を」と言う前に触尻エリアは僕の家に上がり込み、知っていたかのように二階の僕の部屋のベッドに寝転がったあと「セックス」と呟いた。晩御飯を作っていて客に気付かなかった母に友人と勉強していると嘘をつき部屋の鍵をかけて僕は触尻エリアセックスをする。




次の日の朝、僕はベッドの上に正座し半ば放心しながら昨夜の出来事を反芻していた。神様の声、1UPキノコ、触尻エリア、ブラ、パンツ、茂み、裸体、裸体、裸体、キノコ、挿入、放出、そして喪失……。僕はエリアによってつけられた二の腕の痣を隠すように身体を抱き、頭からベッドに倒れ込み、生まれて初めて神様感謝した。ありがとう、神様。ありがとう。顔をあげた僕の目には小さな炎が灯っている。デスクの鍵のかかる一番目の引き出しには僕が小学校から愛用している友達100人ノートがある。ここには死ぬまでにセックスしたい100人の(未来の)フレンドが記され、今でも更新され続けている。その表紙を見つめながら、熱情にかられノートに書き綴った小中高の思い出にふける。思い続ければ夢はかなう。僕はサ行のページを開き、触尻エリアと書かれた場所の横に、済という字を赤で書き込む。その下のチェックリストの「罵倒されながら乳を揉む」「尻をさすりながら罵倒される」「挿入直後に鼻で笑われる」項目に丸をつけていく。備考欄に「予想よりくる。後からくる」とだけ書いておく。ことが終わった後に直立のミドルキックをくらい唾を吐きかけられた事を書こうか迷ったがやめておく。思い出しただけでまた泣いてしまいそうになったからだ。

ノートを閉じて「30年」と呟く。僕は50歳まで現役で有り続けられるか? 僕は自分に問いかける。30×12×4=1440。僕は少し控えめに、ノートの表紙に0を一つ足す。


それから1ヶ月半で、触尻エリアを含めると僕は合計7人とセックスする。僕はその7人で大体のルールが掴めてくる。

まずセックス可能になる条件。神様は僕の相手をどうやって決めるのか? これは単純だった。相手を目で見て「セックスしたい」と声に出すこと。「セックスしたい」と相手の前で口に出すのは相当な勇気が要ると思うが、僕の場合、欲情したら条件反射で「セックスしたい」と呟いてしまうくらいの変態だったので問題なかった。むしろ、僕の場合ハードルが低すぎて問題になった。7人中4人は思いがけず発動した能力によるものだ。二人目の女子高生熊木安寿の場合、道端で出会ったときに顔を見る前に短いスカートから伸びる足を見ただけで欲情してしまい能力が発動してしまった。なまはげのような女子高生熊木安寿は日常的にセックスの代価を得ているようで、セックス後に僕に金銭を要求し、僕は財布の中身を彼女に全て奪われることになった。4人目の右田香織は白いワンピースの青いパンツとブラが透けてみえただけで能力が発動し、SM風俗釀だった彼女に全身を鞭で叩かれたがロウで体をほぼ固められていたのであまり痛くはなかった。6人目の、10年間で1000本のAVに出て万単位エロ画像ネット上に残した伝説アクトレス水橋のぞみの場合、父親秘蔵のVHSビデオ鑑賞中につい呟いてしまい能力が発動し、40を超えたばかりのはずなのに長年の無理がたたったのか骸骨のような水橋のぞみサービスされたときは涙が出そうになった。7人目の近所の未亡人鈴木志摩はその不幸そうな口元の黒子に欲情したが初のスカトロ趣味で僕の小学校から愛用したスーパーマリオタオルケットを泣く泣く捨てる羽目になった。最後のは回避不可能な気がするが、何事も慎重にいかないといけないだろう。まず口癖を改めねばならないが十数年無意識に培った癖を直すのは難しい。

「1週間に1セックス」の定義セックスしてから7日間後にセックス可能になるというので間違いなさそうだ。神様関係なしの普通セックスもそのルールに従うかどうかは今の僕には確かめようがない。あとわからないのが一つのセックスの終わりだ。普通セックスはどうなのだろう。僕視点からすると挿入と射精になるのかもしれないが、3人目の大学講義でいつも一人で一番前に座っていて気になっていた吉崎薫の場合、女装趣味ゲイであり、僕は挿入されて射精されたが1セックスと数えられたようで7日後に4人目の右田香織とのセックスが始まった。


セックスした女性の状態について述べておこう。

記憶はある。熊木安寿は記憶があるが故に僕から金銭を巻き上げたし、吉崎薫は泣き濡れる僕にコーヒーをおごってくれた。

そして意思もある。触尻エリアは僕をさんざん罵倒暴力を加えた。それがプレイであるかどうかは確かめられなかったが、催眠術や薬のように人形みたいになるわけではない。

そして愛はない。多分ない。彼女らにあるのは僕とセックスしなければならない、という義務感に似た感情で、セックスした後にはそれが仕事を終えたような達成感に変るように思える。プライドの高い触尻エリアや5人目の幼馴染で生徒会長イジメ総元締め三嶋優理子でさえ文句は言わなかった。いわば神様からの勅令。全ての生き物が従うべき裏コマンドというものだろうか。ただし最初に聞いた凄く適当っぽい神の声を思い出すに、慎重にならざるを得ない。記憶があることは、下手したらレイプで捕まる可能性だってある。世の中には嘘を平気で真実だと言い張ることができる人間が多すぎる。自身の記憶プライド現実を秤にかけて最も自分に利する方に傾くのが人間だ。まあ、セックス中の記憶が消えるとしても、セックス直後に記憶が消えたら僕はほぼ間違いなく掴まるので、神様としてもしょうがなかったのかもしれない。

セックス可能になるのはテレビの向こうでも同じなのは触尻エリアで確認済みだが、芸能人はより慎重にならないといけないと学習した。後で知ったが触尻エリアドラマ撮影中に何も言わずに抜け出して僕の所にきたらしい。危ない。騒がれたらどうなる。僕は植物のように静かにセックスを繰り返したいだけなのだ。


僕が1ヶ月半の整理をしノートに今後の注意を書きだしている間にいつの間にか寝てしまっていたようで、気付いたとき枕元の時計を見ると夜になっていた。

ぼんやりとした頭が、ドアの外から聞こえた母の声で一気に覚醒する。

「ゆうちゃんきてるよ。早く降りてきな」

ゆうちゃん。池田優佳。僕の三つ上の従姉妹。

テーブルの向かいに座るゆうちゃんはますます綺麗になっていた。来年大学卒業東京新聞社に務めるという。就職関連の何かがあったのかゆうちゃんは黒いスーツを着ていて、僕にはそれがとても艶っぽく見えた。カッターシャツの胸ははちきれそうだ。夕食中、僕は機械的に食事を口に運びながらずっとゆうちゃんを見ていた。

初恋の人であり初オナニーの人であり僕が100人の友達ノートを作ったきっかけであり有名芸能人やAV女優や50音を無視してノートのトップに記入した人であり、要するにゆうちゃんは僕の中で性的な意味で神だったのだ。

「秀一、勉強してる?」

「全然してない」

「だろうねー。顔見たら分かるよ」

「頭悪そう?」

「イヤラシイことばかり考えてる顔だ」

図星だ。僕は何も答えず、ゆうちゃんは笑う。僕の前でも両親の前でもゆうちゃんは変わらず、そんな彼女のさっぱりした性格は両親も好感を持っている。

母がゆうちゃんのグラスにビールを注ぎながら、さりげなく言った。

「ゆうちゃん、遅いし、久しぶりに泊まってきなさいよ」

「ありがとう、おばさん。お言葉に甘えちゃおうかなー」

Good Jobママ。ありがとう、お母さん。

部屋に帰り、ベッドの上でしばし悶える。

神のお導きは、僕にいけとおっしゃっている。そうなのか。そうなのか。僕はベッドの上に正座して手を合わせた後、下に降りる。

まずは身を清めようと、洗面所で顔を洗う。そして、洗面所の向こう、風呂場から水音が聞こえるのに気付いた。

いる。

僕は破裂しそうな心臓の音を納めながらドアに近づく。そして、洗濯かごに真っ赤な下着に見つける。瞬間的に僕は勃起した。

そのまま、ごく自然決断はなされたように思えた。

僕はそのままドアを開けて、神の言葉を言う。

「君とセックスがしたい」

僕の眼前にはスポンジでわきの下をこすりながら、ぽかんとして僕を見つめる母の姿があった。


それから僕はずっと悩み続けている。母は何も言わないが、時折僕に向かって「どうするの」というような目線を向ける。僕の部屋を用もなく(あるのだろうが)ノックすることが多くなった。あれから誰ともセックスしていない。おそらく、母とセックスするまで能力は使えないだろう。僕宛に「神田神夫」という人物から小包が届いた。中には黒い布。目隠しに丁度良い。そうだ、目をつぶれば終わる。それでも、それでも、それでいいのか? 僕はまだ答えを出せないでいる。

実の母とセックスするオア一生セックスしない。君ならどうする?

ふぐりんふぐりん2009/07/31 09:13えらい文章がうまいですけど、村上春樹とかすきなのだろうかと思った。

sasuke8sasuke82009/07/31 19:03ほめていただいてありがとうございます。
村上春樹は最近ちょっと読もうかと思ったくらいで全然読んでません。
こんなにセックスセックスという単語を書いたのは初めてです。

d1335d13352009/08/01 13:26すげーおもしろかったです。

sasuke8sasuke82009/08/01 15:34ありがとうございます。
すごいうれしいです。
また暇なときにみにきてください。

keiseiryokukeiseiryoku2009/08/02 20:27 文章が上手くて快適に読めましたー。
 オチも最高w
 なにかいろいろと吹っ切れる感じです。

sasuke8sasuke82009/08/02 21:10ありがとうございます。
長くて文字が多いので読みにくいかと思ってたので
そう言われるとほっとします。
いろいろと吹っ切れてしまって大丈夫かなと思いますが
がんばってください。

2008-09-11いや、もう、しょうがない

没鬼剣

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「そのブザマなサムライソードをしまえ。キシマ」

「気遣い無用。これが私の剣法。かまわずこい。異人殿」

ジーザス……」


茶無葉螺流剣士ヨハン・ドールマンは、ただのチャンバラ好きであったが、素人ではなかった。軍隊で鍛えた膂力と背筋から繰り出されるヨハンの一撃を、受けきれる剣士は日本に何人もいないだろう。事実、これまでヨハン・ドールマンは名だたる剣士を一撃で屠ってきた。踏み込めば人が死ぬ。その現実にヨハンは酔いしれていた。そして、その恍惚の瞬間を、今度の標的、鬼殺しと呼ばれる虚間流剣士・貴島新太郎においても同様に味わうことができると、ヨハンは考えていた。貴島が真の構えを見せるまでは。

ヨハンは己がその異様に圧倒されているのを知る。故にヨハンは踏み込めない。重ねた修羅場がヨハンを学習させていた。目の前の、ヨハンより一回りは小さいこの男は、何かが異常だ。

貴島新太郎は隙なく正眼に剣を構えている。そして同時に袴を足首までずらし、下半身露出させている。抜き身の、黒光りする貴島の性器は、雄雄しく反り立って、真っ直ぐにヨハンの頚を狙っていた。


「ニトウリュウ」


ヨハンは、そう呟いて、二刀流とはそういうものだったか思い出そうとしたが、思い出せなかった。代わりにヨハンはシミュレーションする。踏み込めばどうなるか?

どんな鍛え方をしたかはわからぬが、ヨハンの剛剣を、貴島の二本目の剣が受け止めることは不可能だろう。では、貴島の二本目の剣は何の為にあるのか?


囮。

ヨハンはまずそう考えた。それなら容易い。

しかし、貴島の鬼殺しという通り名は、伊達ではない。貴島の家系は、武士崩れの山賊や、夜盗の類の討伐を生業としており、これまで他藩へも招かれて、100人以上を斬り殺したという。この太平の世で、そのステータスは大きい。さらに、貴島は常に単身で任務につくという。対多人数のスペシャリスト事実、貴島は賊を殲滅して、これまで生き残っている。

囮という解答はノンだ。ヨハンは慎重に思索をめぐらせる。あの剣には他の何かある。囮以外の何か? あれに、何ができる?


ふと浮かんだ想像にヨハンは戦慄した。ドクドクと波打つ貴島の黒剣から、ヨハンは銃を連想したのだ。水鉄砲。目くらまし。

剣で液体を打ち落とすのは難しい。剣の腹で受ける。またはかわす。その動きは必ず隙となろう。剣法に必要なのは一撃だとヨハンは信じていた。受けては死ぬ。多人数を想定した剣なら尚更のことだ。

射精の速度はいくらだったかと考えて、ヨハンの背筋が凍る。日本に来る前、酒場ジョージに聞いたことがあった。達人の域に高められたそれは、板を打ち抜くという。貴島の二本目の得物は、剣でなく銃だ。

ヨハンは、顔面に向かって飛ぶ白濁液が、ヨハンを貫く光景幻視する。貴島が両手に構える剣こそが囮なのだ。ヨハンの背中を冷たい汗がしたたり落ちた。

だが、やりようはある。剣が囮なら、弾さえ避ければよい。発射された弾が避けられずとも、発射する直前に動けばいい。その瞬間は、貴島の表情が教えてくれるだろう。


しかし、また別の想像がヨハンに宿る。ヨハンは恐怖を感じる。まさか、まさか。

「まだ、ノびる、のか」

そうだ。あれが貴島の100%だと誰が、断じることができよう。ヨハンは、死合を仕掛ける前に、貴島の周辺を調べた。貴島の弱点を探る為ではなく、貴島を斬り殺した場合のメリットを計る為だ。もちろん、貴島の性器の最大長についての情報はなかった。

ヨハンは、100%中の100%を発現した貴島の性器が、真っ直ぐに伸びて、自分の喉笛を貫く様を想像した。変幻自在の槍。避けたとしても、そのまま薙ぎ倒される。槍の本質は刺突でなく殴打であると聞いたことがある。良くしなった竹に弾かれる己。そして例え懐に入り込めたとしても、貴島が手に持つ剣により両断される。


あれを相手にしてはならない。

ヨハンは、そう結論づけた。あれを封じることが、この戦いに勝利をもたらすだろう。戦い方が決まればやることは二つだ。酒場ジョージが言っていた。

落ち着け

考えろ。

クールクールクールクールクール……。ヨハンは、落ち着く為にいつのものように、素数を数えることにしたが、1が素数かどうか忘れたので数えるのを止めた。素数って何だっけかとヨハンは思った。


あれが、人間生理的現象によって、支えられている事は疑いようがない。つまり、貴島新太郎の性的興奮を萎えさせることこそが、勝機を掴む事に他ならない。今、ここにおいて、貴島新太郎を勃起させているのは何か。

ヨハンは、注意深く周囲を探る。記憶五感をフルに使う。ヨハンが、仕掛けたのは、人通りの多い町中、中でも繁盛している茶屋の前だ。貴島はその茶屋に、ほぼ毎日立ち寄っていた。ヨハンは、貴島と向かい合い、点対称の位置関係を保ったまま、じりじりと円の形に移動する。そして、慎重に辺りをうかがう。

ヨハンが仕掛けたとき、その場にいた人々はほとんどその場に残っている。こちらを伺いながら、好奇の視線を投げかけている。そして、ヨハンはついに、路上で、乳房を露にしてパフォーマンスをする女と、それを公開写生する春画描きの姿を発見する。近頃、町にはこういう輩が増えていると言う。彼らも今は、ヨハンと貴島の死合を呆然と見ている。


これか。ヨハンは大きな声で貴島に語りかけた。

「キシマ、オンナはスきか? オレはスきだ。しかし、このところ、オンナをダいてない。ナゼかわかるか? キサマにカつためだ。キシマ。ガンカケというやつだ。でも、そろそろゲンカイにチカくなってきてるんだ。キサマにカったアトは、まず、そこにいるハダカのバカオンナでもイタダこうかな」

ヨハンは眼の端で、公開パフォーマー達が逃げ出すのを確認した。そして、音が遠ざかるにつれて、貴島の眉が下がり、少し残念そうな表情になったのを確認して、ヨハンはニヤリと笑う。


だが、貴島の黒剣は揺るがなかった。いや、前よりも大きくなっているようにも思える。ヨハンはもう一度素数を数えようとして、また直ぐにやめた。ヨハンは冷静だった。まだ貴島を支えるものがいる。それだけだ。

誰だ。

そして、ヨハンは、周囲を探り、茶屋の奥から、こちらを覗く女を見つける。ヨハンの脳は瞬時に答えを出す。

女は目を引くようななりではない。童顔で、どちらかと言えば野暮ったい感じがする。体も華奢で、先ほどの露出女のようにセックスを感じさせない。

だが、それがいい。凛とした涼しげな瞳、白い肌。それを好む男はいる。おそらく、この茶屋に足繁く通う貴島もまた、その一人だろう。

ヨハンは意識して、下卑た笑みを浮かべる。そしてまた大きな声で言った。

「おや、オンナがいなくなってしまった。シカタない。まだガキのようだが、そこのチャヤのムスメにしようか」

貴島の顔が歪んだ。

貴様

「ほお、キサマのおキにイりだったか。ここには、ヨくカヨってるようだしなあ」

貴島は顔色を変え、横目で娘を見た。娘は露骨に顔を恐怖でゆがめ、中に引っ込んだ。貴島の眉は完全に落ちた。


勝った。

貴島の顔を見て、ヨハンはそう確信した。だがしかし、貴島の黒剣はビクともしていない。いやビクビクしている。今にもはち切れそうになっている。ヨハンはまた酒場ジョージの話を思い出した。

この世には多人数に見られること、それだけで興奮する人間がいる。

つまり、変態露出狂

そうか、それならば。

ヨハンは叫ぶ。野卑に、凶暴に。

ナニみてんだコラァ! ブちコロすゾ!」

落雷のような声が町に響く。ヨハンの日本語は流暢とは言えないが、それ故の狂人のような迫力があった。往来の人々が駆けていく音、戸を閉める音が聞こえ、やがて辺りは静かになった。

貴島の表情は残念そうな顔から怒りに変化しているように見える。チッという舌打ちを、ヨハンは確かに聞いた。しかし、ヨハンは油断せず、貴島の股間を凝視する。

そこには、何ら変わることなく主張し続ける貴島の黒剣があった。


ヨハンは混乱した。こいつは。この男は、何だ。


貴島が口を開いた。その声は、とても穏やかなものになっていた。

「異人殿。私と闘って、何を望む?」

ヨハンは戸惑いながらも、素直に答える。

「メイセイだ。オーガキラーキラーのナがホシい」

「なるほど。私に勝てば、鬼殺し殺しか。確かに。その称号は貴殿のものだ。では、私が勝てば」

そこで、貴島は言葉を切った。そして、言い難そうに、顔を赤らめて言った。

「貴殿が欲しい」


二刀流! 両刀使い! ヨハンの背中を電流が走る。ヨハンは日本語の奥深さを痛感する。この男は。目の前の、この男はおそらく、最強の、ジャパニーズダブルソード・マン。


ヨハンは、剣を放り投げる。そして膝をついて、言った。

「男が男に惚れる。私は、その言葉がわからなかった。実は、単純なことなのかもしれない。私の負けだ。それでいい。もし許されるなら」

ヨハンは少し言いよどんだ。

「私を弟子にして欲しい。もし、それが叶わぬなら、斬って頂きたい」

貴島は黙って剣を鞘にしまった。袴は下ろしたままだった。

「断る」

そして、ヨハンの手をとり、立たせると、穏やかに言った。

「貴殿には力と才能がある。私が教えることなどない。だが、尚のこと、斬ることなどできようか。どうか私の傍で、私の剣を見ていて欲しい」

ヨハンは、小さく笑い、頷いた。

隠れていた町の人たちが、いつの間にか出てきて、二人を祝福していた。



数年の後、ヨハンは水野晴郎太と名を変え、虚間流の跡目となる。しかし、その直後、貴島新太郎が、弟子である尾杉伏虎に後ろから刺され、命は取り留めたものの、再起不能になるという事件が起こる。逃走した尾杉を追い、水野春郎太は出奔する。虚間流は跡目を失い、急速に没落することとなった。

全てを捨てたヨハン=水野春郎太と、尾杉伏虎の真の決着は、寛永六年九月二十四日、駿府城下で催された変態剣士大集合に持ち越されることとなる。




シグルイ 11 (チャンピオンREDコミックス)

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sasuke8sasuke82008/09/12 18:44みんな、「ぼくの、わたしのかんがえた変態剣士」を書けばいいと思う。そして山口貴由先生を尊敬すればいい。

2006-12-26ワンだと?!小僧!

暁に飛ぶ蛇

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朝起きると、俺の愛すべきマンモーニ・ペッシも猛々しく隆起していて、「俺の敵はどこだ…」と言わんばかりに勢いよくパンツ突き上げているのだった。俺は、闘えない戦士の哀しみに心中で涙し、パンツの下のペッシを見やる。するとペッシがどす黒く変色していて死ぬほど驚いた。「ええ……!」

うそうそ、うそだろと思わず独り言を漏らしながらパンツを脱ぐと、硬くなったペッシは陽光を浴び黒光っている。俺はベッドの上に座り込む。俺は童貞なのに、俺のペッシからは10年は修羅場を潜り抜けてきたような凄みを感じる。何でこんなに黒いのだ。もしかして俺の思春期の邪な心のままに黒く黒く……? いやいや、まさか。再度ペッシを見やる。だめだ。黒い。でもよくよく見るとペッシは亀頭の方が不自然に大きくなって形すら変わっているのだった。全体は曲線で構成され、なめらかになっている。亀頭から根元まで、なだらかなカーブを描いて真ん中が細くなっていて……とても握りやすそうだった。俺は本能的に手を伸ばし、それを握った。そして唐突に理解した。これは操縦桿だ。




数分後、俺は空の上にいた。少し肌寒いが、眼前に広がった朝焼けに染まる雲海が、俺の心をビリビリと震わせる。俺の住む小さくて退屈な町の上にこんな世界があったのか。上空何メートルだかの雲の上で、俺は、うおおおおお、とあらん限りの声で叫んでみた。気持ち良かった。でもやはり下半身が少し肌寒いと思った。

俺は脚を投げ出して空中に座り込んだ姿勢で浮かんでいる。操縦桿を握ったとき、直ぐに俺は空を飛べることが感覚でわかった。操縦桿を手前に倒すと、俺の脚は真っ直ぐのまま持ち上がり、足上げ腹筋をしているようになる。横に倒すと俺の体は重力を無視し斜めに傾く。後は飛ぼうと思う意思だけだった。俺は窓を飛び出し、この雲海にたどり着いた。パンツを忘れたのが失敗だったが、ここにはそれを咎める何者も存在しない。


俺はもう一度、太陽に向かって吠えた。わはは、俺今太陽に向かって吠えてる。わはは。

そのとき、俺は赤く輝く太陽黒点を見つけた。眼を細めると、黒点はだんだんと大きくなり、それが何かは虫類めいた何かだと知る。そしてその爬虫類めいた何かが、大きなエリマキトカゲらしいとわかったとき、俺は全速で回避運動に入っていた。俺のいた空間をトカゲが真っ赤な口を開けたまま通り過ぎた。俺のいたはずの空をトカゲが食いちぎっていく。

こいつは俺を殺す気だ。俺はそのまま雲海に入り、下界に降りた。嫌な汗が出ていた。後ろを振り返る。そこにトカゲが居た。ぴったりと付いてきていた。トカゲは真っ赤な口を開ける。血の色だ。俺は叫び声をあげた。


トカゲ言語にし難い鳴き声を上げて俺に迫り、俺が眼を瞑った瞬間、銃声と爆音、あと断末魔が響いた。俺は飛びながら振り返ると、煙を上げて落ちていくトカゲと、オレンジ色のベストにごついヘルメット酸素マスクを付け下半身を露出したまま浮かんでいる男が見えた。男はマスクを外し、快活に笑った。

「俺は梶崎。君は?」


それが航空自衛隊航空医学実験隊所属梶崎大悟少尉との出会いであり、俺の人生を変える出会いであった。


でもそのとき、俺は自分の事は棚に上げて、生足とすね毛が妙に生々しく汚いこの人が信じられなくて「あ、ありがとござます……じゃあ」などとごにょごにょ呟き、そのまま全速力で逃げた。


俺は混乱の余り頭痛を発症し、何故俺はペッシを握って空にいるのかを考えると頭がぐるぐるとして何も考えられなくなっていた。


家に帰ると、学校をさぼって、次の日まで夢も見ずに寝た。起きると頭痛は消えていて、全ては悪い夢のような気がしてきたのだが、やはり、俺のペッシは操縦桿のまま屹立していてげんなりした。そのとき、階下から俺を呼ぶ母親の声がした。


「何するんだ。止めろ!」と抵抗するペッシをなんとか押さえつけ、へっぴり腰で階下に下りた俺は、そこで梶崎大悟少尉と再会したのだった。梶崎少尉スーツ姿で、今度はちゃんとズボンをはいていた。

「やあ、俺は梶崎、君は?」

梶崎少尉はニヤリとあの時と同じ笑みを浮かべた。今度は逃げられなかった。

梶崎少尉に連れられ、俺はその日から日本でも数少ない自衛隊”空人”部隊に最年少で配属されることになった。そこで俺は、俺を襲ったエリマキトカゲの化物(グレムリンと呼ばれる人類の敵)と戦うこととなる。全くもって信じられない。しかし夢ではないのだ。マンガでもない。俺の生活は、人生は、決定的に変わってしまったのだった。


学校に行く頻度は週1,2度になった。それでも単位はなんとかなるそうだ。お国万歳。だが黒く起立したペッシが思春期の級友らにいかなる影響を与えるか、同じく思春期真っ盛りの俺としては凄く心配で憂鬱だったのだが、思ったよりも悪い反応はなく、むしろ良好であった。スーパーヒーローである俺の扱いは格段に良くなり、今週末には憧れの美女・梶崎明日香が家に遊びに来ることになってしまった。


一方、学業に代わる俺の新しい仕事である化物とのドッグファイトに関しても、俺はメキメキと腕を上げ、実力面においても空人部隊で一目置かれる存在になりつつあった。


俺は師匠である梶崎少尉と暁の空を飛びながら話す。


「俺は思うんだ。ここは、俺達の空だ。男の世界だ。誰もここにはあげちゃならないんだ。……なあ、俺達が何故飛んでいるか。考えた事あるか?」

「いいえ」

考える間もなかった。忙しさもあったし、それに。

「だろうな。多分、俺達は感覚で理解しているんだ。いや、理解など必要ないのかもしれん。でも他の人たちから見たらそれは、とんでもないことなんだ」

「はあ」

梶崎少尉たまに熱くなって語りだす。それは、暁色に染まる雲海を飛ぶときなのだけど、その気持ちはわかる気もする。

「いいか。俺達は誇りで飛んでいる。ここは男の世界だ。誰も上げちゃあならない。この空は俺達のものなんだ」

「なんか、わかるような気もします」

いいか、絶対だぞ、そういって梶崎少尉は旋回する。俺もそれに続く。


週末、本当に梶崎明日香が家に来た。梶崎明日香は俺の目の前で嬉々として鞄から次々と雑誌を取り出し床に並べていた。「戦闘機マガジン」「世界の戦闘機」「SORA」エトセトラエトセトラ、梶崎少尉と俺が表紙を飾る月刊「空人」もあった。俺が何かを喋る必要もなく、梶崎明日香は空と戦闘機の素晴らしさについて喋り続けた。

「あたしは空に行きたい。でもね、お兄ちゃんは許してくれないの」

「あ、やっぱり梶崎少尉の妹なんだ」

「そうよ、知らなかった?」

梶崎明日香は、少女のように笑い、一旦眼を伏せた後、次に娼婦のように上目遣いで俺を見た。「あたしも空にあがりたい……」


しょうがないだろう。若いんだから。俺は梶崎少尉言葉を忘れたわけではなかったが、物理的な誘惑に勝てるわけもなかった。梶崎明日香は今、俺の首に手をかけて、俺の足の上に座っている。俺は右手で彼女を支え、左手でペッシを握っている。非常にまずい状態だ。俺の心臓ははち切れんばかりになって、梶崎明日香に聞こえやしないかとドキドキしている。梶崎明日香はそんな俺にお構いなく、キャッキャッと嬉しそうに騒いでいる。


そして暁の雲海で、予想通り梶崎明日香は感嘆の声を漏らし静かになり、俺は少し得意気になり満足する。さて、帰ろうかと思ったとき、梶崎明日香悪魔の提案をしたのだ。


お願い、少しだけ操縦させて。


俺は若い。若すぎた。その意味を正確に理解していなかった。俺は一抹の不安をどこかに感じつつ、彼女に操縦桿を渡した。そこからは語る事もない。彼女感動し、そこらじゅうを飛び回った。操縦桿をガチャガチャと動かし、持つ手にも力が入った。すごーい、飛んでるー、という彼女の声を遠くに聞きながら、俺は必死に快感に耐えた。そして直ぐに限界が訪れ、最後の一瞬の絶頂のあと俺は操縦不能に陥ったのだった。そりゃあ、そうなる。落下しながらペッシを見やると元のマンモーニに戻っていた。


梶崎少尉の言うとおりだった。ここは男の世界。女を乗せるなんて言語道断だった。落ちていく彼女はまだ綺麗だったが、暁には全然かなわない、と聖人の俺は思う。俺は苦く重い後悔を抱え、暁の雲海へ沈んでいった。

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2006-09-20フランス以外全部革命

ようこそ、男の世界へ

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純一は、自分のバットを握り締め、その硬さを確かめる。バッターボックスに入る前のいつもの儀式である。

最近では、バットの手入れに人を雇ったり、彼女にしてもらう選手が多いが、純一はいつも1人でそれを行なう。純一は、口に出したことはないが、この場所に女は必要ないと思っていた。純一はホモセクシャルというわけではない、ただこのスポーツに心底惚れているのだけなのだ。この時代において野球は男の世界であった。

純一がバッターボックスに立つ。ゆっくりと、バットピッチャーの方に向ける。バットの先はピッチャーを越えて、ずっと先の空を指している。いつもの純一のパフォーマンスに観客は沸き立った。

ピッチャーは、キャッチャーとやり取りする振りをしながら、ボールを何度も握り締めている。球に汗を染込ませ重量を上げているのだ。純一はそれが悪いと思わない。反則ギリギリの行為すら折り込んで、純一は野球を愛していた。

純一のバットは、決して折れない。


30日午後、京都市左京区において、自らのバットを振り回していたとして、岩田純一(43)が猥褻物陳列罪で逮捕されました。

純一容疑者は、現役時代、日本野球史上、最高のバッターとも呼ばれ、日本を三度世界一に導くなどの偉業を達成した選手でしたが、試合中、場外ホームランと引き換えに、自らのバットを折るという痛ましい事故により引退していました。家族は、引退直後から、突然家族の前でバットを握り締め叫びだすといった、おかしな言動が多くなったと話しています。

<<ニュースより抜粋>>

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