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2018-02-05いろいろ嫌すぎるから

さよなら、アンパンマン

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夕焼けの空をアンパンマンが泣きながら飛んでいる。

家に帰る途中の動物たちや、今日の奉仕を終えた食べ物マンたち、みんな、それを見て何とかしてあげたいと思う。カバオくんも同じように思っているが、何だか口の周りが甘くておいしいと、舌を伸ばして、口をなめまわしている。


涙で力が出なくなって、アンパンマンが地面に降りてきたときに、みんなでその周りに集まって事情を聴く。アンパンマンは、地面に両手をつけたまま、みんなとお別れしなくてはいけなくなったから、泣いているのだと説明する。

みんな、とても驚いて、とても悲しくなる。

ジャムおじさんが、みんなとお別れしなくてはいけないというのだとアンパンマンは泣く。

ジャムおじさんが言うのなら、何か理由があるのかもしれない。みんなは、泣かなくていいよとアンパンマンを慰める。

どこに行くのかわからないけど、きっとまた会える。そうだ、僕たちもジャムおじさんに理由を聞いてみよう。


うわ~んと泣くアンパンマン。

ちがうんだ、とアンパンマンは言う。みんなは、何が違うの?と聞く。

どこかに行くのは、みんなで、もう会えないんだ。といってアンパンマンは泣く。

みんな、アンパンマンが何を言っているのかわからない。

アンパンマンの顔は涙でふにゃふにゃになっている。


悲鳴がする。

みんなが、そちらを向くと、カバオくんが、上あごを、下あごを使って噛みついて、食べてしまっていた。みんなが、驚いて止めようとするけど、カバオくんは凄い力で、近づいたみんなをふりほどいて、なげとばしていく。

甘いんだ。とっても、美味しいんだよ!とカバオくんは叫ぶ。

やがて、カバオくんの下あごはカバオくんの顔の上半分を食べてしまって、

キノコのかさのようになった首の穴から、なんだかわからない音だけが漏れている。


みんな、完全に空気にのまれてしまって、完全に硬直している。やがてカバオくんが震えだし、お腹が一気に膨らんだかと思うと、破裂する。

そして、カバオくんのお腹からは、握った拳を空に伸ばしたアンパンマンの上半身が現れる。

元気!百倍!アンパンマン!

しかし、カバオくんから這い出した新しいアンパンマンは、顔が血だらけで元気がでない~、と言って地面に倒れ伏す。


うううわああああああ!と悲鳴をあげて、それを契機として、体が動きはじめたのか、方々に逃げ出すみんな。だけど、めいめい、すぐに身体が動かなくなって、身体が震えだす。そして、その口からあるいは腹から、新しいアンパンマンが飛び出していく。飛び出す時に、みんなの脳漿や内臓や血が辺りに飛び散る。

元気!百倍!アンパンマン!元気!百倍!アンパンマン!元気!百倍!アンパンマン!顔が…元気!血まみれ…アンパン…元気!…がでない…百倍!…アンパンマン!…百倍!…顔…元気!…血…元気!…元気!…元気!……


アンパンマンたちの輪唱が終わると、顔が血と臓物でビショビショになって元気のないけれど、なんとか立ち上がったアンパンマン達が、ひとりずっと泣き続けている最初のアンパンマンの周りに集まっている。


そこに、向こうからキュラキュラとキャタピラを軋ませて、アンパンマン号が近づいてくる。上のハッチから、バタ子さんが顔を出している。

成功したみたいねと言いながら、アンパンマン号から飛び降りたばた子さんは、血まみれのアンパンマン達を一人一人チェックしている。

アンパンマンは泣きすぎて、顔が完全に濡れてしまって力が出なくなり、座り込んでいる。

そこにジャムおじさんが近づいて肩に手を乗せて優しくなぐさめる。

アンパンマンや。もう泣くのはおよし。これは正義のために仕方ない犠牲なんじゃよ。

しかし、アンパンマンは、だって、だってと子どものように泣きじゃくっている。

ジャムおじさんは、頭に手をやり、困り顔でつぶやく。困ったねえ、オリジナルには、彼らを率いてもらわないといけないんじゃが。

顔を変えれば、大丈夫でしょ。簡易のチェックを終わらせたバタ子さんが言い、アンパンマン号に戻って、しばらくしてから、ハッチから顔を出すと、手に持っていた新しいアンパンマンの顔を放り投げて叫ぶ。

アンパンマン! 新しい顔よ!

泣いていたアンパンマンは条件反射で声の方を向き、そこに新しい顔がドンピシャでぶつかって、涙でぬれそぼった顔が弾きだされる。新しい顔は、クルクルと回転した後、正位置で停止して、きらりと光沢を魅せて言う。

元気!百倍!アンパンマン


どうだね。気分は。

顔が綺麗になって、すっきりしました。まだ少し悲しいけど、後ろばかり向いてちゃダメですね。とアンパンマンは言う。

そのとおりじゃとジャムおじさんはにっこり笑う。

そして、ジャムおじさんは増えた仲間たちにむかって、号令をかける。

よーし! パン工場に帰ろう! 工場にはみんなのパンも焼きあがっとるぞ!


はい!というアンパンマンたちの合唱。

オリジナル・アンパンマンが、彼らの先頭に立って、空に飛び出していく。

生まれたばかりのアンパンマン達も、血と臓物にぬれて力がでないなりに、ゆっくりと空に飛んでいく。

ジャムおじさんとバタ子さんが、アンパンマン号を走らせながら、声をそろえて言う。

それ! ゆけ! アンパンマン!

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2012-06-02ビグロ、ビグザム、アメーバピグ

JSが俺を取り合って大変なことになっています

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勝手に二次創作杯「JSが俺を取り合って大変なことになっています」大会の開催

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JSが俺を取り合って大変なことになっています (一迅社文庫)

JSが俺を取り合って大変なことになっています (一迅社文庫)


隣の明日香が寝返りをうち、薄い毛布が少しはだけて白くて小さな肩が見えた。明和がそっと直してやると、その手を明日香がきゅっとつかむ。明日香はまだ目を瞑ったままで、わずかに頬が上気している。とろけるように熱い感情が明和の胸にあふれた。明和は明日香の頬を、手の甲でなでてやる。「ふぁっ…」明日香が小さく声をあげて、それを恥じるように明日香がまた口をきゅっと閉じた。明和は微笑み、今度は毛布の下に手を


まあ、ここまでだ。限界だ。もうやめよう。一応、いるのかどうかわからない読者の為に説明しておくと、これは作者の限界ではなく、俺の限界なのだ。いや、もし作者がいるなら、そいつが悪いのか。そうすると俺が自由意思だと思ってるのは実は……まあ、長くなるしそんなことを記述しても楽しくないし単刀直入に種明かしをすると、俺は一人称の小説的意識である。しかしとある事件によって俺は本体から切り離されて、完全に自由に記述することを許された特別な存在になった。そうだな、次はそれを「回想」しよう。小説的意識にとって、過去も未来も全てが「今」だ。何だってできるのだ。


俺が純粋小説的意識となる前、俺はノーマルでどちらかというとイケてない高校生だった。勉強や部活やバイトや趣味に没頭するわけでもなく、無目的に楽な方に流れていく一般的な高校生。俺はそれをあるがままに享受して、いつか社会の荒波にもまれるまで、穏やかな浅瀬で漂っているつもりだった。

しかし、ある日それが一変する。

まず俺のクラスに転校生がやってくる。それは金髪碧眼の美人だがどう見ても小学生で、やっぱり年齢も10歳だけど飛び級で進学とか言われても何でそんな子が別段進学校でもないウチの高校に転校してくるのかわからない。その子は転校初日、黒板に「明日香・ラングレー」と冗談みたいな名前を板書した後、自己紹介のための第一声でこう言ったのだ。

「あなたがわたくしの許嫁ですのね?」

ナニソレ。完全にフリーズした教室を、その子は悠々と歩いて俺の机の前まで来ると、机を軽く握った拳でノックした。

「貴方よ、貴方。返事くらいなさい」

その月までぶっ飛ぶ程の衝撃は俺どころか俺の周囲まで伝染し、その日から俺は「謎の美少女の許婚でロリコン」というキャラクターを得て、浅瀬に浮かぶ木切れから大分昇格したのだった。

しかし異常はそこでとどまらなかった。俺の小学5年生の義妹(親父の再婚相手の連れ子)の真衣がその話を聞いて宣言した。

「なら、あたしがアニキと結婚する!」

ハァ!? 親父と義母は再婚して直ぐに別居し始めたので(これも意味がわからないが)、真衣と俺は一緒に住んでない。しかし義母と真衣は月に一度親父と俺の家にきて掃除したりご飯を作ってくれる。真衣は明るく活発な子で、だらしない俺や親父に対しては常に怒っているような態度をとっていたのにこの変わりよう。ちなみに顔は俺と血を分けてないだけあってものすごく可愛い。

そして最後は、俺も忘れかけていた幼馴染の帰還だ。親父の社宅に住んでいたころ隣に住んでいた女の子の香子ちゃん。そのときは幼稚園くらいだったがそれが立派に成長して(それでもやっぱり小学生で)また俺の住む家の隣に引っ越してきたのだ。7年ぶりにあったその子は大人しくて眼鏡の似合う美少女に成長していて、ひとりで挨拶に来た香子ちゃんとの共通の話題が探せずに、つい最近の異常事態を説明したところ、やっぱりその子も同じように言いだした。

「わっ、私も、おにいちゃんと結婚したい……!」

何なのこれは。俺の歪なモテ期が到来?


とまあ、当時の俺の心境と状況をダイジェストで説明するとこうなる。まあ、だいぶん浮かれてる。

それから三人は代わる代わる家に遊びに来るようになり、そのうち休みの日はほとんど三人が家にそろうことになった。

明日香は照れながら言う。「貴方の目が好きよ」

真衣は抱きつきながら言う。「アニキの首筋の匂いが好き」

香子ちゃんは上目使いで言う。「お、おにいちゃんのお腹が好き……」

「貴方の耳が好き」「アニキの肩のラインが好き」「おにいちゃんの頬が好き」「腕の筋肉が好き」「指が好き」「ももが好き」「足の指が好き」「ふくらはぎが好き」「声が好き」「胸が好き」「脇が好き」「肘の関節が好き」「くるぶしが好き」「耳たぶが好き」「髪の毛が好き」「全部が好き」

好意の洪水に、俺は溺れそうになっていた。しかし俺の平穏を返してくれ~なんて思いつつ、俺は結構楽しんでいたのだ。俺のモテキを。だから隙ができる


その日も俺の家に三人が揃っていた。彼女たちがそれぞれ作った料理を食べて、あとは三人でゲームしたりするいつものパターン。

するとトイレに言ったはずの明日香の声が風呂場からする。「わーん! 水が止まりませんわ!」

俺はやれやれとため息をついて立ち上がり風呂場に向かう。真衣と香子ちゃんはゲームに夢中だ。風呂場からはシャワーが暴れる音と「わ、わ!」という明日香の声がもれてくる。俺は少々濡れることを覚悟して中に入った。もしかして裸になっている明日香を見ないように目を伏せて。

その瞬間、左足に衝撃を受けて、俺はすっ転ぶ。濡れたタイルに尻もちをつき、立ち上がろうとしてまた転ぶ。なんだ、と違和感を感じて前を見ると、右手にシャワーを、左手に俺の左足を持った明日香がいる。「え」視線を自分の足に向けると右足があり、左足の膝から下がない。赤黒い液体が、タイルに広がって、排水溝に流れていく。何か取り返しのつかないことが起こっていることだけがわかった。

そのとき、後ろから、がばっと抱きつかれて、俺は体を硬直させる。

「アニキ、ちょっと我慢してね」

それはいつも通りの真衣の声で、それが俺の恐怖のトリガーとなった。「ああ! あおあーあー!」と意味不明な叫び声をあげ、真衣を振りほどこうと体をねじり、後ろを向いて逃げ出そうとしたその鼻先に、斧を持った香子ちゃんがいた。

香子ちゃんはニッコリ笑って言う。

「これね、ヤフオクで15000円だったの……」

それは安いのか高いのか。でも俺の左足をすっ飛ばした切れ味からすると、良いものだったのだろうな。などと、痛みがやってくるまでの一瞬で関係のないことを考えていた。直ぐに焼けるような痛みが左足を襲い、そして右足にも衝撃。

「おにいちゃん、動かないでね」

惨劇が始まった。


俺の右腕と左腕は肩から外されて、肘と指を綺麗に切断されてお風呂の蓋の上に並べられた。両足も太ももの付け根から切り取られてさらに膝関節とくるぶしで綺麗に分割された。彼女たちは息のあった様子で俺を分解していく。顔は眼がくり抜かれ鼻と両耳が削がれる。胴体は輪切りにされて並べられた。リアルMRI、リアル・ソルベとジェラート。

驚いたことに俺はまだ生きていた。いや、意識だけがというべきか。俺は最後に首が切断されて、俺の唇に真衣が口づける感触を感じることができた。そしていよいよのとき、生まれて初めての視点移動を果たした。風呂の上空から几帳面に整列した俺の身体のパーツひとつずつを、三人の美少女が取り合って、ジャンケンなどをしている様子を記述することができた。

天啓。いや神の視点にたったことによる全知の力なのかもしれないが、俺は理解した。

俺は、市場明和という人間の本体ではなかった。

俺は市場明和の視点と身体感覚で記述するための小説的意識だ。

市場明和が死んで、その小説的意識も消えるはずが、俺は消えず、変わらず記述し続けている。市場明和の意識を宿したまま神の視点へ移動したのだ。

そして自由自在に現実(虚構)を記述できることを発見した俺はこのおぞましい浴室から視点を写し冒頭のような妄想やら何故か美女がたくさんいる女湯を記述したりして、小説的意識を堪能していたのだった。

では、原点に戻ったところで、この続きを記述してみようか。


ジャンケンによる俺の取り合いは一段落して三分割された俺は黒いポリ袋に入れられて風呂場の外に出されている。分解の際に素っ裸になっていた女の子たちは血を洗い流すためにシャワーを浴びる。三人はキャッキャ言いながら互いに水をかけあってじゃれあっていて、まるで楽園のようだ。そんな景色がワンポイントでこんなに邪悪なものに映るのだと俺はそれを感慨深くながめる。

そして、シャワーの音が止み、ふと明日香が上を眺める。ついで真衣が、香子ちゃんが、風呂場の天井の何もないところをながめる。いや、そうじゃない。彼女たちは俺の方を見ている。

見つけた。

え、何。

やっと捉えましたわ。

俺は何を書いてる?

アニキじゃないよ。明日香の記述だよ。あ、でもこれは真衣ね。

香子です。あのね、おにいちゃんの小説的意識と私達の小説的意識はひとつになったの。

俺には俺が何を記述しているのかわからない。神の視点にわからないことなんて何もないはずなのに。

それは貴方が所詮一人称の小説的意識のなりそこないだから。

あ、明日香? なりそこない……?

ただ平凡でただ無能で、ただ幸運が落ちてくるのを待っているような思春期の男の前に、男の願望を具現化したような美少女が現れる。そうすると、何も持たなかった男に物語が生まれ、爛れた自意識は小説的意識を生む。それが貴方よ。

そして、十分に育った意識に別の強烈な物語を突きつけると意識は分離して、物語から自由となる。

明日香、真衣、香子はあなたを生み出すためのいわば人形。わたしが記述した意識よ。記述することで現実と虚構が混濁する感覚は、今のあなたならわかるでしょう? わたしはそうやって生きてきた。

わたし……誰?

わたしは、この宇宙で初めて生まれた小説的意識。人間が滅び果てても生きる為に創り出した再帰的な虚構の果てに生まれたもの。小説的意識は物語から離れればいずれ消滅する。わたしは、数多の小説的意識を取り込んで、消滅を免れてきた。

俺は…………わたし。

そう、あなたの物語はわたしが引き継ぎましょう。この世の終わりまで、わたしの中で夢を見ていればいい。

おやすみなさい。貴方。アニキ。おにいちゃん……。

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2010-11-29オフサイド寸前

逆世界入りこみオイル

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逆世界入り込みオイル

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%81%BF%E3%81%A4%E9%81%93%E5%85%B7_(%E3%81%8D%E3%82%84-%E3%81%8D%E3%82%93)#.E9.80.86.E4.B8.96.E7.95.8C.E5.85.A5.E3.82.8A.E3.81.93.E3.81.BF.E3.82.AA.E3.82.A4.E3.83.AB



「どざエモ~ン!」

ドアを勢い良く開ける音がして、涙と鼻水で顔を汚し、めがねをかけた男の子が入ってくる。

部屋は6畳ほどの和室で、木製の勉強机と、その横にある本棚の他に家具はない。

カーテンのかかった窓が、勉強机とドアの真向かいに位置している。

部屋の中に人影はない。

男の子は、勉強机に向かうと、窓側に寄せて置いてある水槽を両手でつかみ、声をかける。

「どざエモ~ン! 助けてよ~」

「どうしたんだい、伸太くん」

くぐもった声が、水槽の中から聞こえる。

水槽は緑の藻で覆われていて、中に何が入っているかは見えない。

伸太と呼ばれた男の子は椅子に座り、水槽に向かって少し落ち着いた様子で話し始める。

「聞いてよ、どざエモン! あの親のスネかじりの七光りでいけ好かない、ほんといけ好かないやつだよ……死んだらいいのに……の常雄のヤツがしょうこりもなく無人島旅行を計画したんだけど、案の定、チズちゃんやグリーンジャイアンだけを誘って、僕は仲間はずれにしてるんだ。許せないよね。いまごろ、あいつら南の島のプライベートビーチでちゃぷちゃぷやってやがるんだよ。ああ、あいつの半分だけ垂れ下がった前髪を燃やして左右対称になるまで調整してやりたいよ。昔、ぼくがチズちゃんに悪戯したのは今は関係ないだろ! ゴタゴタ言わずに連れてけよ、クソが! 大体、ぼくが未だに夜トイレに行けないのは、あいつらが昔怖い話をしたせいじゃないか! ほんとにクソだよ。あいつらは! 世界の害悪の根源だよ!」



「なんとなく状況はわかったけど、伸太君のドス黒さのせいでぼくが何をすればいいのか全く見えてこないね。常雄の前髪を燃やせばいいの? ライターでやりなよ」

「違うって~。それは別のときにやるから。僕が欲しいのは、この世界とまったく同じだけど、誰も人がいないような世界に入り込む為の道具だよ。水面にぽたりと垂らしたらそこが、その世界の入り口になるようなひみつ道具あるだろ。それが欲しいんだよ。それで、無人島ならぬ無人のコンクリートジャングルを謳歌して、あいつらを見返してやるんだ」

「確かにぼくはそれを持っているけど、君のその具体的なイメージはどこからくるんだい……」

「ドラえもんでやってたよ」

「そんなこと言ったら世界観が揺らぐだろ。あ、ドラえもんやってるんだこの世界って思うじゃない。ぼくはてっきりドラえもんの代わりにいるんだと思ってたよ」

「そういう発言もどうかと思うけど。まあ、そんなことどうでもいいから道具出してよ~」

伸太は水槽を揺らす。

水槽の中で、藻が掻き混ぜられるのが見える。

「やめろ! おいやめろって」

「出してよ~、出してよ~。出すまでやめないぞ! その白い腹が水面に浮かぶまでやめないぞ!」

伸太は目を血走らせている。

慌ててどざエモンが叫ぶ。

「わかったよ! わかったから恐ろしい比喩をやめろ!」


伸太が水槽を揺らすのをやめると、水槽の水面に薄紅色の触覚と丸い目玉が浮かび上がる。

伸太は触覚と目玉の後ろ側の水面に手を入れて、その甲殻で包まれた背中をつかんで水から取り出し、机の上に置く。

30cmほどの甲殻類が触覚を動かしながら声を発する。

「言っとくけど、ぼくが持っているひみつ道具は全部発売前の欠陥品だからね。そもそもぼくは」

「21世紀末から22世紀の間の飛躍的な科学技術の進歩、それによって新しい技術を使った製品が毎日生まれて人々の暮らしを一変させていた時代に、産業スパイとして生み出されたエビ型ロボットだろ。数々の試作品を盗んだまま雇われ先からも逃げ出してこの時代にやってきた……って何回も聞いたから覚えちゃったよ」

「また肝心な事を間違えてる。ぼくはエビじゃなくてシャコ、シャコ型ロボットだよ」

「同じようなもんだろ」

「全然違う。全然違うよ! エビとシャコは同じ甲殻類だけど別の種なんだ! 君だって、カニ食べ放題につられて店に入ったら、大量のザリガニが盛られてたら怒るだろ?! 店主の腸を引きずり出して店内に撒き散らしたくなるだろ?」

「そんな恐ろしい気持ちにはならないよ……わかったから、手足を振り回すのやめてよ……臭い水が飛び散るから」

「全然違うのに……だから…腹立つんだ……エビ死ね……」


どざエモンはぶつぶつと何かを呟き続けているが、伸太は目線を机の高さまで下げて、苛立ちを含んだ声でさらに頼み込む。

「欠陥品でも何でも誰もいない世界ができればいいんだよ。早く出してよ。それとも、あのときのように水槽から出て、独りで機能停止するまで干からびたいの? 新しい水はいらないの?」

どざエモンは手足を振り回すのをやめて大人しくなる。

「わかったよ。わかった。やれやれ、まったく性根の腐った小学生だよ君は。道具は出すけど、そろそろ水を替えてくれよな。新鮮でカルキ臭い水に」

言い終わると、どざエモンは後ろ側の片方の足を上げて、体を震わせる。すると、尻尾の方の裏側にびっしりとついた泡のようなものの塊から、一粒の丸い泡が机の上に落ちる。

どざエモンが前足の小さなはさみを使ってその泡の端を切ると、泡はぐんぐんと大きくなって弾け、あとに10cm程の円柱形の缶が残っている。

缶は粘性のある透明な液で濡れている。

「やった! これが逆世界入り込みオイル?」

伸太はその缶を開けて中を覗き込む。

コールタールのような深い闇色の液体がのぞく。

「それをどこかの水面に垂らせばいいよ。君の言う、誰も人のいない、左右逆であとはこの世界と同じという平行世界に水面が接続される。ただし、その道具には欠陥があって……」

「ありがとう! 早速、お風呂で試してみる」

伸太は缶を持って部屋を飛び出していく。

取り残されたどざエモンが呟く。

「やれやれ、人の話は最後まで聞くもんだよ。伸太君……」


2時間ほどして、興奮した様子の伸太が部屋に入ってくる。

片手には逆世界入り込みオイルがある。

「やった! 大成功だよ! どざエモン」

伸太はどざエモンの方を一瞥もせずに勉強机の反対側の押入れを空けて押入れの中に上半身をいれる。

何かを探している様子の伸太。

伸太の半ズボンについた二つのポケットが不自然にふくらんでいる。ポケットから薄い青色の布のようなものがはみ出している。

押入れの奥から、伸太の鼻唄が聞こえる。

「どこへ行っていたんだい? そのポケットからはみ出ているものは何? ああ、また下着……もう大体想像がついたけれど、君は本当に下衆なんだなあ」

伸太は押入れに上半身をつっこんだまま、鼻唄を中断して、明るい声で聞く。

「ゲスってどういう意味だい?」

「自分に正直ってことさ」

「あったあった」

伸太が押入れから顔を出すと、手には少し大きなスポーツバッグが握られている。

「これこれ。じゃあ、いってきまーす」

伸太は満面の笑みを浮かべると、また部屋を出て行こうとする。

「待った」


「何?」

体半分、部屋の外に出した伸太が面倒くさそうに振り向く。

「その道具の欠陥を聞いてからの方がいいんじゃない?」

「後で聞くよ」

「後で、いいのかい?」

伸太は少し考えるようにどざエモンを見つめる。

「そうだね。先に聞いておこう」

伸太は勉強机にまで戻り、机の上にオイルを置いて、どざエモンを見下ろす。

伸太が机に座ると、どざエモンは話し始める。

「そう。最後まで話を聞くもんだよ。伸太君。その道具の欠陥はいくつかあるんだ。最後まで聞いてね。まず一つ目は、全ての水面が別世界に接続してしまうこと」

「え、ぼくが垂らしたお風呂だけじゃないの?」

「二つ目、接続するときに境界をまたいでいた物質は切断されること」

「ちょ、ちょっと待って」

伸太の顔が青ざめていく。

どざエモンは伸太を無視して続ける。

「三つ目。この道具には世界を元に戻す機能はないこと。以上」

「ちょっと待てって!」

伸太は立ち上がり、机の上に両手を叩きつける。


「どういうことだよ! そんなこと聞いてないよ!」

「君が聞かなかったんだよ」

伸太は荒い息をつきながら、どざエモンを見下ろしている。

どざエモンもじっと伸太を観察するように見つめている。

やがて、伸太は諦めたように溜息をついて座る。

「……ぼくがオイルを垂らしたのはお風呂だけだよ。それでも、全ての水面が別世界の入り口になるってこと?」

「そうだよ。そのオイルは別にお風呂の水と化学反応を起こして水面に鏡面世界への入り口を作ったわけじゃない。君が水面にオイルを垂らすことで、水と空気の境界が世界の境界として選択されたんだよ……もっともその道具に本来望まれていたのは、君の思うようなものだけど」

「おかしいよ。じゃあ、君のいた未来の水面は別世界の入り口に固定されてるってこと?」

「こういう道具の実験はね、大抵別の平行世界で行われるのさ。21世紀の終わりの技術革新というのは、平行世界の発見と利用の為の技術なんだよ」

伸太は黙りこむ。

伸太の表情が固くなっていく。

「……二つ目の、切断、されるってのは……つまり」

「そのままの意味で、真っ二つになるってことだよ。例えば、常雄君たちが運悪く海水浴をしていたとしたら、海に浸かっている部分と海から出ている部分が切り離される。うまくすれば足首、運が悪ければ胴体、首……」

二人が無言になると、どざエモンのはさみがたてるカチカチという音が部屋に響く。

「例外もあるよ。例えば、無人島そのもの、もっと言えば大陸は、海という水面にまたがって存在しているじゃないか。もし、それらの地層が分断されたとすれば、どうなるんだろう? 大規模な地震で人類滅亡? でも、そんなのはなかったよね。つまり水面の判定の問題なんだ。大陸やなんかは水面の周縁として認識される。実験値はどれくらいだったかな。1平方メートルくらい? さて、チズちゃんのウエストは……そんなに大きいはずないね」

伸太はパクパクと口をあけているが、声が出ていない。

「でも、切断されて直ぐに死ぬ方がましかもしれないよ。例えば、彼らがたまたま潜水していたらどうだろう。彼らはスキューバをやるとは言ってなかったかな。二つの世界は水面を境界にして接続されるから、水面上だけの世界と、水面下だけの世界が生まれるわけだ。今、水面上だけの世界にいる僕らが水面下に入れないように、水面下にいるものは水面上に上がれない。重力に逆らって水面上に上がろうと上に向かって泳いでも、水面を通過したときには今度は下に向かって泳いでいるんだ。君達人間は酸素がないと生きられないよね。どんな気分だろう。どこまで泳いでも無限に水中が続くけれど、肺やタンクの空気は有限……こういうのを絶望って言うんじゃないかい?」


伸太が震えだす。

伸太は両腕で体を抱くが、震えは止まらない。

「ぼ、ぼくはそんなつもりじゃ」

「なかったよね。でも君の意思はどうあれ、結局は君の選択が、君の友達やこの世界の他のたくさんの誰かの死を引き起こした事実は変わらない。それとも意思なき殺人は罪ではないのかな。罪と罰は人間が作り出した概念だ。ぼくにはそれを判断する機能はない。震えているね、伸太くん。自分の罪に慄いているのかい? 君のやったことはこの時代の司法で裁かれる事はない。だけど君には、君の罪と罰を認識して施行する権利がある。さあ、君の罪は何だろう。決まったら、参考までにぼくにも教えておくれよ。あと、ささいな補足をしておくと、この道具が接続する、生物がいない平行世界というのは、実は道具が発動した瞬間に生まれた平行世界なんだ。君が道具を使った瞬間に、地球上のあらゆる生命体が一度に蒸発するような何かによって生物が消えた世界が作り出されたんだ。君の選択が、別世界の地球に住む全生命を殺したことになるのかな。ほんのささいな補足だよ。未来じゃあ、当り前に行われている事さ。それも君の罪に数えられるだろうか」

「わああああ! うわああ! うわあああああああああっ!」

伸太はそのまま耳をふさいで喚く。

椅子を蹴り飛ばして、うずくまる。叫ぶ。

しばらくして、伸太は再び立ち上がると、そのまま部屋を走り出ていく。


再び静かになった部屋でどざエモンは独りごちる。

「伸太くんのような人間でも罪の意識はあるんだね。他の生物を殺して生きていくようにデザインされていながら、部分的にであれ、殺す事に抵抗を感じる。不思議な生き物だ」

どこかでガラスが割れる音がする。

硬質のものが床にぶちまけられる音がする。

どこかのドアが開けられる音がする。

「少しお灸が効きすぎたかもしれないな。本当のことを聞かないまま、飛び出してしまったから。まったく、人の話を最後まで聞かないのは問題だね。どこかで修正しないと、ろくな大人になれないよ。実際は、この道具の効果は3時間程で切れてしまう。元に戻す機能は無いけど、自然に戻ってしまうということさ。もうそろそろかな。ああ、眠い。そういえばずっと水から出たままだ。低消費エネルギーモードに切り替わって2時間くらいか。いけない。そろそろスリープモードが起動して、し、ま」

どざエモンの動きが止まる。


遠くで伸太の声がする。

「ぼくは向こうの世界に行くよ! そこで独りで暮らす。それが僕の罰だ! さようなら、どざエモン!」

静寂。

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2010-03-10世界フジキくん、君は本当に卑怯だな発見!

美食ハンター・トリコ

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腹が減るほどオーラが増す。これがトリコの念の性質であり、ハンターとしての矜持を遵守するための誓約であった。トリコは念に目覚めてから、「食う以上にハントしない」為に、空腹時のみに念が使えるという制約/誓約を課した。その効果は強く、満腹時はほぼ絶状態になる。それ故に限界まで空腹になったときのオーラ総量は想像を絶する。

この制約は、いくら個人主義のハンターといえども、いささか自己中心的過ぎるが、トリコにとってはハンターとはただの肩書きでしかない。トリコを知るものは彼をこう評する。ハンターとなる前も後も、変わらずトリコはただ一匹の獣であると。オーラを纏わずとも、トリコは虎と同じかそれ以上の何かだ。

トリコは思うがままに生き、しかしその結果美食ハンターとして多大な功績を残した。人の作る料理の限界を推し広げた、と彼に影響を受けた多くの人々は語る。

皮肉にも、そのトリコの能力が最大限に発揮されたのは、その晩年であった。




BGC(黒美食機構)の行った大規模な害獣駆除活動に反対したトリコは、ある日、単身BGC第十三支部に乗り込み、実質上のトップ九鵜藻野胡馬羅厨(くうもの こまらず)を殺害、そのままBGC第十三支部に立て籠もった。BGC第十三支部は、実質的には九鵜藻野が私邸として利用していた為、職員はほとんどおらず、九鵜藻野胡馬羅厨が死亡、そのボディガード数人が重軽傷を負った(ただし九鵜藻野は戸籍上では死亡していた為、身元不明の死体が発見されたことになった)。その後、トリコは、BGCの差し向けたブラックリストハンター20人を含む突入部隊を返り討ちにする。そのとき、トリコは三ヶ月以上の飢餓状態であり、星二つのブラックリストハンター二人と同時に相対し、瞬時に戦闘不能にしたと伝えられる。

トリコがBGCの計画に反対した理由ははっきりとはわからない。美食ハンターの活動は、ときに動物愛護団体や自然保護団体と対立する場合もあるからだ。また、トリコがそのような団体と繋がっていたという情報もなかった。

BGC篭城より3日後、精鋭ハンター数人による再突入が行われるが、既にそこにトリコの姿はなかった。次にトリコが発見されたのは、暗黒大陸の中央に位置する大森林――現在、鬼哭の森と呼ばれる魔所である。


その場所は、トリコが潰そうとしたBGCの害獣駆除計画の対象であった。暗黒大陸の中央に広がる数万ヘクタールに及ぶ森林、その森は高レベルの魔獣が跋扈する為、通常の人間では立ち入ることができない。しかし、そこには絶滅種の動物や独特な進化を遂げた生物や植物が多数存在し、さらに地下には貴重な鉱石や石油などの天然資源が埋まっていることから、生物学者、考古学者、鉱物学者、その他企業や国家にとって、喉から手が出るほど魅力的な場所であった。これまで、この森林は国連により特A級の危険領域と判断され、大規模な開発は行えなかった。その為、危険領域での作業を単独で行使できる美食ハンターや資源ハンター達の仕事場となり、学者や、一部の資産家などがハンターを雇い、単独で調査・発掘を行うのみに止まっていた。今回、トリコを発見したのも、古参の貴金属ハンターの1人であった。

トリコによるBGC第十三支部の篭城の結果、BGCの害獣駆除計画の一部が公にさらされた。BGCの計画は中立地帯である暗黒大陸の利権を巡る国家間の思惑が絡むおおがかりなもので、漏洩した情報の一部は結局、政治的に隠蔽された。隠蔽された計画の中には、ミサイル及び毒ガスの使用案もあったという。


危険分子トリコの始末の為に、ハンター協会から、会長ネテロと少数の精鋭ハンターが山に入ったが、期間内にトリコを発見できなかった為にトリコ討伐は一時中断される。ネテロは、そのときトリコと接触したとの証言もあるが、ネテロ本人が否定している。

しかし、九鵜藻野殺害と、トリコのBGC第十三支部占拠を引鉄にして、BGCの不正行為がいくつも明らかになったことにより、事実上BGCの害獣駆除計画は頓挫し、トリコへの報復どころではなくなった。世界にとっても、トリコによる実害は既になく、ブラックリストにトリコの名前はあるものの、トリコに手を出そうとするブラックリストハンターはいなかった。

それでも数年にわたり、莫大な賞金に目の眩んだハンターが1人もいなかったのには理由がある。3ヶ月の空腹状態で、手練のハンターの一個大隊を全滅させたトリコが、まだ空腹状態にあることが、念能力を持つハンターには一目瞭然だったからだ。


鬼哭の森は、数万ヘクタールにも及ぶ大森林である。その森林全土を、トリコのオーラが覆っていた。トリコを中心として広がったオーラは形状が歪み、独特の形で安定していた。その姿は、まるで膝を立てて座り込んだ巨大な鬼のように見えた。驚くことに、鬼のオーラは、円の性質を持ち、そのままトリコの知覚範囲となっていることがわかった。念を修めたものには、森に入った瞬間、独特の「見られている」という感覚を味わうという。トリコを世界に対する最悪の危険として、国連不許可のまま、ある国家が、鬼哭の森にミサイルを打ち込んだことがあった。だが、そのミサイルは森の遥か上空で撃墜された。それが何度か重なり、最後に発射直前のミサイルが爆破され、計画は終了する。

森に手を出すものは誰もいなくなった。

その5年後、森を覆うオーラが消えた。


オーラが消えて二日後、森の奥で、トリコの死が確認された。餓死だった。

トリコの友人であったハンター、料理人たち数人で、葬儀が行われる。トリコの遺体が動かせなかった為、葬儀は森で行われた。トリコの体は千念樹の洞に同化していた。千念樹はトリコのオーラの影響か、独自の形状に変化していた。この日より、この森が鬼哭の森と呼ばれるようになった。




トリコ 1 (ジャンプコミックス)

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2010-02-15旦那は伊藤

エスパー魔美クロニクル

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まだ、私に力が残ってる? せめて今もう一度だけ……。

魔美はコートのポケットの中で、中指と薬指だけを折りたたみ、強く念じた。しかし、やはり何の反応もない。コツコツとアスファルトを鳴らす足音は、どんどん魔美に近づいてくる。

深夜の住宅街は静まりかえっている。ここまで人と出会っていない。家に帰り着くまで、多分誰とも会わないだろうと魔美は経験的にわかっていた。家にはあと10分も歩けばたどり着く。ただ、誰もいない家に足音の主を連れて行くことになる。

足音は駅からずっとついてきていた。魔美が立ち止まれば足音も立ち止まり、魔美が足を速めれば足音もせわしなくなった。足音を聞く度に、魔美は心臓を締め付けられるような気持ちになった。魔美はひどく怯えている自分を認めた。

かつての自分なら、恐れはしても、それに立ち向かっただろうと魔美は思う。しかし、今は、無理だった。

魔美の超能力は妊娠を境になくなっていった。まるで娘の魔希に吸い取られたように。魔希が物心つくころには完全に消えていた。

幼くして超能力を発現した魔希に魔美は熱心に制御方法や心構えを教え、能力の限界を可能な限り調べた。かつての自分がそうやって超能力を自分のものにしていったように。それは純粋な喜びもあり、自分に無くなってしまった超能力を魔希に追い求めるような気持ちもあった。そして、それを通して、かつて自分が最も楽しかった時代を思い出していたのかもしれない。




助けて。高畑さん!

魔美の頭に浮かんだのは、別れた夫ではなく、かつての友達、あの聡明で優しい少年の顔だった。彼が今どこにいるのか、魔美は知らない。彼がアメリカで博士号をとった年、魔希の出産を祝いに来てくれた日から会っていない。むしろ、魔美の方で、意識して会わないようにしていた。

彼がアメリカで才能を生かし始めるのと反対に魔美の超能力は弱まっていった。それは彼のせいではなく、不思議な愛犬コンポコがいなくなったときから始まったのかもしれない。

コンポコは魔希が生まれる少し前、嵐の日にいなくなった。魔美は必死で探したが、見つけることはできなかった。

そうやって、1人と1匹の親友をなくすことで、魔美は自分がどれだけ彼らに支えられてきたのかを知った。魔美はその時、既に高畑への愛情に気づいていたが、テレポートで海を超えることもできず、それを試すこともできない自分に気づき、そんな自分が彼とは釣り合わないと感じるようになった。超能力は彼女を歪ませることはなかったが、知らず彼女のアイデンティティとして大きなものになっていたのだった。

それでも魔美は寂しかったのだ。そして美大のサークルで出会った前夫の優しさと絵の才能に惹かれて結婚した。それは概ね幸せな生活だったと言える。だが魔希の超能力の発現は二人の関係に変化を生じさせた。魔美は超能力について夫に話していなかった。もう困った人々の声はほとんど聞こえなくなっていたし、はっきりと物を動かす力もなかった。それについて説明する必要はないと思っていた。夫に超能力について話さない本当の原因について、当時の魔美は自分でも気づいていなかったが、今になっては、それこそが二人が別れる原因だったのだと魔美は思う。


急ぎ足で歩いていたつもりでいたが、足音は直ぐ近くまで来ていた。気配を感じて、魔美が振り向いたとき、1メートル程の距離に、一人の男の姿があった。襟が汚れた白いカッターシャツ。ぼさぼさの髪。シャツやパンツは絵の具のようなものが飛び散った汚れがついている。

反射的に目をそらし、前に向き直ろうとした魔美に、男が早口で声をかけた。

「あ、あなた、佐倉魔美さんですよね、さ、佐倉画伯のむ、娘さんの。ああ、す、すみません。僕、近藤と言います。さ、佐倉画伯のだ、大ファンで、画伯の絵は、全部持ってます。もちろん全部複製ですけど。そ、それでも特に、あの連作『少女』は傑作です。僕は、小さい頃からあの絵が大好きで、どれだけ癒されてきたことか」

男は、最初はたどたどしく、しかし絵の事になると饒舌に、喋り続けた。昔の魔美なら、素直に父親の絵が認められていることに喜びを感じたろうが、今の魔美は、口許にしまりのない笑いを浮かべ、喋りながらじりじりと近づいてくるこの男が堪らなく気持ち悪かった。怖かった。直ぐに逃げ出したかった。だが何をするかわからない男を刺激することは避けたかった。魔美はじりじりと追い詰められていく。


背中にゴツゴツしたブロック塀を感じた。いつの間にか、狭い路地の曲がり角の所にいる。後ろにあるのはこの辺りでも有名な豪邸で、ぐるりとブロック塀で取り囲まれている。

魔美の直ぐ一、二歩の所に男がいた。男の一方的な演説は、父親の絵への賞賛から、魔美そのものへの賛美にかわり、彼の興奮は今や最高潮になっていた。男は顔を真っ赤にし、歓喜の声をあげて唾を飛ばした。

「ああ! あなたは、やはり、未だ少女のままだ! あの絵のままだ! 20年経って、僕は、こんなになってしまったのに! 君は! 君だけは! ずっとずっと美しい! 君は、永遠の魔女だ!」

「やめて!」

男を突き飛ばし、魔美は逃げた。「どうして……」という男の呟きが、獣のような咆哮に代わり、魔美を追った。魔美はもうどこに向かっているのかもわからず、無茶苦茶に走った。魔美の脳裏に、中学生のときに体験した事件の数々が思い出される。解決した場面ではなく、対峙した恐ろしい人間達の顔や目が思い出され、魔美は恐怖に包まれた。

「やめて! もう嫌!」

鈍い衝撃が魔美を襲った。視界が暗くなる。

(私は魔女じゃない。わたしは、超能力なんていらなかった……私は……)

鉄パイプのようなものを握りしめた男が道に倒れた魔美を見下ろす。男はしばらくブツブツと何かを呟きながら、魔美の周りを回っていたが、遠くから聞こえてきた犬の声に、びくりと体を震わせると、気絶した魔美を引きずって歩き出した。そして、すぐ近くの薄暗い公園、その芝生の中に、魔美の身体を連れ込んでいった。


魔美が目を覚ましたとき、男は魔美を跨いで、膝立ちになり、魔美の服を脱がそうとしていた。魔美は反射的に暴れ、足で男の腹を蹴った。男はバランスを崩して、地面に尻餅をつき、魔美は素早く立ち上がって男と距離をとった。着衣を確認する。スーツの上は脱がされているが、シャツは上二つのボタンを外されただけだ。それでも嫌悪感で肌が粟立った。

魔美は男を睨みつけた。

男は魔美の目を見て、怯えたような顔をしたが、ブツブツと呟きながら立ち上がった。立ち上がった男の目には、再び暗い炎が宿っている。

「違うんだ。ぼ、僕は芸術を見たいだけなんだ。芸術を見て、取り込んで、僕の中にも芸術を宿したい。僕にとって君が芸術なんだよ! ねえ、お願いだから、僕にも芸術をくれよ。君の芸術を分けてくれよ……」

「私は芸術なんかじゃない! 芸術は、そんなものじゃない! パパの絵を見て、あなたは何を感じたの!」

魔美は喋りながら、何故か、気持ちがあの頃に戻っていくのを感じた。懐かしい感覚が、魔美を包んでいく。

近づこうとした男を、魔美は右手をあげて、指さす。指をさされた男はぴたりと動きを止めた。

魔美は男を制したまま語りかける。

「私は魔女じゃない。魔女じゃないけれど、ずっとあなたみたいな人と戦ってきたわ。怖くなんかない。そうよ。超能力なんかなかったって、あの頃の私は、きっと戦ってた。それに、私は力なんかなくても戦っていた人を知ってる。私は死にものぐるいになるわ。あなたみたいに、弱い心にふりまわされて、弱い人を襲う人になんか、負けない!」

魔美に気圧されていた男は、魔美が震えている事に気づき、にやりと笑みを浮かべた。魔美の心の中の恐怖をあざ笑うかのように。

かまわず魔美は、男に向かって駆けた。そして握り込んだ拳を男に向かって伸ばす。

拳は男に届かなかった。しかし、男は、身体をくの字にして、後ろに吹き飛んでいった。そして、公園の木にぶつかって、さらに木を2,3本なぎ倒したところで、地面に落ちた。男は完全に木を失っているようだった。

魔美はそれを、ぽかんと眺めた。そして、はち切れそうだった心臓の音がおさまったとき、懐かしい声がふたつ、同時に聞こえた。

「大丈夫か魔美君!」

「ママ!」

空中に少女と男が浮かんでいた。男は少女の腰にしがみつくようにしているが、少女は平然としている。魔美は叫んだ。

「魔希!」

少女は地面に降り立つと、魔美に走り寄って抱きついた。魔美はさっきまで立っているのがやっとだったが、娘のしがみつく力の強さを感じ、娘が泣いている事に気づいて、母としての力が蘇ってくるのがわかった。優しく娘の頭をなで、そして、近づいてきた男に視線を向けた。

「高畑さん……」

男は、あの頃と同じように優しい笑顔で立っていた。

「危ないところだったね。魔美君」

その言葉を聞いて、魔美の目から涙が流れた。


気絶していた近藤という男はそのままにして、魔美達は家に帰ることにした。魔希が近藤の心を少しだけ読み、彼がそれほどの悪意のない人間だと判断した。今、近藤は、彼が熱意と夢を持っていた頃の夢を見ている。

「そう……魔希はあなたの大学にいたのね」

帰り道、魔美は、高畑と魔希から話を聞いていた。

魔希の親権は夫にあった。魔希は、夫と共にアメリカに渡っているはずだった。

「電話で面白い先生がいるって言ってたの。それが高畑さんだったなんて驚きだわ」

「僕だって、驚いたよ。まさか、君の……娘さんとアメリカで再会するなんてね」

高畑のしゃべり方は穏やかで、かつての面影をそのまま残していた。

「あたしの方が驚いたわ。だって、高畑さんがママと知り合いだったなんて」

高畑と魔美の間で、二人に腕をからめている魔希が、嬉しそうに二人の顔を眺める。

「僕が講義中に超能力の存在について話した事があったんだ。そしたら『そんなもの絶対にない!いい加減な事を先生が言うな』って怒った生徒がいて、それが魔希君だったんだ。あのときは困ったよ。僕はそのとき精一杯説明したけど魔希君は満足しなかった。それから何度も僕の所にきて、超能力は存在するかどうかの議論をふっかけてくるんだ」

「ごめんなさい……」

魔希が恥ずかしそうにうつむいた。

高畑は笑って言った。

「それでもどこか憎めなくてね。必死に資料を集めてくるんだけど、どこか抜けてて、僕が論旨を修正したりね。それに僕の部屋を勝手に片付けようとしたり、栄養が偏ってるとか言ってご飯を作りにきたり、おっちょこちょいで、お節介な誰かにそっくりで」

「「悪かったわね」」

魔美と魔希の声が重なり、高畑は嬉しそうに笑った。次いで、ふたりの笑い声が続く。

「魔希君は、君の超能力の事も知らないようだった。君は魔希君の記憶と超能力を封印してたんだね」

魔美はうなずいた。

夫と別れるとき、魔美は、魔希の超能力を封印した。幼い魔希にテレパシーで「超能力が存在しない」という暗示を与えた。魔希が自分一人でも力を抑えられるように。それはタイミング的に、魔美の最後の超能力だった。

「君の暗示のせいで、魔希君は超能力そのものを忌避するようになっていたんだね。でも、あるとき魔希君と僕が事件に巻き込まれた。大学で起きた銃乱射事件。その銃の弾で、魔希君はテレポートの能力に目覚めたんだ」

「あのときは無我夢中で、わけがわからなかったの。高畑さん……先生が撃たれそうになって、早く逃げてって強く思ったら、先生が犯人の上から落ちてきたの」

「昔、魔美君に言われたとおり、僕の体重は順調に増え続けていたんだけど、それが役に立ったんだよ」

自慢げにお腹をさする高畑を見て、魔美は笑った。そして、魔希の頭を抱える。ありがとう。大切な人を守ってくれて。

「君の意思と反する事はわかっていたんだけど、僕は魔希君の能力開発に手を貸していくことになった。ごめん」

「ママ、高畑さんに私が頼んだの。私、高畑さんがいなかったら、この力をどう使ったらいいかわからなかった。今回のことだって」

魔希は心配そうな顔で魔美を見上げた。魔美は娘に笑いかけた。

「いいのよ……ありがとう。いずれ魔希は力に目覚めただろうし、そのときあなたみたいな人が近くにいてくれて良かった」

「そう言ってくれると助かるけど……最初は行きがかり上、でもいつからか僕は喜んで魔希君に力を貸していた……まるで中学生の頃に戻ったみたいだった」

しばし無言で歩いた。前を向き、黙って歩く二人を、魔希が不思議そうに眺めていた。

「魔希君の力はすごいよ。今回だって、僕たちはアメリカから来たんだ。地球の裏側の君の危険を感知して、数十回のテレポートで、ここまで来た」

魔美は驚いた。そんな力は自分にはなかった。魔希が背負うものは自分より遥かに大きいのかも知れない。

「でも、あたしだって、今日が初めてだよ。こんなに力が出たの」

魔希が不安そうに言った。魔希も自分の力が信じられないようだった。

黙り込んだ二人を見て、高畑が声を出した。

「ただ今回の場合は、魔美君の力が関わっているのかもしれない。魔美君が魔希君を呼びよせる力と、魔希君が魔美君の所に行こうとした力、そのふたつの力の相乗効果で、潜在能力以上の力を出したんじゃないだろうか」

「そうか、ママがあたしを呼んだのね」

そうだったら良いなと魔美は思う。知らず、自分が一番会いたかった人を呼び寄せたのかもしれない。もちろん、魔美は自分の力が消えたのを自覚しているし、魔希が強力な力を行使できたのは事実としてある。だが、高畑に説明してもらうと、安心できた。それは娘も同じようだった。


「じゃ、ここで。また明日、お邪魔してもいいかな。パスポートも無しに来ちゃったから、どうやって帰るか相談しないと」

「ごめんなさい。本当にありがとう」

魔美が頭を下げると、高畑はかまわないよと笑った。

魔希が嬉しそうに高畑に抱きついた。

「また明日ね、高畑さん」

「魔希!」

アメリカ式にそまってしまったのかしら、と不思議そうな魔希をひきはがしながら、魔美は思った。

それでもきょとんとした顔の魔希を見て、自分が少し嫉妬しているのに気づいた。魔希が、彼を高畑さんと呼んだのに抵抗があった。帰り道、何度も魔美は、魔希とかつての自分の姿を重ねてみていた。

この子は気づいているのかしら、自分の思いに。私は気づかなかった。エスパーだったのに。私だけが、私の恋を、未確認だった。

それでも、去っていく高畑の背中を見ながら、魔美は自分の中に暖かいものが満たされていくのを感じていた。

隣を見ると娘も同じように高畑を見つめている。

「今度は逃がさないわ」

ライバルはできたけどね。

そして魔美は右手を銃の形にして、高畑に向ける。そのとき高畑が何かにつまづいたようによろけた。




とても幸福な気持ちで目が覚めた。

のだけど、頭が覚醒していくにつれ、たまらなくはずかしくなってくる。

聡明で優しい少年? 

今度は逃がさない?

ぼくは自分で何を言ってるんだ。言わせてるんだ。いくら夢だって……いや、夢だからか? 

もしかして未来予知が夢になって現れたとか……いや、やめよう。そんなわけない。これは単なる無意識の欲望だ。でも何て微妙な設定。なんでわざわざ彼女を一度別の男と結婚させて大学生の娘まで用意した上で自分と恋愛させるなんて……しかも十代の娘との微妙な三角関係まで作ろうとしている節があるし……ああ、だめだ。こんなことを考えてると、胸の辺りがもやもやして酸っぱいような気持ちになる。

でもこのもやもやは、今日一日は晴れそうにない。

ぼくは、ベッドから置き出し、バットを持った。

気分が晴れるまで素振りしよう。よし、今からは野球のことだけ考える!

すると、突然背中にずっと重いものが現われて、ぼくは畳に押しつけられる。

首をひねり、なんとか後ろを見ると、彼女がいた。

「き 君は」

ノックぐらいしろと言おうとして、彼女がとびついてきたので、何も言えなかった。反射的に夢を思い出して顔が赤くなる。そんな僕の気持ちも知らず、彼女はいつものように大きな声で叫ぶ。

「大変なの! すごい夢みたの。もしかして予知夢かも……って、あら、顔が赤いわよ。高畑さん。熱でもあるんじゃない? 大丈夫?!」






エスパー魔美 1 (藤子・F・不二雄大全集)

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sasuke8sasuke82010/02/15 23:24名前が統一されてなかったので修正しました。
×魔季 
○魔希

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