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石麻二芯の文章読本 このページをアンテナに追加

2012-04-14

東京の蚊取り線香(仮)その2

| 15:47 | 東京の蚊取り線香(仮)その2 - 石麻二芯の文章読本 を含むブックマーク はてなブックマーク - 東京の蚊取り線香(仮)その2 - 石麻二芯の文章読本

遠くでサイレンが鳴っている。いつまでも鳴り止まないと思ったら電話だった。

『ごめんね、寝てた?』

杏だった。

テストとレポートからようやく解放されて、いざ夏休みに突入せん!というその初日の事だ。前日、サークルの同期と飲み歩き、どうやって帰ってきたのかも覚えていなかった。

『ちょっと車出してくれないかな? ご飯おごるから。ビールもつけていいよ!』

杏だ。杏だ。僕はぼりぼり頭を掻きながら、落ち着け落ち着け覚醒しろ覚醒しろと結局は混乱する。

『すっごい掘り出し物なんだけど、持って帰れないんだったら売らないってお店の人が!』

午後二時の真夏の日差しが僕を射殺そうとする中、叔父から譲ってもらったばかりの軽トラを飛ばした。

『ありがとう! ありがとう!』

何度も頭を下げられた。杏がこんなふうに人にお礼を言うのを初めて見た。ふたりでえっちらおっちらトラックまで運ぶ間、実の所、二日酔いで何度か戻しかけた。持ち手が無くて運びにくくて仕方が無いその棚に、僕がその後、しばしば座る事になるとは思っていなかった。これは2回生の夏の事だ。

部屋を掃除したら山積みの授業レジュメの間からフィルムカートリッジが転がり出てきて、いつもなら即座に現像するか、そうでなくても撮り終えた日付をメモするかしているのだが、何も無い。なんだっけと思ってボックスで現像した。これは2回生の春。新入生を迎え撃つ為の準備で僕らがそわそわしていた頃。ああ、そうか。僕はどうやら昔の事を夢に見ているらしい。そこに写っていたのはボックスでのクリスマスコンパの光景だった。無駄にでかいケーキや、先輩の実家から送られてきた大量のせんべいや、半裸になって机の上で踊っているOBやら。杏はサンタのコスプレをして笑っていた。ミニスカでないのはけしからんと散々けなされていたが、僕は杏が忠実にサンタをやっているのが、とても彼女らしくて、だからそっちの方こそ価値があるんだと、まあ口にはしなかったけど。フィルムの最後の方はピントも甘く、一見すれば被写体が判別できないような物もある。だけど僕には分かっていた。杏だ。ひたすら杏を写している。酔いに任せて。油断すると悶絶しながら外に飛び出しそうで、しかし黙々と作業を続けて、プリントまで一気に済ませ、洗濯バサミでパチパチ留めていき、腰掛けた時、見上げればそこにはたくさんの杏がいて、僕はずるずる椅子から滑り落ち、へたり込んでしまった。うー、とか、あー、とか唸りながら、どれくらいそうしていたか。

『大丈夫? 夜からずっと入ってるみたいだけど』

…なんてタイミングで。

『ねえ、大丈夫? ちょっと?』

そうなんだよ、実は僕は大丈夫じゃないっぽい。

『返事して! 入るよ? いい?』

勢い良く扉を開け、カーテンをまくり、眩しくて見えないはずなのに杏の顔がはっきりと分かる。馬鹿みたいな顔をして、だけど口が勝手に動く。

『ごめん、廿日市。好きなんだ』

それを聞いた杏は、

違うな。都合の良い具合に改変されている。あの時入ってきたのは確かに女性だったけど、僕が一番苦手にしていた先輩だった。

追い出しコンパ。もうほとんどが酔いつぶれて寝てしまっている。杏が、内緒だけどって言う。

『内緒だけど、私は悪い宇宙人から地球を護る為にミノルタ星からやってきたロッコール人なんだ』

『それ、ほんと?』

『ほんとのほんと』

『そんなの、俺に教えちゃっていいの?』

『いいのいいの。だけどみんなには内緒ね』

『なんで? なんで俺に教えてくれるの?』

『えー、それは内緒』

『じゃあさ、俺も内緒な』

目の前のグラスのビールをぐいっと飲み干して、杏に向き直る。

『俺はさ、』

『なになに?』

『俺は、廿日市の、さ、えっと』

杏が僕の手を握った。顔を伏せたまま。

廿日市?』

そのまま、僕の手を自分の顔に近付けていく。そこに涙が落ちた。

『聞きたいよ、内緒の事。教えてよ』

びっくりした、もちろん。いや、何が杏をそうさせるのか、僕には皆目見当がつかなかった。いや、本当はもう知っていたのかもしれない。とにかく僕は、

『俺な、』

緊張で喉の奥が貼り付いたように声が出ない。空いている方の手で寝ている奴から瓶をひったくり、一気にあおる。

『俺もさ、宇宙人!』

杏の手が、一瞬ビクッとなる。

『俺はオリンパス暗黒星団から来た、悪い方の宇宙人! ちなみにコードネームはS-3.5!』

杏が顔を上げる。ひどい顔だ。ポカンと口を開けて、だけど両の目尻から涙が頬を伝っている。それでもかわいいと思ってしまう僕は、本当にどうかしている。

『でさ、ここからが大事なんだけど!』

もう一度景気付けにビールを、と思ったが、もう空だ。仕方が無い。

『そんな悪い宇宙人なんだけど廿日市の事、好きなんですけど!』

うん、と言ったのかな、杏は。

杏が泣いている。また泣いている。これはいつだろう。駅だ。ホームの椅子に座っているのは僕だ。階段を降りてくる杏は、右手で、左手で次々と溢れる涙を拭っている。だから顔は見えないけど、紺色のダッフルコート、あれは「先輩」が杏にプレゼントしたものだった。それから、首から下げたミノルタα−7。間違うはずが無い。あれは杏だ。ああ、そうだ。これは初めて杏が泣いてるのを見た時だ。僕は声をかけられずにいる。ついに杏は隣に座る。杏が泣きながら何かを言っている。だけど、その声は蝉の声で掻き消されて届かない。蚊取り線香の匂い。見てみると椅子の下、僕と杏の間に蚊取り線香が置いてある。杏はTシャツにジーパン土門拳のどこかの子どもの写真。それを勝手に自分でTシャツにした「会心のTシャツ(海賊版)」。杏は笑っている。こちらを見て、そのままそのままと言う。わざとらしく舌をぺろっと出して、舌なめずり。ええ顔やでえ、少年。少年じゃねえっつうの。パシャ。杏のα−7から、ポラロイドみたいにフィルムが出てくる。ほら、と言って見せたそれにはちゃんと僕が笑って写っていた。

『かわいいなあ』


反射鏡の跳ね上がる音がして、その後に蝉が続く。

「お?」

ぼんやりとした視界の中、杏?

「起きてしまったぞ」

そう言いながら、あ、ミノルタ。肘をついてこちらにレンズを向ける。

パシャ。

「ふむ」

こんどは僕のカメラに持ち替えて、もう一度、パシャ。

「おはよう、少年」

ニッと杏が笑う。ああ、そうだ。

「俺、今、東京

あははは、と杏。

「そうだけどさ! 間違ってないけどさ! あはははっはは!」

寝ぼけた第一声がよほどツボだったのか、文字通り笑い転げている。

しばし、ぼーっと天井を眺め、窓の外を眺め、部屋の中を眺めした後、僕はずりずり起き上がった。Tシャツ一枚、下は何も着ていない。うーむ。それから携帯を見てみると既に14時。うわぁ、もったいねえ!限りある時間を…!

杏に目を戻す。

ひーひー言いつつ仰向けで息を整えている杏もTシャツ。なんか、Tシャツの杏を夢に見た気がする。ちょうど今みたいなTシャツに、…パンツ。Tシャツにパンツ一丁。だ。杏が。左手で目を覆い、右手でお腹を押さえ、息を大きく吸おうと一生懸命になっている、その胸を見ると、ああ。なんてこった。

ノーブラだ。

杏は僕の性欲の前に、あまりにも無防備だった。

−−

この小説には然るべき結末が用意されており、完成した暁には

『【上昇賞】女の子がエスカレーターをのぼっていくところで終わるオリジナルの小説・漫画を募集します。』

http://www.tokyo-esca.com/blog/archives/2012/04/11210000.html

に投稿されます。

EnverEnver2012/04/30 23:36Stay ifnomrative, San Diego, yeah boy!

jbibjkfzcrjbibjkfzcr2012/05/01 09:40T2azul <a href="http://tlnylsvpgwxf.com/">tlnylsvpgwxf</a>

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BhumaBhuma2013/07/20 22:07I'm not easily imepsserd but you've done it with that posting.

JocelynJocelyn2013/08/09 21:30What a neat <a href="http://mcrlcx.com">artilce.</a> I had no inkling.