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石麻二芯の文章読本 このページをアンテナに追加

2012-04-14

そして、見上げれば、彼女の目には蚊取り線香が映った

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品川に降り立ち、とうとう俺は東京に来たのだ、とひとりごちてみた。

階段を上がると人がまるで絨毯のようであった。

いや、理科の時間に見せられた、人間の消化管の蠕動や小腸の柔毛の方がふさわしいかもしれない、それがうごめく様は。

そんな街にのこのこ乗り込んでしまった。人の波と、それとどこまでも異質な自分を感じて、なんとなく運命という単語が浮かぶ。

しかしいくら運命とは言え、どちらが内回りでどちらが外回りか、そもそもどちらが目的地に続いているのか、それすら僕には見当がつかず、駅員に尋ねる。

間もなく滑りこんできた電車に乗り込み、ぎゅうぎゅうに押されながらメールを打つ。

停車駅を知らせるアナウンス。初めての土地だというのに聞いた事がある駅名ばかりで不思議な気分だ。乗客が乗り降りする度に外に押し出されてしまわないようにグッと身を固くする。

新宿で再び乗り換えだ。

ホームで辺りを見回せば背負ったリュックの大きさが場違いで恥ずかしくなる。

「走りだせ」と頭の中で歌の一節を呟いた瞬間、ドアが閉まった。

中央線がゴンと音を鳴らして走りだす。そしてまたメールを打つ。

彼女は吉祥寺で働いていると言っていた。

漫画でしか見た事が無かったその街を、開いたドアから見た。夕焼けに染まっていた。そこへまたドカドカと乗客がやってきて、扉が音を立てる。ほんの一瞬の事で、その街が彼女にふさわしいのかそうでないのか、僕にはよく分からない。

返信が届く。「おつかれー!南口で待ってるよ」。

周りの同乗者に顔を見られないように身を捩ろうとすると、リュックが当たって迷惑がられた。

「ひさしぶり!」

国立駅の改札を出た所。僕を見つけた杏は、まるで授業中のように勢い良く右手をあげ、そのままおいでおいでをした。薄い花がらの半袖シャツにパステルカラーのスカート。ティアードスカートとか言ったっけ? 正直かわいいと思う。くわえて足元は素足に、便所サンダルみたいなつっかけ。でもそれがなおさらかわいいと思ってしまうのだから、何と言うか、しょうがない。

「かばんおっきくない?」

「いや、他にいいのなくて」

「ほんとに鈍行で来たの?」

「だからそうだって」

「つかれたでしょ?」

「つかれたー」

「よしよし」

杏が僕の頭に手を伸ばしてきた。まだ帰宅ラッシュでも無いだろうに、それなりに人通りが多い駅の真ん前でそうされるのは相当な気恥ずかしさだったが、されるがままに。

「よく来たね」

「まあ、夏休みだからさ」

「ほんとに来るって思ってなかったから、ちょっとうれしいな」

杏は僕より頭一つ分背が低いのだが、時折こうやって僕の頭を胸の中に抱えるようにする。

「今、ちょっとって言った?」

「言った言った。あはは」

パッと手を離した杏の顔を見ると、満面の笑みで、それを見てしまうと、僕は何も言えなくなる。

「あ、カメラ持ってきたよね」

「え、ああ、うん」

リュックを下ろし、取り出す。

「あー、だからやめなよね、そのまま突っ込むの」

「いや、大丈夫だって、頑丈だし」

僕の手からカメラを奪うと、ストラップをかけ、慣れた手つきで設定を確認し、レンズキャップを外し、

「お、フィルター」

「うん」

「逆光だからいらないね」

と言いつつPLフィルターを無造作にシャツの胸ポケットに突っ込んで、構える。

「お前、俺にはあんな事言って」

「いいからいいから。笑って」

カシャッカシャッと二連写。

「うーむ、よしよし。やっぱり逆光は勝利だよね」

「頭上の余白は敵だ」

「トライXで万全」

デジイチだけどね」

「味気ないなぁ。はは。行こっ!」

そのまま杏に手を引かれ、西日の差す街を歩きだす。

「ここの駅舎、改装したばっかりなんだ」

「へー」

「前のは写真でしか見た事無いけど、前の方が好きだし、なんなら工事中の方がまだかっこよかったなあ」

「あ、ほら、あそこ」

「ん?」

「一ヶ月だけここでバイトした」

「ああ。牛丼作ってた?」

「作ってた作ってた。すぐ飽きた。あはは」

5ヶ月ぶりに会った杏は、相変わらずよく笑った。

二人の生活のリズムがあわず、最初はメールをするだけだった。それから約束した上で電話をかけるようになり、一度、両者とも携帯料金で破産しかけ、またメールのやり取りに戻り、スカイプなるものを知り、以来スマートフォンにそういったアプリを入れ、時には3時間、4時間話す事もあった。

「ここの喫茶店、最近お気になんだ。はい、そこ立って」

「え、また?」

「いいからいいから」

杏が笑いながらシャッターを切る。

ファインダーを覗いている時、どんな人間でも間抜けな顔になるというのが僕の持論だ。だけど僕は、杏が笑いながらそうしている時の顔が、間抜けどころかとても美しいと思う。たまらなく愛しいと思う。

大学の入学式の後、写真部のボックスに見学に行った時、杏は一人で留守番をしていた。

『お、もしかしてキミ、入部希望者?』

ボックス棟は木造で、杏が立ち上がった時も、床は派手に軋んだ。

『はじめまして、3回生二日市杏です。あん、じゃなくて、あんずね。』

右手を差し出され、少しためらったが握り返した。

開けっ放しの窓から、風に乗って桜の花びらが入ってきた。

入学初日に訪れるとは思わなかったが、まごうことなき一目惚れであった。

入居したてのアパートに帰って一人で悶絶した。姉と連絡を取ろうとしたが、通信状況が悪く、繋がらなかった。(今になって思えばそれは幸運だ。いきなり弟から一目惚れしたと言われて、どうしろと言うのだ。)

翌日、入部の意思を伝えにボックスに行った。よろしく後輩、と杏は笑った。二週間ほどして、杏が本当は1回生であると知った。

『大学デビューしようと思って、ついつい。あはは』

杏の愉快犯的な虚言はこれ以降も枚挙に暇がない。時にサークル全体を巻き込んだ大掛かりなものもあった。たとえば実は苗字も廿日市なのだ。これにはサークル全員が騙されていた。騙すと言っても何らの実害も無いのだが、まあとにかく、僕がその事を知るのは5月の連休明けの事だ。そしてその事を知った頃、杏は4回生の「先輩」と付き合い始めていた。そして僕も夏前に1回生の子と付き合う事になった。

「似たような三叉路がいくつかあるんだけど、駅から真っ直ぐ歩いて、ふたつめだから、間違えないように」

「おっけー。っていうか、駅からちょっと離れただけで随分静かだな」

「そうだね、隣の街が結構わいわいしてるけど、こっちは閑静な住宅街って感じかな。おっ!」

そう言って、傍を走り抜けていく小学生くらいの姉妹を、

「激写してやりましたよ、ええ」

早速今の写真を確認している。

「見て見て、思いの外いい感じ」

僕も一緒にディスプレイを覗く。

「うわ、気付かなかった。笑い返してくれてるじゃん」

「まあねー。子どもだって私の人柄が分かるんだよ。ついついあどけなく微笑み返ししちゃうってもんだよ。お姉ちゃんは6年生ぐらいかなー、かわいいなあ」

「お前さ、子どもの写真撮って道端でニヤニヤしてたら不審者だって通報されるぜ」

「願ったり叶ったり」

「願ってもないし、叶ってもいないだろ、それ。なんだよ、逮捕されたいのか」

「まあそれもいいかもね」

「最近は子どもを守ろうってあれが強いからな、最悪死刑もありうるな」

「それはそれでありがたかったりしてね」

「はは、そんなアホな」

笑いながら横の杏の顔を見た時、えっ、と。

杏は、唇を噛み締めていた。

強く、という感じではない。だけど、それはあまりにも杏にそぐわない顔だった。

と、目が合う。

「ん? どうした、少年、そんな顔して」

「え、あ、いや」

そんな顔って、お前の方こそ、

「行こっか」

僕が言う前に、何事も無かったかのように、杏は歩き出した。

「あ、うん」

えっと、何だろう。

「あ、そうだ!」

「え?」

「うちまで競争しよう!」

「いや、それ出来レースだろ!」

「あはは! 負けた方は裸踊りね!」

杏の家は木造モルタルのアパートの2階で、玄関から上がって階段を昇る。廊下はかなり薄暗く正直不気味ですらあった。しかし部屋自体は杏の以前の部屋と広さもさほど変わらず、しかも物の配置までほとんど一緒だったので、初めて来た気がしなかった。

「いいでしょ。っていうか、代わり映えしないでしょ。あはは。特に意識してなかったんだけど、同じ感じになっちゃってさあ」

あっけっぱなしの窓からは昏れかかった日を見て名残惜しくなっているのか、少し寂しげに蝉の声。

机の上の蚊取り線香の煙が、ゆっくりとたゆたいながら窓の外へ吸い込まれて行く。

杏は冷蔵庫から発泡酒をふたつ取り出し、

「まあ荷物を下ろしてこっちに来たまえ」

と窓際の棚に腰を下ろした。これも前の部屋からの付き合いだ。古物市で買ったかなりしっかりした作りの一品で、本来の用途とは違うのだろうが、窓際の椅子替わりとして杏は重宝していた。僕も向かい合うようにしてそこに腰掛け、発泡酒を受け取る。プシュッと同時に音がして、顔を見あって少し笑う。

「じゃあ、約10時間の長旅、お疲れ様でした! カンパーイ!」

ググッと半分ほど飲み干す。思わずプハーッと声が漏れる。そのタイミングまで同時になってしまい、また笑う。

「私たち、やっぱりお似合いなんじゃないかな!?」

くくっとお腹を押さえつつ、杏が言う。

「まあ、俺もそう思うよ」

「だよね? あー、やっぱり来てくれてうれしいなあ」

「うれしいって言っても、ちょっとなんだろ?」

「ううん、すごく」

たまらなくなって、出し抜けにキスしてしまった。

あ、という吐息を聞いて、もう一度唇を重ねる。もう一度。もう一度。もう一度……

コトッと音がして、杏の両手が僕の頭に伸びてきた。そのまま胸に引き寄せられる。杏が優しく僕を撫でる。

「杏」

「……ん?」

「したい」

「……何を?」

「セックス」

「うわ、単刀直入」

「じゃあ、まぐわいたい」

「いや、それ単刀直入具合変わってないよ!?」

「……石鹸のいい匂いする」

「え、あ、うん」

「シャワー浴びたの?」

「え、そうだけど」

「俺に会うから?」

「そりゃ、え、でも、そうだけど、シャワーなんていつでも浴びるじゃん、普通じゃん」

「でもこの匂い具合は迎えに来る直前に浴びたと睨んだ」

「そうだけどさ、ちょっともうやだ、変態っぽい」

「よいしょ」

杏の手をほどき、そのまま抱きかかえて持ち上げる。

「わ、ちょっとちょっと!」

不意打ちのお姫様抱っこに杏は慌てるが、側の布団にすぐさま下ろす。

「……なんか、強引」

「ごめん」

「いや、いいんだけどね」

顔を真っ赤にしている。それを見て、またたまらなくなる。キスをする。何度も。

杏の胸元に手を伸ばし、

「や、だめ……」

と、違和感。

「ん?」

「え?」

「あ、フィルター、入れっぱなしだ」

「ほんとだ。ごめん」

「少し会わないうちにおっぱい固くなったかと思った」

「ひどい! めっちゃやらかいですから!」

「ほう」

と言いつつ杏の胸ポケットからフィルターを取り出し、枕元に置く。

「今、取り出す時、ピクッってなったね」

「ちょ、もう! 全体的におじさんくさいよ!?」

たしかに杏は、相変わらずとてもやわらかだった。そして信じられないほど甘い。漏れる声に脳みそは痺れたまま平静には戻れない。名前を呼ばれる度に、心臓が早鐘を打つ。きつく抱きしめられた時に、これほど幸福に満たされるような相手が、僕にふたりと現れる気がしない。僕も幾度と無く杏の名前を呼んだ。そして抱きしめ返した。僕の呼びかけに応える杏が自分の腕に抱かれている事を、確かに腕の中に杏がいる事を、もしかすると今までで一番幸せに感じたかもしれない。そしてそれはつまり、今までの人生で一番幸せだったという事だ。

遠くでサイレンが鳴っている。いつまでも鳴り止まないと思ったら電話だった。

『ごめんね、寝てた?』

杏だった。

テストとレポートからようやく解放されて、いざ夏休みに突入せん!というその初日の事だ。前日、サークルの同期と飲み歩き、どうやって帰ってきたのかも覚えていなかった。

『ちょっと車出してくれないかな? ご飯おごるから。ビールもつけていいよ!』

杏だ。杏だ。僕はぼりぼり頭を掻きながら、落ち着け落ち着け覚醒しろ覚醒しろと結局は混乱する。

『すっごい掘り出し物なんだけど、持って帰れないんだったら売らないってお店の人が!』

午後二時の真夏の日差しが僕を射殺そうとする中、学部の先輩から譲ってもらったばかりの軽トラを飛ばした。

『ありがとう! ありがとう!』

何度も頭を下げられた。杏がこんなふうに人にお礼を言うのを初めて見た。ふたりでえっちらおっちらトラックまで運ぶ間、実の所、二日酔いで何度か戻しかけた。持ち手が無くて運びにくくて仕方が無いその棚に、僕がその後、しばしば座る事になるとは思っていなかった。これは2回生の夏の事だ。

部屋を掃除したら山積みの授業レジュメの間からフィルムカートリッジが転がり出てきて、いつもなら即座に現像するか、そうでなくても撮り終えた日付をメモするかしているのだが、何も無い。なんだっけと思ってボックスで現像した。これは2回生の春。新入生を迎え撃つ為の準備で僕らがそわそわしていた頃。ああ、そうか。僕はどうやら昔の事を夢に見ているらしい。そこに写っていたのはボックスでのクリスマスコンパの光景だった。無駄にでかいケーキや、先輩の実家から送られてきた大量のせんべいや、半裸になって机の上で踊っているOBやら。杏はサンタのコスプレをして笑っていた。ミニスカでないのはけしからんと散々けなされていたが、僕は杏が忠実にサンタをやっているのが、とても彼女らしくて、だからそっちの方こそ価値があるんだと、まあ口にはしなかったけど。フィルムの最後の方はピントも甘く、一見すれば被写体が判別できないような物もある。だけど僕には分かっていた。杏だ。ひたすら杏を写している。酔いに任せて。油断すると悶絶しながら外に飛び出しそうで、しかし黙々と作業を続けて、プリントまで一気に済ませ、洗濯バサミでパチパチ留めていき、腰掛けた時、見上げればそこにはたくさんの杏がいて、僕はずるずる椅子から滑り落ち、へたり込んでしまった。うー、とか、あー、とか唸りながら、どれくらいそうしていたか。

『大丈夫? 夜からずっと入ってるみたいだけど』

…なんてタイミングで。

『ねえ、大丈夫? ちょっと?』

そうなんだよ、実は僕は大丈夫じゃないっぽい。

『返事して! 入るよ? いい?』

勢い良く扉を開け、カーテンをまくり、眩しくて見えないはずなのに杏の顔がはっきりと分かる。馬鹿みたいな顔をして、だけど口が勝手に動く。

『ごめん、廿日市。好きなんだ』

それを聞いた杏は、

違うな。都合の良い具合に改変されている。あの時入ってきたのは確かに女性だったけど、僕が一番苦手にしていた先輩だった。

追い出しコンパ。もうほとんどが酔いつぶれて寝てしまっている。杏が、内緒だけどって言う。

『内緒だけど、私は悪い宇宙人から地球を護る為にミノルタ星からやってきたロッコール人なんだ』

『それ、ほんと?』

『ほんとのほんと』

『そんなの、俺に教えちゃっていいの?』

『いいのいいの。だけどみんなには内緒ね』

『なんで? なんで俺に教えてくれるの?』

『えー、それは内緒』

『じゃあさ、俺も内緒な』

目の前のグラスのビールをぐいっと飲み干して、杏に向き直る。

『俺はさ、』

『なになに?』

『俺は、廿日市の、さ、えっと』

杏が僕の手を握った。顔を伏せたまま。

廿日市?』

そのまま、僕の手を自分の顔に近付けていく。そこに涙が落ちた。

『聞きたいよ、内緒の事。教えてよ』

びっくりした、もちろん。いや、何が杏をそうさせるのか、僕には皆目見当がつかなかった。いや、本当はもう知っていたのかもしれない。とにかく僕は、

『俺な、』

緊張で喉の奥が貼り付いたように声が出ない。空いている方の手で寝ている奴から瓶をひったくり、一気にあおる。

『俺もさ、宇宙人!』

いきなりの大声に杏が身体をビクッと震わせる。

『俺はオリンパス暗黒星団から来た、悪い方の宇宙人! ちなみにコードネームはS-3.5!』

顔を上げた杏。ポカンと口を開けて、だけど両の目尻から涙が頬を伝っている。ひどい顔だ。それでもかわいいと思ってしまう僕は、本当にどうかしている。

『でさ、ここからが大事なんだけど!』

もう一度景気付けにビールを、と思ったが、もう空だ。仕方が無い。杏に噛み付きそうな勢いで、僕は言う。

『そんな悪い宇宙人なんだけど廿日市の事、好きなんですけど!』

うん、と言ったのかな、杏は。

杏が泣いている。また泣いている。これはいつだろう。駅だ。ホームの椅子に座っているのは僕だ。階段を降りてくる杏は、右手で、左手で、次々と溢れる涙を拭っている。だから顔は見えないけど、雪で肩を濡らした紺色のダッフルコート、あれは「先輩」が杏にプレゼントしたものだった。それから、首から下げたミノルタα−7。間違うはずが無い。あれは杏だ。ああ、そうだ。これは初めて杏が泣いてるのを見た時だ。僕は声をかけられずにいる。ついに杏は隣に座る。杏が泣きながら何かを言っている。だけど、その声は蝉の声で掻き消されて届かない。そして嗅いだことのある匂い。見てみると椅子の下、僕と杏の間に蚊取り線香が置いてある。僕たちは電車を待っている。杏はTシャツにジーパン土門拳の、どこかの子どもの写真。それを勝手に自分でTシャツにした「会心のTシャツ(海賊版)」。杏は笑っている。こちらを見て、そのままそのままと言う。わざとらしく舌をぺろっと出して、舌なめずり。ええ顔やでえ、少年。少年じゃねえっつうの。パシャ。杏のα−7から、ポラロイドみたいにフィルムが出てくる。ほら、と言って見せたそれにはちゃんと僕が笑って写っていた。

『かわいいなあ』

反射鏡の跳ね上がる音がして、その後に蝉が続く。

「お?」

ぼんやりとした視界の中、……杏?

「起きてしまったぞ」

そう言いながら、あ、ミノルタ。肘をついてこちらにレンズを向ける。

パシャ。

「ふむ」

こんどは僕のカメラに持ち替えて、もう一度、カシャッ。

「おはよう、少年」

ニッと杏が笑う。ああ、そうだ。

「俺、今、東京

あははは、と杏。

「そうだけどさ! 間違ってないけどさ! あはははっはは!」

寝ぼけた第一声がよほどツボだったのか、文字通り笑い転げている。

しばし、ぼーっと天井を眺め、窓の外を眺め、部屋の中を眺めした後、僕はずりずり起き上がった。Tシャツ一枚、下は何も着ていない。うーむ。それから携帯を見てみると既に14時。うわぁ、もったいねえ! 限りある時間を……!

杏に目を戻す。

ひーひー言いつつ仰向けで息を整えている杏もTシャツ。なんか、Tシャツの杏を夢に見た気がする。ちょうど今みたいなTシャツに、……パンツ。Tシャツにパンツ一丁。だ。杏が。左手で目を覆い、右手でお腹を押さえ、息を大きく吸おうと一生懸命になっている、その胸を見ると、ああ。なんてこった。

ノーブラだ。

杏は僕の性欲の前に、あまりにも無防備だった。

いろいろあって、ふたりでシャワーを浴びていたら、またもや神がかり的なタイミングでふたりのお腹が同時に鳴った。狭いシャワーの中でお互い苦しくなるほど笑い、杏がうどんをゆがいてくれる事になった。

扇風機の風を浴びつつ、窓際から街を見る。階下の部屋からはラジオの音が漏れ聞こえている。蚊取り線香の匂いを嗅ぎながらこうしていると、それこそ2年前の夏から何も変わらないようだ。

よっ、と立ち上がり、皿の上に乗っかった線香を手に取る。ぐるぐる渦巻いている。いつか見た銀河のように。僕や杏はいつまでもこうやってぐるぐるするのだろうか。もしふたりで手を繋いでくるくる踊り続けられるなら、それはなんて美しいだろう。だけどもう僕らは3回生でも4回生でもなく、僕は卒業しそこねた5回生。杏は中退したフリーター。そして、それぞれに背負っているものがある。僕らのぐるぐるは、きっとこの蚊取り線香と同じで、同じ軌跡は、

「おまはへー」

左手の大きめの平皿にはたっぷりとうどんを乗せて、右手に器と箸、口には麺つゆを咥えた杏を見て、僕は思わず笑い出す。

少し顔を赤くして、そんなに笑う事ないじゃんとか言いながら、あ、ごまとねぎ忘れてた、とか言いながら、そんな杏を見ながら、難儀な恋をしてしまったものだとつくづく思う。こんなにもかわいい人と、まっすぐに恋に落ちる事が、僕を浮き足立たせて、自分を保てなくさせてしまう。

『明日は、職場に連れて行ってあげる』

『お世辞だって言うかもしれないけど、みんなすごい面白い人たちだし、すごい優しいんだよ』

『恋人だって紹介したらみんな何て言うかな』

『カメラ持ってったら、いかにもって感じだから禁止ね』

昨日、セックスの後、まあ後と言っても何度もしたわけだけれども、昨日と言っても既に日付が変わったどころか、朝日は登っていたのだけれど、とにかく寝る前に、杏が言った。

だけど結局電車に乗ったのは21時過ぎだった。

『もうお店閉まっちゃったなー。連れていきたかったのに』

『まあでもいっか! とりあえずちょっと外、行こ?』

手を引かれて駅まで歩き、言われるままに切符を買い、ふたりでくっついて電車に揺られる。ふたりとも首からカメラを下げて、それが時々当たって、時々周りを気にもせずキスをした。

「蚊取り線香ってふたつが重なってひとつでしょ?」

「ん、なに?」

「いや、蚊取り線香。缶に入ってる時ってさ、らせんが2つくっついてるでしょ。あれって考えた人、すごいよねえ」

「うん。いや、いきなりどうしたの?」

「だって、さっき蚊取り線香見てたから」

「ああ、うん」

「好きだよね、蚊取り線香の匂い」

「杏の家で嗅いでからな。……前も言ったよな、確か」

「知ってる。覚えてるよ、あはは」

杏の唇が近くなる。そこに自分の唇を重ねる。

「私ね、ひとりだと、蚊取り線香と同じだったんだと思う」

促されるまま、快速から一度乗り換える。

「つまりね、ぐるぐる回って行き詰まりだったかなって」

杏は僕の頬にキスをし、それからギュッと抱きついてきた。

もう一度乗り換え。今度は地下鉄のようだ。

「君がいてくれたから、どん詰まりまで行っても、もう一度外に向えたんだって信じてる」

杏が、僕の頭に両手を回し、胸に引き寄せる。

ああ。

来る時が、来たんだな、と思う。

杏が泣いている。今まで聞いた事も無いような声で泣いている。

人目もはばからず。

だから僕も、泣くなよって言う。僕も泣きそうだけど、もうほとんど泣いてるんだけど、言う。泣くなよって言う。もう、ひどい感じで、人間じゃないみたいな声になってしまう。

人目もはばからず。

まあ、はばかる人目はもう無いんだけど。

いつの間にか、車両には僕らしかいない。

わんわん泣いている杏と、その杏に抱かれながら、杏にしがみついている僕しかいない。

電車が止まった。

大手町、とアナウンスが告げる。

「ごめんね」

多分そう言ったんだろう。僕には上手く聞き取れなかった。

杏が僕から離れる。僕は顔を上げる。

杏がα−7を構える。だから僕も愛機、E-5に手をかける。

「「大好きだ」」

ふたりとも同時に、地球では僕たちふたりしか知らない安全装置を解除した。同時にファインダーを覗き、同時に相手を視界中央に捉え、同時にピントを合わせ、同時にシャッターを切る。そうして、背負うものがあまりにも大きい、星間文明同士の威信をかけた戦いが始まった。

初手は出遅れたものの、躱す事ができた。しかしこちらも命中はしていない。

ちらっと後ろを見て、そうした事を後悔する。おそらく地上へと向かう階段があったであろう場所が大きく黒くえぐれている。壁、の残骸から水が吹き出し、エスカレーターを濡らしている。何という破壊力。絶対に、かすりもしてはならない。一目散に走り出す。無駄打ちさせなければいけない。もう一発。すんでの所で避ける。……杏は家を出る前に、36枚撮りのベルビアを装填していた。あと34発。あと34発? だけどもやらなければならない。「先輩」は勝てなかったが、僕は残り34、再び杏がシャッターを切り、今度は余裕を持って躱す、あと残り33発をやりすごせば、必ず勝てる。必然的にリロードが生じる銀塩で勝負に臨むのは、自分の腕に絶対の自信があるという事。その再装填に一分一厘の隙も無いだろう。では、死あるのみか。否。僕の勝利の方程式は完全に組み上がっている。

もはや音も聞こえない。色も感じない。完全にモノクロの世界。極限の集中が生むという、その世界を僕は逃げる逃げる逃げる。ただただ一つずつ積み上げながら、時に応戦し、しかし命中した所で杏には傷ひとつつける事はできず、大方予想していたとはいえ、彼我の技術・技量の隔たりには、呪いの言葉すら上ってはこなかった。そして、何をどうしたか、もう何も覚えてはいない。だがとにかく、僕は逃げ切った。そして、杏の36発目を、杏を視界から見失う事なく避けた。

全身をロッコール人特有の緑色に輝かせながら飛翔する杏は、息を飲むほどに美しい。

杏のα−7が役目を終えたカートリッジを排出すべく、フィルムの巻き取りを開始する。

極限の集中・緊張から、モードがさらにひとつ上の段階に達した。

色と、音が、戻ってきた。

この後の一瞬の為に、決してしくじらないように、命の全てを燃やそうとしている自分の精神が、僕には頼もしい。

人間の姿に擬態していた杏だって美しかった。心から愛していた。

ところが今、フィルムを理想的な長さだけ引き出し、巻き上がりのサインが出るのを待ち構える杏の姿はその比ではない!!

僕たちの星も発展途上星なりに必死にやってきた。それでも確かに僕たちの技術だけで杏、君たちには勝てない。

僕は杏に向けて、構える。

α−7のモータードライブが停止する。瞬時に再駆動。まさかこれまでとは。使用済みフィルムを取り出し、新たなフィルムを装填するその動きが、一切感知できない。だが、

だが、僕たちは、君たちの力を逆手に取るよ。

杏、すまない。

覗きこんだファインダーの中、杏は、構え始める。準備が整い次第、最速のタイミングで今度こそ僕を射抜くべく。α−7に遮られ、杏の顔が見えなくなる。

杏。パーフェクトリフレクトフィルターだ。

それこそが僕たちの切り札だ。君たちは知らない。つい一週間前に母星から届けられた起死回生の一擲。

特殊な偏光フィルターが、杏、君の力をそのまま君に跳ね返す。

杏の射線と僕の射線が完全に一致した。

そして、杏が撃つその刹那、僕はレンズに取り付けられたPLフィルターを、最適な角度に調整、あれ?

……あれ?

僕の手は空を切った。

フィルターが、ない?

次の瞬間、世界が何度もぐるぐると回った。

杏が僕を抱きかかえている。頭を撫でてくれている。

「全部、知ってたんだ」

杏の声が、温もりが、今はただただ聖母の慈愛のように降り注ぐ。

「私も、君もどうしようもないものを背負わされちゃったよね」

もう首から上しか感覚が無い。

あるいは首から下は本当に無くなってしまっているのかもしれない。

「もう一度入学式のあの日から昨日までをやり直したいな」

慈愛だけでは無かった。涙もまた。

「何度でも、繰り返したいな、無理だとしても、あはは……」

何度も、泣かしてごめんな。

それに、

あ。

この感覚。

僕はまだ手に持っていた。

安全装置をセットする。

なんだ、無傷じゃないか。

もしかして、杏さ、わざとこれだけは守ってくれたのか。

ははは、目ぇかすんできた。

サンタの時みたくピント合ってないかもだけど最後、撮らせてくれよ、また杏をさ。


ああ。


幸せだった。


カシャッ。


「ありがとう」


S-3.5が事切れた後も、廿日市杏はそのまましばらく動かなかった。

廿日市杏の上司にあたる人間が警護を引き連れ本社ビルから下りてくると、廿日市杏は手短に報告を済ませた。報告の最後、

「だけど、パーフェクトリフレクトフィルターなら、それはPLフィルターじゃなくて、PRフィルターですよね」

乾いた声で言ったが、それは地下鉄をごうと吹き抜ける風に邪魔され、誰にも届かなかった。

通例であれば、敵文明の戦士の亡骸とカメラは回収され、ミノルタ星へ送還される。しかし、今回S-3.5が使用したカメラは廿日市杏の予備兵装として転用される事が決定されていた。予め廿日市杏が上申し、それまでの功績を鑑みた連邦政府上層部が特例中の特例として、渋々ではあるものの聴許したためである。

廿日市杏は転がったE-5を手に取る。α−7とは逆向きにストラップを首にかける。敬礼と畏敬の眼差しを寄越す下級士官たちに軽く手を振り、口元だけは必死に形を崩さないように笑いながら、彼らの列を抜ける。そして、水漏れでどうにかなってしまわないように、廿日市杏はE-5をきつくきつく抱きしめ、ずぶ濡れになりながらひとりエスカレーターをのぼっていく。

東京の蚊取り線香(仮)その2

| 15:47 | 東京の蚊取り線香(仮)その2 - 石麻二芯の文章読本 を含むブックマーク はてなブックマーク - 東京の蚊取り線香(仮)その2 - 石麻二芯の文章読本

遠くでサイレンが鳴っている。いつまでも鳴り止まないと思ったら電話だった。

『ごめんね、寝てた?』

杏だった。

テストとレポートからようやく解放されて、いざ夏休みに突入せん!というその初日の事だ。前日、サークルの同期と飲み歩き、どうやって帰ってきたのかも覚えていなかった。

『ちょっと車出してくれないかな? ご飯おごるから。ビールもつけていいよ!』

杏だ。杏だ。僕はぼりぼり頭を掻きながら、落ち着け落ち着け覚醒しろ覚醒しろと結局は混乱する。

『すっごい掘り出し物なんだけど、持って帰れないんだったら売らないってお店の人が!』

午後二時の真夏の日差しが僕を射殺そうとする中、叔父から譲ってもらったばかりの軽トラを飛ばした。

『ありがとう! ありがとう!』

何度も頭を下げられた。杏がこんなふうに人にお礼を言うのを初めて見た。ふたりでえっちらおっちらトラックまで運ぶ間、実の所、二日酔いで何度か戻しかけた。持ち手が無くて運びにくくて仕方が無いその棚に、僕がその後、しばしば座る事になるとは思っていなかった。これは2回生の夏の事だ。

部屋を掃除したら山積みの授業レジュメの間からフィルムカートリッジが転がり出てきて、いつもなら即座に現像するか、そうでなくても撮り終えた日付をメモするかしているのだが、何も無い。なんだっけと思ってボックスで現像した。これは2回生の春。新入生を迎え撃つ為の準備で僕らがそわそわしていた頃。ああ、そうか。僕はどうやら昔の事を夢に見ているらしい。そこに写っていたのはボックスでのクリスマスコンパの光景だった。無駄にでかいケーキや、先輩の実家から送られてきた大量のせんべいや、半裸になって机の上で踊っているOBやら。杏はサンタのコスプレをして笑っていた。ミニスカでないのはけしからんと散々けなされていたが、僕は杏が忠実にサンタをやっているのが、とても彼女らしくて、だからそっちの方こそ価値があるんだと、まあ口にはしなかったけど。フィルムの最後の方はピントも甘く、一見すれば被写体が判別できないような物もある。だけど僕には分かっていた。杏だ。ひたすら杏を写している。酔いに任せて。油断すると悶絶しながら外に飛び出しそうで、しかし黙々と作業を続けて、プリントまで一気に済ませ、洗濯バサミでパチパチ留めていき、腰掛けた時、見上げればそこにはたくさんの杏がいて、僕はずるずる椅子から滑り落ち、へたり込んでしまった。うー、とか、あー、とか唸りながら、どれくらいそうしていたか。

『大丈夫? 夜からずっと入ってるみたいだけど』

…なんてタイミングで。

『ねえ、大丈夫? ちょっと?』

そうなんだよ、実は僕は大丈夫じゃないっぽい。

『返事して! 入るよ? いい?』

勢い良く扉を開け、カーテンをまくり、眩しくて見えないはずなのに杏の顔がはっきりと分かる。馬鹿みたいな顔をして、だけど口が勝手に動く。

『ごめん、廿日市。好きなんだ』

それを聞いた杏は、

違うな。都合の良い具合に改変されている。あの時入ってきたのは確かに女性だったけど、僕が一番苦手にしていた先輩だった。

追い出しコンパ。もうほとんどが酔いつぶれて寝てしまっている。杏が、内緒だけどって言う。

『内緒だけど、私は悪い宇宙人から地球を護る為にミノルタ星からやってきたロッコール人なんだ』

『それ、ほんと?』

『ほんとのほんと』

『そんなの、俺に教えちゃっていいの?』

『いいのいいの。だけどみんなには内緒ね』

『なんで? なんで俺に教えてくれるの?』

『えー、それは内緒』

『じゃあさ、俺も内緒な』

目の前のグラスのビールをぐいっと飲み干して、杏に向き直る。

『俺はさ、』

『なになに?』

『俺は、廿日市の、さ、えっと』

杏が僕の手を握った。顔を伏せたまま。

廿日市?』

そのまま、僕の手を自分の顔に近付けていく。そこに涙が落ちた。

『聞きたいよ、内緒の事。教えてよ』

びっくりした、もちろん。いや、何が杏をそうさせるのか、僕には皆目見当がつかなかった。いや、本当はもう知っていたのかもしれない。とにかく僕は、

『俺な、』

緊張で喉の奥が貼り付いたように声が出ない。空いている方の手で寝ている奴から瓶をひったくり、一気にあおる。

『俺もさ、宇宙人!』

杏の手が、一瞬ビクッとなる。

『俺はオリンパス暗黒星団から来た、悪い方の宇宙人! ちなみにコードネームはS-3.5!』

杏が顔を上げる。ひどい顔だ。ポカンと口を開けて、だけど両の目尻から涙が頬を伝っている。それでもかわいいと思ってしまう僕は、本当にどうかしている。

『でさ、ここからが大事なんだけど!』

もう一度景気付けにビールを、と思ったが、もう空だ。仕方が無い。

『そんな悪い宇宙人なんだけど廿日市の事、好きなんですけど!』

うん、と言ったのかな、杏は。

杏が泣いている。また泣いている。これはいつだろう。駅だ。ホームの椅子に座っているのは僕だ。階段を降りてくる杏は、右手で、左手で次々と溢れる涙を拭っている。だから顔は見えないけど、紺色のダッフルコート、あれは「先輩」が杏にプレゼントしたものだった。それから、首から下げたミノルタα−7。間違うはずが無い。あれは杏だ。ああ、そうだ。これは初めて杏が泣いてるのを見た時だ。僕は声をかけられずにいる。ついに杏は隣に座る。杏が泣きながら何かを言っている。だけど、その声は蝉の声で掻き消されて届かない。蚊取り線香の匂い。見てみると椅子の下、僕と杏の間に蚊取り線香が置いてある。杏はTシャツにジーパン土門拳のどこかの子どもの写真。それを勝手に自分でTシャツにした「会心のTシャツ(海賊版)」。杏は笑っている。こちらを見て、そのままそのままと言う。わざとらしく舌をぺろっと出して、舌なめずり。ええ顔やでえ、少年。少年じゃねえっつうの。パシャ。杏のα−7から、ポラロイドみたいにフィルムが出てくる。ほら、と言って見せたそれにはちゃんと僕が笑って写っていた。

『かわいいなあ』


反射鏡の跳ね上がる音がして、その後に蝉が続く。

「お?」

ぼんやりとした視界の中、杏?

「起きてしまったぞ」

そう言いながら、あ、ミノルタ。肘をついてこちらにレンズを向ける。

パシャ。

「ふむ」

こんどは僕のカメラに持ち替えて、もう一度、パシャ。

「おはよう、少年」

ニッと杏が笑う。ああ、そうだ。

「俺、今、東京

あははは、と杏。

「そうだけどさ! 間違ってないけどさ! あはははっはは!」

寝ぼけた第一声がよほどツボだったのか、文字通り笑い転げている。

しばし、ぼーっと天井を眺め、窓の外を眺め、部屋の中を眺めした後、僕はずりずり起き上がった。Tシャツ一枚、下は何も着ていない。うーむ。それから携帯を見てみると既に14時。うわぁ、もったいねえ!限りある時間を…!

杏に目を戻す。

ひーひー言いつつ仰向けで息を整えている杏もTシャツ。なんか、Tシャツの杏を夢に見た気がする。ちょうど今みたいなTシャツに、…パンツ。Tシャツにパンツ一丁。だ。杏が。左手で目を覆い、右手でお腹を押さえ、息を大きく吸おうと一生懸命になっている、その胸を見ると、ああ。なんてこった。

ノーブラだ。

杏は僕の性欲の前に、あまりにも無防備だった。

−−

この小説には然るべき結末が用意されており、完成した暁には

『【上昇賞】女の子がエスカレーターをのぼっていくところで終わるオリジナルの小説・漫画を募集します。』

http://www.tokyo-esca.com/blog/archives/2012/04/11210000.html

に投稿されます。

EnverEnver 2012/04/30 23:36 Stay ifnomrative, San Diego, yeah boy!

jbibjkfzcrjbibjkfzcr 2012/05/01 09:40 T2azul <a href="http://tlnylsvpgwxf.com/">tlnylsvpgwxf</a>

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